内容説明
いま必要な〈知〉の領域を考える
何を学ぶべきかを考えるためのガイドブック
最新の自然科学の知見から、いま必要な〈知〉の領域を考える。東大駒場の人気公開講座より、学内外の研究者による20講義を収録。ノーベル賞受賞者から大ベストセラー執筆者まで、〈東大駒場〉で数百人を前に語られた科学と技術のこれから。
「教養」を意味するcultureという英語は「耕す」cultivateという動詞に由来する。したがって「フィールド」fieldという言葉も、「分野」「領域」である前に、まずは「畑」すなわち「耕すべき土地」という意味で解するべきだろう。〔……〕単にさまざまな「知」の配置を抽象的な見取り図として視覚的に把握するだけでなく、自分の足で複数のフィールドを歩き回り、畑ごとに異なる土の匂いを嗅ぎ、さらには指先で土に触れ、鍬を手にして実際に土地を耕してみることが必要なのだ。そうすることではじめて、「知識」という種子から「教養」という果実を実らせることが可能になるだろう。
——東京大学理事・副学長 石井洋二郎
越境する思考のために
流動性を増す現代。その課題に応えるはずの学問も複雑化し、なにを知るべきかを見定めることさえ難しい。いっぽう、「学問の社会還元」を合言葉にするかのように、とかく手早い成果が求められる。しかし、異質なもの、未知との遭遇は避けられないからこそ、長い目で事象をとらえる力が必要ではないか。
本書は、東京大学教養学部がこの問題意識に向き合うべく、高校生、社会人向けに開講する公開講座「金曜特別講座」を書籍化したもの。人文知や基礎研究に重きを置く教養学部。ときに過去の惨劇から反省し、ときにフィールドワークから他者に学ぶ。ニュートリノを探究し、いっぽうで医療や産業に研究を生かし生活に寄りそう。さまざまな時代や場所、日常から宇宙までを見つめる眼差しを、この講座は社会と共有してきた。いま必要な知がなにか、そのガイドとなるシリーズ二巻。「科学の最前線を歩く」では、ノーベル物理学賞受賞の梶田隆章氏をはじめ、学内外の研究者による講義を収録。異なるアプローチで事象を読みとくうち、学問領域の有機的つながりを実感できるだろう。情報が溢れる時代に、偏らない知識を摂取し、真理を探究し続けることの意義を考える。
[目次]
「知識」から「教養」へ 石井洋二郎
Ⅰ 生を見つめなおす
時間とは何だろう――ゾウの時間 ネズミの時間 本川達雄
近代科学と人のいのち 渡部麻衣子
死後の生物学 松田良一
歴史の謎をDNAで解きほぐす――リチャード三世とDNA 石浦章一
植物はなぜ自家受精をするのか――花の性と進化 土松隆志
iPS細胞からヒトの臓器をつくる――再生医療実現のための工学 酒井康行
Ⅱ 自然の叡智に学ぶ
飛行機はどうして飛べるのか――未来の航空機を考える 鈴木真二
柔らかいロボットをつくる――粘菌に学ぶ自律分散制御 梅舘拓也
匂い源探索ロボットをつくる――昆虫科学が拓く新しい科学と技術 神崎亮平
きのことカビとバイオマスと――微生物の酵素によるバイオマス利用 五十嵐圭日子
宇宙で電気をつくる――宇宙太陽光発電と地球のエネルギー問題 佐々木進
Ⅲ 日常に寄り添う
ヒトのこころの測定法 四本裕子
音の科学・音場の科学 坂本慎一
美肌の力学――工学でシワを予測する 吉川暢宏
建築のデザインという学問 川添善行
ネコの心をさぐる――比較認知科学への招待 齋藤慈子
Ⅳ 宇宙の根源を問う
超新星ニュートリノで探る大質量星の最後の姿――超新星爆発 川越至桜
素敵な数、素数 寺杣友秀
地球と生命の共進化――多細胞動物の出現とカンブリア爆発 小宮 剛
宇宙のかたち――数学からのチャレンジ 河野俊丈
ニュートリノの小さい質量の発見 梶田隆章
あとがき 松田良一