内容説明
【電子書籍化にあたり、地図・図版をカラー化しました】
実現した夢、かなえられなかった願いの数々
「鉄道王国」日本はいかにできあがったのか。地形図や公文書から明治以降の東京周辺の歩みを浮かび上がらせる。関東私鉄8社完結。
鉄道や軌道の許認可に関する戦前の公文書が鉄道省(鉄道院)文書である。(中略)一ページずつ繰りながら閲覧していくと、個々の事象は些末に見えることながら、それらの積み重ねを俯瞰してみると、一つの鉄道会社の黎明期から現在に至るまでの総体的な歩みがぼんやりと浮かび上がってくる。
(本書より)
鉄道会社の日々の地道な業務の積み重ねと、その許認可を担当する事務官たち。時には書類の不備で出頭を命じられた鉄道会社の社員が風呂敷包みをほどき、一所懸命に資料を示しつつ説明する場面もあっただろう。それらの小さな作業の積み重ねによって線路は建設され、日々の電車の運行は無事に行なわれ、今日の世界に冠たる「鉄道王国」は築き上げられた。
(本書より)
鉄道の来し方から〝いま〟を考える
鉄道や軌道の許認可に関する戦前の公文書、鉄道省文書の一枚一枚からは、事業成功を夢みる鉄道会社の担当者や地域の期待と合わせて、建設反対運動や戦時下で資材不足に喘ぐ姿も浮かび上がる。そこにはふつうの会社員や公務員、そして一般の沿線住民の声があふれている。
成田山新勝寺の参拝電車として計画された京成電鉄は、東京・上野への乗り入れを目指すなか、どこに駅を設置し、路線をどこに通すかで、参道の商店や地元町内会の反対運動への対応を迫られた。
関東初の電車としてスタートした京浜急行電鉄は、関東大震災で東京を上回る家屋が倒壊した横浜への乗り入れが大きな課題となる。また、戦時下の対日石油禁輸の影響で沿線の駅をいくつも廃止する一方で、軍関係の人員輸送のため新たな路線を建設していく。
神中鉄道、のちの相模鉄道は関東大震災の「復興特需」で砂利の採取・輸送事業が隆盛を極めたこの時代に、砂利の需要地である横浜までの延伸を目指す。その後は市街地が郊外に広がり、沿線の工場が激増していくなかで砂利より乗客が主となっていく。
関東の大手私鉄の歩みを、各時代の地形図と合わせて眺めることで、近代日本の姿が垣間見えてくる。全三巻完結。
[著者紹介]
今尾 恵介(いまお けいすけ)
1959年横浜市生まれ。中学生の頃から国土地理院発行の地形図や時刻表を眺めるのが趣味だった。音楽出版社勤務を経て、1991年にフリーランサーとして独立。旅行ガイドブック等へのイラストマップ作成、地図・旅行関係の雑誌への連載をスタート。以後、地図・地名・鉄道関係の単行本の執筆を精力的に手がける。膨大な地図資料をもとに、地域の来し方や行く末を読み解き、環境、政治、地方都市のあり方までを考える。現在、(一財)日本地図センター客員研究員、(一財)地図情報センター評議員、日本地図学会「地図と地名」専門部会主査。
著書は『日本鉄道旅行地図帳』、『日本鉄道旅行歴史地図帳』(いずれも監修)、『地図で読む戦争の時代』『地図で読む昭和の日本』『地図で読む世界と日本(白水Uブックス)』、『日本地図のたのしみ』、『日本の地名遺産』、『地図の遊び方』、『路面電車』、『地形図でたどる鉄道史(東日本編・西日本編)』など多数。