内容説明
藤野可織氏推薦!
現代アメリカ文学の新たな鬼才による、強い「中毒性」を備えた18の奇想短篇集。
「こんなの全然知らなかったけど、薄々こういうことなんじゃないかとも思ってた。忘れられた文明の記録を見つけた気分だ。はじめはとんでもなく珍しくて、読み終えるころには恋い焦がれるほどになつかしい。」
藤野可織
飛行機のハイジャック、ゾンビといった21世紀的モチーフのみならず、ページをめくる度に予測不可能な設定が飛び出す、「ポスト・アメリカ」世代の注目の若手による第一短篇集。
「操縦士、副操縦士、作家」:
ダラス上空で、語り手である作家の乗る航空機がハイジャックされた。さて何が起きるのかと思いきや、飛行機はダラス上空をひたすら旋回し続け、そのまま20年が過ぎる……。
「ミニチュアの妻」:
妻をミニチュア化してしまった男の語りによる家庭劇。小型化を専門とする仕事に従事する語り手は、どういうわけか偶然、家で妻をマグカップ大に縮めてしまう。家庭に仕事は持ち込まないと誓ったのに……と、いささか的外れな後悔の念を覚えつつ、主人公は妻を元に戻すべく悪戦苦闘する。
「僕のすべて」:
語り手はオフィス勤めのゾンビ。人肉を食べたいという衝動と日々戦い、自宅で大量のガラス製品を壁に投げつけては発散している。受付嬢に好意を寄せているが、相手は既婚女性、自分はゾンビ、所詮は叶わぬ恋だと思っていたところ……
「キャプラⅡ号星での生活」:
主人公は、宇宙に進出した〈新世界連邦〉により入植者が送り込まれた星で猛威をふるう数々のモンスターとロボットを相手に、激闘を繰り広げる。なぜ自分はこんな世界にいるのか? なぜ過去数分間しか記憶がないのか? 憧れの女性ベッキーとのデートは実現するのか? 自分は何者なのか?
「セバリ族の失踪」:
若き文化人類学者グラントとハモンドは、南太平洋の島に暮らすセバリ族の風習を研究、一躍学界の寵児となるが、ある日、二人揃って忽然と姿を消す。セバリ族そのものもいなくなり、周囲が騒然となるなか、ひとりの若い女性研究者がある事実に気づく。
どれほどの奇想でも、個人としての自立や選択の自由が許されない現実離れした状況に翻弄されつつ、生き延びようともがく人々の姿が滑稽かつ切実に描かれる。物語の快楽を見事なまでに伝える18篇。
[目次]
操縦士、副操縦士、作家
ミニチュアの妻
ウィリアム・コービン その奇特なる人生
早朝の物音
音楽家の声
ヘンリー・リチャード・ナイルズ その奇特なる人生
殺しには現ナマ
ハロルド・ワイジー・キース その奇特なる人生
動物たちの家
僕のすべて
キャプラⅡ号星での生活
フアン・レフヒオ・ロチャ その奇特なる人生
セバリ族の失踪
角は一本、目は荒々しく
オオカミだ!
さらば、アフリカよ
フアン・マヌエル・ゴンサレス その奇特なる人生
ショッピングモールからの脱出
訳者あとがき
[原題]The Miniature Wife and Other Stories
[著者略歴]
マヌエル・ゴンザレス Manuel Gonzales
米国テキサス州プレイノ生まれ。メキシコからの移民三世にあたる。コロンビア大学大学院創作科に進み、ジョージ・ソーンダーズ、エイミー・ベンダー、ブライアン・エヴンソンといった現代アメリカ作家たちに触れる。修了後は故郷テキサスに戻り、6歳から18歳を対象に文章の指導をする非営利団体の所長を務めるかたわら、創作に励む。2013年に本書を発表し、全米各紙誌で高い評価を受ける。現在、ケンタッキー大学大学院創作科で教鞭を執る。
[訳者略歴]
藤井 光(ふじい・ひかる)
1980年大阪生まれ。北海道大学大学院文学研究科博士課程修了。同志社大学文学部英文学科准教授。
主要訳書:D・ジョンソン『煙の樹』、S・プラセンシア『紙の民』、R・カリー・ジュニア『神は死んだ』、P・ユーン『かつては岸』(以上、白水社)、W・タワー『奪い尽くされ、焼き尽くされ』、D・アラルコン『ロスト・シティ・レディオ』、T・オブレヒト『タイガーズ・ワイフ』、S・フリード『大いなる不満』(以上、新潮社)、L・ダレル『アヴィニョン五重奏』(河出書房新社)
*略歴は刊行時のものです