内容説明
人物とその相関関係で読み解くISの変遷
スパイ小説さながらの傑作ノンフィクション
ヨルダン、イラク、シリア、アメリカを舞台に、政府・情報機関・軍とテロリスト・ネットワークとの間で繰り広げられる激しい攻防――。200人を超える関係者らの生々しい証言と精緻な裏づけにより、混迷する中東の全体像を鮮やかに浮かび上がらせた必読の書! ピュリツァー賞(一般ノンフィクション部門)受賞作。[口絵4頁]
その男[バグダディ]は組織のナンバースリーから急遽リーダーに昇格したばかりだった。前任者たちが米軍とイラク軍の部隊による襲撃で殺されたのだ。前任の指揮官たちと異なり、この男は戦闘員ではなく学者だった。博士号も持つイスラーム法の教授。わずか四十歳だが年齢以上に厳粛なタイプの人物で、正確さを重んじ、話し方や服装に関するどんな小さな規定にもうるさかった。本名はイブラヒム・アワド・アル= バドリ。イラクの都市、サマラの保守的なムスリムの説教師の息子として育った。ジハーディストとして自ら選んだ名はアブー・バクル・アル= バグダディといった。 ( 本文より)
ピュリツァー賞受賞作!
2013年、ISILの指導者バグダディがカリフを自称し、イスラム国(IS)の「国家」樹立を宣言。このISの前身である「イラクのアルカイダ」は2004年、ヨルダン生まれの悪名高いイスラーム主義者ザルカウィによって設立された。
本書は、ザルカウィとその後継者を中心に、ISが生まれた背景から現在に至るまでを詳細に描いたノンフィクションである。街のチンピラがアルカイダとつながって国際的なテロ組織を主導するようになった背景には何があったのか。イラクのフセイン政権打倒に走った米国失策の誘因とは――。200人を超える関係者らの生々しい証言と精緻な裏づけにより構成され、丁寧な人物描写と複雑にからみ合った相関関係から、組織の構造や事件・事象の全体像を鮮やかに浮かび上がらせる。
中東取材20年のジャーナリストが独自の人脈を駆使し、スパイ小説さながらの手に汗握る筆致でISの変遷と拡大の背景を描き切った、調査報道の白眉。
[下巻目次]
注記
主要登場人物
13 「あそこはまったく見込みがない」
14 「やつをゲットできるのか?」
15 「これはわれわれの九・一一だ」
16 「おまえの終わりは近い」
第3部 イスラム国
17 「民衆の望みは政権打倒!」
18 「イスラム国なんて、いったいどこにあるの?」
19 「これはザルカウィが道を開いた国家だ」
20 「ムード音楽が変わり始めた」
21 「もう希望はなかった」
22 「これは部族の革命だ」
エピローグ
あとがき
謝辞
訳者あとがき
原注
[原題]BLACK FLAGS
[著者略歴]
ジョビー・ウォリック Joby Warrick
1960年、米国ノースカロライナ州に生まれる。テンプル大学卒業。『ニューズ・アンド・オブザーヴァー』の記者として96年、環境問題に関する報道でピュリツァー賞(公益報道部門)を共同受賞。96年以来、『ワシントン・ポスト』で中東問題を中心に、安全保障・外交・テロ・環境などの分野を専門とするジャーナリストとして活躍している。2016年、本書Black Flagsでふたたびピュリツァー賞(一般ノンフィクション部門)を受賞。邦訳書に『三重スパイ─ CIAを震撼させたアルカイダの「モグラ」』(太田出版)がある。
[訳者略歴]
伊藤 真(いとう・まこと)
ノンフィクションを中心に翻訳に従事。訳書にビル・ブライソン『アメリカを変えた夏1927年』(白水社)、ケネス・タナカ『アメリカ流マインドを変える仏教入門』(春秋社)、C・R・ジェンキンス『告白』(角川文庫)、P・グロース『ブラディ・ ダーウィンもうひとつのパール・ハーバー』(大隅書店)、ダライ・ラマ『ダライ・ラマ科学への旅』(サンガ新書)、R・ゲスト『アフリカ苦悩する大陸』、ワン・ジョン『中国の歴史認識はどう作られたのか』(以上、東洋経済新報社)ほか。
*略歴は刊行時のものです