内容説明
正統派を批判し続けた巨人の生涯
〈ゆたかな社会〉を超えて
「拮抗力」「依存効果」「社会的アンバランス」「テクノストラクチャー」
など独創的な概念で資本主義の本質に迫ろうとした異端派の肖像。
「ガルブレイスは、一連の著作活動を通じて、「拮抗力」・「依存効果」・「社会的アンバランス」・「テクノストラクチャー」などの新概念でもって現代資本主義の本質に迫ろうとしたが、その際に依拠したのは、数理的能力ではなく、多年にわたる現実観察によって磨き上げた自らの「直観」であった。かつてシュンペーターが自らの優れた「直観」に基づいて企業者の新結合(イノヴェーション)の遂行という資本主義の本質を把握したように、彼もまた「直観」の経済学者であった。」
本書より
ジョン・ケネス・ガルブレイスは我が国で人気の高い「異端派」経済学者である。彼が亡くなって今年(2016年)でちょうど10年。この間リーマンショックをはじめとした経済危機が相次ぎ、正統派経済学を批判し続けた彼の足跡が改めて注目を集めている。
ガルブレイスは既成の「通念」(「制度的真実」)にとらわれることなく、まず現実を直視し、その現実の分析ないし理解に必要と考える場合、自ら新しい概念を創造した点にユニークさと魅力がある。
『アメリカの資本主義』では「拮抗力」、『ゆたかな社会』では「依存効果」、『新しい産業国家』では「テクノストラクチュア」の析出というように、彼の概念は正統派経済学の狭い理論枠組を超えて、時代を鮮やかに切り取っていった。異端たるゆえんである。
一方、こうした彼への関心の高まりにもかかわらず、評伝の類はこれまでほとんど存在しなかった。本書は20世紀経済学を俯瞰しながら、ガルブレイスの思想と行動を位置づけた稀有の評伝になる。資本主義にガルブレイスはいかに向き合ったのか? 初期の名著『アメリカの資本主義』(新川健三郎訳、根井雅弘解説)と併せて手に取りたい一冊。
[目次]
序章
第一章 価格皇帝見習
一 ケインズ経済学のアメリカ上陸
二 価格統制をめぐって
三 アメリカ資本主義への関心
第二章 異端の経済学
一 正統と異端
二 依存効果と社会的アンバランス
三 ケネディ政権の内と外
第三章 大企業体制の光と影
一 「テクノストラクチュア」の台頭
二 「新しい産業国家」論争
三 計画化体制と市場体制
第四章 リベラリズムと批判精神
一 保守主義の復活に抗して
二 「満足の文化」への警告
三 経済学史の中のガルブレイス
終章
参考文献
[著者略歴]
根井雅弘(ねい・まさひろ)
1962年生まれ。1985年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。1990年京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。現在、京都大学大学院経済学研究科教授。専門は現代経済思想史。『現代イギリス経済学の群像』(岩波書店)、『経済学の歴史』(講談社学術文庫)、『シュンペーター』(講談社学術文庫)、『サムエルソン 『経済学』の時代』(中公選書)、『経済学再入門』(講談社学術文庫)他多数。
*略歴は刊行時のものです