内容説明
コスタ賞&サミュエル・ジョンソン賞受賞作
「この鷹が私を捕らえた。その逆ではない」
愛する父の突然の死。喪失のさなか「私」はオオタカを手に入れた――
コスタ賞、サミュエル・ジョンソン賞に輝いた鮮烈なメモワール。
「けれども今、私は父を失った。しっかり摑まえて。それまで、ジェスを作ることが象徴的な行為だと思ったことはなかった。今、この設備の壊れた奇妙な部屋で腰を据え、革を細く切り、ぬるま湯に浸し、伸ばし、表、裏、とひっくり返しながら仕上げ剤を塗っているとき、これはただの革の切れ端ではない、と私は思った。これは私を鷹に結びつけ、鷹を私に結びつける絆なのだ。私は手芸用ナイフを手にとり、片方のジェスを先端に向かってだんだん細くなるように、滑らかな長い一直線で切った。よし。[……]そして記憶が強烈によみがえり、彼が、父が部屋にいるのではないかと思えた。」
(「しっかり摑まえて」より)
野生との絆を結ぶ鮮烈なメモワール
幼い頃から鷹匠に憧れて育ち、最愛の父の死を契機にオオタカを飼い始めた「私」。ケンブリッジの荒々しくも美しい自然を舞台に、新たな自己と世界を見いだす鮮烈なメモワール。
2007年夏、「私」は雌のオオタカの幼鳥を自宅に迎え、「メイベル」と名づける。その飼育と調教を通じて思索を深めながら、父の死を乗り越えていくまでの1年余りのエピソードが30のユニークな章に綴られる。
オオタカと暮らし、戸外で飛ばす日々の営み、「私」の心の揺れ動き、その一瞬一瞬が生き生きと克明に語られる。鷹の生態をはじめ、周辺の気候や風景、動植物の描写はみずみずしく詩的で、とりわけ鷹狩りのシーンは息をのむ迫力である。
各章の随所に、英国の作家T・H・ホワイトの『オオタカ』と、彼の葛藤と矛盾に満ちた人生を「私」が語り直すような印象的なパラグラフが挿入される。半世紀近く前に生きた人物と作品に肉薄し、著者とホワイトの間には時代を超えた同志とも呼ぶべき関係が生まれ、感動を呼ぶ。
2014年度コスタ賞およびサミュエル・ジョンソン賞に輝き、各紙誌の年間ベストブックに選出、世界20か国で翻訳された、英米50万部超のベストセラー!
[目次]
第一部
1 辛抱強さ
2 失って
3 小さな世界
4 ホワイト先生
5 しっかり摑まえて
6 箱いっぱいの星
7 姿を消すこと
8 レンブラントの室内で
9 通過儀礼
10 暗 闇
11 屋外へ
12 アウトローたち
13 アリス、落ちていく
14 つながり
15 誰がために鈴は……
16 雨
17 熱
第二部
18 フリーで飛ぶ
19 絶 滅
20 隠れる
21 恐 怖
22 アップル・デイ
23 追悼会
24 薬
25 魔法の場所
26 時の流れ
27 新世界
28 冬の歴史
29 春の訪れ
30 大地は動く
あとがき
原 注
謝 辞
訳者あとがき
[原題]H is for Hawk
[著者略歴]
ヘレン・マクドナルド(Helen Macdonald)
イギリスの作家、詩人、画家。幼少期から猛禽を愛し、鷹匠になる夢を抱いて育つ。ケンブリッジ大学科学史・科学哲学科で学び、同大学特別研究員(リサーチ・フェロー)を経て、現在は特任研究員を務める。2007年に最愛の父を亡くした後、雌のオオタカの幼鳥を飼い始め、その調教の日々と英国の鷹狩り文化、自身の半生を綴った本書を2014年に刊行。同年のサミュエル・ジョンソン賞(ノンフィクション部門)およびコスタ賞(伝記部門)に輝き、後者ではその年の受賞作の中から年間最優秀賞に選ばれる。その他数々の紙誌で年間ベストブックに選出、世界20か国で翻訳されている。猛禽の調教をはじめ、BBC制作のドキュメンタリーや自然をテーマとするラジオ出演など多彩な活動に従事。他の著書にShaler's Fish (2001年), Falcon(2006年、白水社より近刊)がある。
[訳者略歴]
山川純子(やまかわ・すみこ)
名古屋に生まれ、鎌倉で育つ。慶應義塾大学文学部国史および美学美術史専攻、アリゾナ大学美術史(写真史)修士課程修了。訳書にB・アイゼンシュタイン『わたしはホロコーストから生まれた』(原書房)、M・O・フィッツジェラルドほか『インディアン・スピリット』(めるくまーる)、B・ブルンナー『月』、『水族館の歴史』(以上、白水社)、共訳書にV・ポマレッド編『ルーヴル美術館 収蔵絵画のすべて』(ディスカヴァー)、S・キャヴァリア『世界アニメーション歴史事典』(ゆまに書房)。美術展図録等の翻訳多数。
*略歴は刊行時のものです