内容説明
困難に拮抗し、ふたたび構築していく力
人によって困難な状況はさまざまである。それぞれの困難に向き合いその先に進むために。精神医学におけるレジリエンス研究の現状とは。
しなやかに跳ねかえす、レジリエントなこころとは
「レジリエンス」とは、困難な状況をのり越え、不都合な環境のなかで自らを構築し続ける能力を表わす。この概念により、何かが起きる前より後のほうが良くなれる、と考えられるようになった。本書はレジリエンス研究の歴史をふり返り、この言葉の定義や使用法をめぐるさまざまな相違点について指摘する。
[目次]
まえがき
序論
第一章 道具箱の歴史
Ⅰ 「たくさんの顔を持つ」言葉
Ⅱ アメリカにおける前史
Ⅲ レジリエンス研究の創始者たち―防御因子という疫学
Ⅳ パーソナリティ(人格)と環境の役割
Ⅴ レジリエンスとアタッチメント(愛着)の質
Ⅵ 感覚の生成
Ⅶ 適応能力モデル
Ⅷ レジリエンスの神経生物学
Ⅸ 精神分析との照合
第二章 家族、学校、地域―レジリエンスを通じて
Ⅰ レジリエンス因子
Ⅱ 家族
Ⅲ 学校
Ⅳ 治療チーム
Ⅴ 共同体と文化
第三章 成功のレシピ
Ⅰ 一つの時代の懸念、関心事
Ⅱ イメージ戦略―隠喩と撞着語法
Ⅲ 理想のつまった小さなブティック
Ⅳ 制度的可動性のベクトル
第四章 レジリエンスは確証、説明、予防できるのか?
Ⅰ モラル(道徳)のリスク
Ⅱ トラウマの世代間にまたがる波及を過小評価する危険性
Ⅲ 主体と環境との相互関係の複雑性を見誤ること
Ⅳ 創造性を理想化し、分裂の平凡さを見くびる危険性
Ⅴ レジリエンスを予測するリスク
Ⅵ 予測的な予防法の危険性―レジリエンス評価テスト
結語
Ⅰ レジリエンスと精神医学
Ⅱ レジリエンスと精神分析
Ⅲ レジリエンスと集合的リスク
日本の読者のための著者あとがき
訳者あとがき
巻末参考文献
[原題]La résilience
[著者略歴]
セルジュ・ティスロン
精神科医、心理学博士、パリ第7大学ドニ・ディドロ校研究ディレクター、科学技術アカデミー会員、「カタストロフの歴史と記憶のための機構(IHMEC)」創立者・会長。ヴァーチャル・メディアや科学テクノロジーが心的発達に与える影響についても造詣が深く、メディアや専門誌でも活発な発言を続けている。著書『タンタン、精神分析家を訪れる』(1985)はフランス国内でベストセラーとなる。邦訳に『恥―社会関係の精神分析』(2001)、『明るい部屋の謎―写真と無意識』(2001)、『タンタンとエルジェの秘密』(2005)がある。
[訳者略歴]
阿部又一郎(あべ・ゆういちろう)
1974年生まれ。千葉大学医学部卒業。精神保健指定医、精神科専門医取得後、渡仏(フランス政府給費生)。専門は臨床精神医学。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科博士課程修了(医学博士)。
現在、東京医科歯科大学精神行動医科学分野助教。東洋大学、高月病院非常勤。
主な共著訳書に「レジリアンス 現代精神医学の新しいパラダイム」(分担執筆、金原出版、2009年)、「フランス精神分析における境界性の問題」(共訳、星和書店、2015年)、「ケアの社会」(共訳、風間書房、2016年)、「双極性障害の対人関係社会リズム療法」(監訳、星和書店、2016年)、「稲妻に打たれた欲望」(分担訳、誠信書房、2016年)。
*略歴は刊行時のものです