内容説明
未来に鼓舞されるとともに不安に駆られた、一人の若者……
世界的権威による決定版
「31歳の誕生日の数日前、ヴェルサイユに辿り着いたこの男はいったい何者だったのか」
恐怖政治によって革命を破滅に追い込んだ独裁者でもなく、共和国の徳を謳いあげた「清廉の人」でもなく――等身大のロベスピエールへ。
「彼は、あたかも脳みそが歩いているがごとく、統一的で完全無欠な思想の代弁者であるかのように書かれることがあまりにも多く、情熱と当惑を抱え、堅い決心をしつつも自信がなく、国家的舞台と「故郷」への思慕に板挟みになっている、そういう一人の若者として描かれたことはなかった。自身のあごの半分を吹き飛ばした一発の銃弾、その後二十四時間続いた凄まじい痛みの中、一七九四年七月二十八日に彼がその生涯を終えたことを、われわれは知っている。一七八九年五月に始まり不可避的にこの日へとつながっていく劇的な物語、その全体の見取り図を、われわれは確かに作ることができる。ただこれらは、今だからわかることなのである。」
(終章より)
「恐怖政治」でフランス革命を破滅に追い込んだ近代最初の独裁者か、それとも共和国の徳を謳い上げた「清廉の人」か。ロベスピエールを描くということは、「伝記」の極北を行く作業といえる。本書は、これまでの血腥さを伴ったロベスピエール伝からは距離をとり、「青年」ロベスピエールに着目する。
実際、従来のロベスピエール伝は、彼の短い36年の生涯のうち、最後の5年間を集中的に扱い、最初の31年は最後の5年間の「善行」なり「悪行」なりを性格付ける還元的役割しか与えられなかった。
しかし、本書によれば、ロベスピエールも「未来の可能性に鼓舞されるとともに不安に襲われた一人の若者」にすぎず、その歴史的役割は「1789年の時点では予期されてなどいなかった」。そして、新たな目で眺めると、一番重要なのは「31歳の誕生日の数日前、ヴェルサイユに辿り着いたこの男はいったい何者だったのか」という問い掛けになる。
こうしたスタンスは革命後の叙述にも変化を与えずにはおかない。本書では、ロベスピエールは「恐怖政治」の主導者というより、同時代人の多くと同じく革命によって破滅に追い込まれた人物として現れることになる。革命史研究の世界的権威による決定版評伝。
[目次]
謝辞
序章 「著者の掌中の粘土」
第一章 「きまじめで、大人びて、勤勉な」少年——アラス一七五八〜六九年
第二章 「成功へのとても強い希求」——パリ一七六九〜八一年
第三章 「たいへんに有能な男」——アラス一七八一~八四年
第四章 「独身は反抗心を強めるようだ」——アラス一七八四〜八九年
第五章 「われわれは勝利しつつある」——一七八九年のヴェルサイユ
第六章 「アウゲイアースの家畜小屋掃除に挑戦しながら」——パリ一七八九〜九一年
第七章 「数多くの、執念深い敵ども」——アラス一七九一年
第八章 「人民の復讐」——パリ一七九一〜九二年
第九章 「諸君は革命なしの革命を望むのか」——パリ一七九二〜九三年
第十章 「完全なる再生」——パリ一七九三年七月〜十二月
第十一章 「変節する者たち」——パリ一七九四年一月〜六月
第十二章 「最も不幸な生を生きる男」——パリ一七九四年七月
終章 「この新しいプロクルステス」
関係年表/訳者あとがき/註/文献/人名索引
[原題]ROBESPIERRE: A Revolutionary Life
[著者略歴]
ピーター・マクフィー Peter McPhee
豪メルボルン大学大学院修了、専門はフランス革命史。母校で長きにわたって教鞭を執るとともに、フランス革命史研究を世界的にリードしてきた。本書のほかフランス革命の全体を描いたLiberty or Death: The French Revolution (Yale UP,2016) も白水社から刊行予定。
[訳者略歴]
高橋暁生(たかはし・あけお)
1971年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門はフランス革命史。現在、上智大学外国語学部フランス語学科准教授。『フランス革命史の現在』(共著、山川出版社、2013年)他。
*略歴は刊行時のものです