内容説明
人間存在を揺さぶる
気鋭の哲学者が仔オオカミと出会い、共に生活しその死を看取るまでの驚異の報告。野生に触発されて著者は思索を深め、人間存在についての見方を一変させる画期的な研究を結実させる。
本書は大学で現代哲学を講じる気鋭の哲学者が、一匹のオオカミとの出会いからその死を看取るまでのユニークな知的読物である。その魅力の第一は、もちろん、ブレニンと名付けられたこのオオカミとの共同生活に見られる「野生」の輝きである。ヒトやイヌに対するブレニンの意外な反応やエピソードの数々は、オオカミに対する偏見を洗い落すに違いない。また野生のブレニンの訓練法は、飼い犬に手こずる読者には大いに参考になろう。
が、本書の更なる魅力は、著者がこの共同生活から人間という存在の根本問題―死とは何か、愛、幸福とは何かの思索を深めてゆき、ニーチェやクンデラとともに従来の人間観を克明に検証してゆく論述過程にある。利益を計算し、ときには仲間を欺く「邪悪性」、この内なるサル性を暴くくだりや、永遠と瞬間をめぐる思索は、並のミステリや哲学書よりはるかに刺激的だ。この「哲学と野生との対話」 から浮かび上がるのは人間存在の新たな在り方であり、読者は自らの生について再考を迫られるに違いない。
世界的なベストセラーとなった前著(邦訳『哲学の冒険』筒井康隆監修)とならんで、本書も各紙誌から「驚異的な本だ。あまりに魅了され、本を手離すことができない」「人間についての見方を検討し直させる画期的な本」と絶賛されている。文体は一般向けで、読みやすい。確実に読者を「揺さぶる」だろう。