内容説明
モザイクのように入り交じる文明圏
地中海世界を地政学的に位置づけ、経済的な特質を析出しつつ、
地中海地域に通底する世界観や基本的特徴を理解するための1冊。
本書は、地中海世界の歴史、社会、生活様式、文化、そして「アラブの春」にはじまるアラブ世界での政治変動の位置づけ、資源問題から教育問題にいたる幅広いテーマを扱う。先進国と発展途上国の間の経済的・社会的な格差、多様な民族性ゆえの繰り返される衝突や紛争、偏在する天然資源を巡る攻防など、地中海沿岸地域の現状理解を深めるための地政学的な視点を提示。
[目次]
はじめに
第一章 地中海世界の形成 ――分節化から地域統合へ
一 地理的制約を越えた地中海世界
二 地中海世界とは何か? ――地中海空間の「不均質性」と「分断化」
三 地中海世界概念の変容 ――「分断」から「統一」へ
コラム EU・地中海パートナーシップ・プロセスの展開と地域統合における役割
第二章 地中海世界の分裂と統一の歴史と地政学
一 「文明の揺籃の地」としての地中海世界 ――古代文明と帝国支配の幕開け
二 地中海世界の植民地支配の歴史とその遺産
第三章 地中海世界の社会、生活様式、文化 ――アイデンティティの危機と歩みより
一 地中海世界のアイデンティティを求めて
二 地中海世界の文化と政治 ――相互不信の超克
コラム 文化的遺産による発展 ――エッサウィラの事例
三 地中海の文化的遺産 ――安全保障と経済の役割
第四章 アラブの春 ――地中海世界の論理とその位置づけ
一 アラブ世界の例外 ――自由と独裁の狭間で
二 危機脱却にむけた地政学
第五章 水資源とエネルギー資源 ――地中海世界の挑戦と地政学的な役割
一 地中海世界における水資源の地域的不均衡と不安定化リスク
二 地中海世界におけるエネルギー資源の独立と安全保障
三 エネルギー・水資源の代替可能性
第六章 地中海世界における「ソフトパワー」の展開と国境を越えた違法薬物取引の現状
一 中東・北アフリカ地域(MENA)における情報メディアの役割
――情報操作か第四の権力か?
二 ブドウとオリーブ ――地中海の地政学
三 地中海諸国における教育制度の国際化
コラム ビジネス・スクールの地政学
四 マリファナと地中海におけるドラッグの地政学
第七章 将来への展望
一 新たな成長戦略を模索する地中海世界
二 紛争・紛争発生リスクを抱える地中海世界
三 地中海の発展に向けた四つのシナリオ
おわりに
訳者あとがき
略記号一覧
参考文献
[原題]Géopolitique de la Méditerranée
[著者略歴]
ブーシュラ・ラムゥニ・ベンヒーダ Bouchra Rahmouni Benhida
ESCAビジネス・スクール教授としての経歴を経て、現在はハッサン第1大学教授、経営幹部教育センター(EEC)局長、また、米国のニューヨーク大学、レバノンのカシュリーク聖霊大学(USEK)客員教授。専門は地政学・地理経済学。
[著者略歴]
ヨゥン・スラウィ Younes Slaoui
ESCAビジネス・スクール教授、モロッコの民間銀行(Attijariwafa bank)のコンサルタント業務や2008年に設立されたシンクタンク(Institut Amadeus)の創設者のひとり。専門は経営戦略。
[訳者略歴]
吉田敦(よしだ あつし)
千葉商科大学人間社会学部准教授、上智大学総合グローバル学部兼任講師。
専門は国際経済論、資源開発、アフリカ経済。
主な著訳書
『国際関係論へのファーストステップ』(共著、法律文化社)
『国際政治モノ語り―グローバル政治経済学入門』(共著、法律文化社)
『アルジェリアを知るための62章』(共著、明石書店)
『モロッコを知るための65章』(共著、明石書店)
ケネス・ポメランツ、スティーブン・トピック『グローバル経済の誕生―貿易が作り変えたこの世界』(共訳、筑摩書房)。
*略歴は刊行時のものです