内容説明
職業:プロ野球選手、ただし給料0円。
華やかな世界とは対照的な、もうひとつのプロ野球があった。居場所を求め世界をノマドのように漂う若者たち。彼らの終わりなき旅の果てとは。
「そこでプレーする者たちは、スポーツセレブという蜜を吸うことは決してない。せいぜい彼らにできるのはその蜜を吸う夢を見ることだけだ。これから語ってゆくのは、マイナーリーグという「もうひとつのプロ野球」をめぐる物語である。」(本文「はじめに」より)
大観衆で沸き立つスタジアムで、一流の選手たちが力と技を競うプロ野球。そんな華やかな世界とは別の「もうひとつのプロ野球」があるのをご存知だろうか。
「関西独立リーグ」は2009年の設立当初、月給20万円という独立リーグとしては破格の待遇で選手を迎え入れたが、すぐに経営難に陥り、遅配や減給、さらには無配状態となった。それでも若い選手たちは「プロ野球選手」という肩書きにこだわり続けた。トップクラスの選手になるラインから既に外れている彼らにとって、ここでのプレーを諦めるのは「引退」を意味するからだ。
「もうひとつのプロ野球」はこうして、自分探しを続ける若者たちの、夢の延命装置として働く。米国に渡り、たとえ最底辺のリーグでもアメリカ野球に挑戦すること自体に幻想を抱く者もいる。さらにそのような考えの若者を食い物にするビジネスまで存在する。
著者は、そういった若者の増加が現代社会の雇用環境と結びついていることを指摘する。彼らに未来はあるのだろうか? 辺境の野球までをも丹念に取材し、プロスポーツの在り方に一石を投じる。全スポーツファン必読!
[目次]
第一章 独立リーグ|もうひとつのプロ野球
第二章 プロ野球ごっこのはじまり
第三章 「なんちゃってプロ」であることの救い
第四章 「夢」の集中治療室
第五章 ノマド・リーガー|グローバル化した野球界をさまよう若者たち
第六章 国境を越える「プロ野球選手」
第七章 「アメリカ野球挑戦」という幻想
第八章 「そとこもる」ノマド・リーガー
第九章 球歴ロンダリング
第十章 手を差し伸べる新たな野球ビジネス
第十一章 ノマド・リーガーの行きつくところ|下層社会への「降竜門」
終章 ノマド・リーガーという生き方
[著者略歴]
石原豊一(いしはら とよかず)
1970年生まれ。上智大学文学部卒、立命館大学大学院国際関係研究科修了。博士国際関係学。日本スポーツ社会学会、日本スポーツ産業学会、スポーツ史学会、日本アフリカ学会会員。著書に『ベースボール労働移民─メジャーリーグから「野球不毛の地」まで』(河出書房新社)がある。
*略歴は刊行時のものです