内容説明
社会史から哲学史へ
カントが覆い隠した問い
「啓蒙」はいかに生まれ、広がり、そして批判されてきたか? 宗教・境遇改善・公衆をキーワードに世界的権威が明らかにする。
すでにこの問いへの回答は与えられている。カントによる有名なあの定義だ(『啓蒙とは何か』1784年)。カントによれば、「啓蒙とは、人間が自らの未成年状態から抜け出ること」であり、そのためには「理性の公共的な使用」が求められるという。
その簡略さゆえに「啓蒙」の正統的理解として後世を席捲したこの定義には、しかし、大きな偏りがあったと本書は指摘する。
「光」という観念を共有しているとはいえ、アウフクレールングAufklärungについて語ることは、リュミエールlumiéresについて語ることとは全く異なるのだ。
もう一つ、啓蒙についての理解を歪めたのはフランス革命である。トクヴィルでさえも革命の知的源泉を啓蒙の「高度の抽象性」に求めた。しかし、啓蒙はむしろ革命によって抹殺されたというのが本書の立場である。
近年、イスラム教の台頭などを背景にポスト世俗化に光が当てられる。啓蒙はまさにその中核的な概念として参照されている。
こうした思想状況に本書は警鐘をならす。啓蒙はあくまで18世紀の思想運動として捉えるべきなのだ。「経済学の生誕」を大きな果実とする啓蒙への全く新しいアプローチ!
[目次]
日本語版への序文
謝辞
第一章 啓蒙
第二章 宗教との関わり
第三章 境遇の改善
第四章 公衆を啓蒙する
第五章 哲学と歴史の中の啓蒙
訳者解説
読書案内
文献
索引
[著者略歴]
ジョン・ロバートソン(John Robertson)
1951年生まれ。英オックスフォード大学で博士号取得。同大クライスト・チャーチ・カレッジ講師、同大セント・ヒュー・カレッジ講師などをヘて、ケンブリッジ大学歴史学部に政治思想史の教授として着任。主な著書にThe Scottish Enlightenment and the militia issue(John Donald Publishers Ltd), The Case for the Enlightenment(Cambridge UP)他。思想史研究を世界的にリードしている。
[訳者略歴]
野原慎司(のはら・しんじ)
1980年生まれ。2010年京都大学大学院経済学研究科博士後期課程研究指導認定退学。2012年同課程修了。博士(経済学)。現在、東京大学大学院経済学研究科准教授。主な著書に『アダム・スミスの近代性の根源』(京都大学学術出版会)、Commerce and Strangers in Adam Smith(Springer)他。
[訳者略歴]
林直樹(はやし・なおき)
1982年生まれ。2010年京都大学大学院経済学研究科博士後期課程学修認定退学。博士(経済学)。現在、尾道市立大学経済情報学部准教授。主な著書に『デフォーとイングランド啓蒙』(京都大学学術出版会)他。
*略歴は刊行時のものです