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トップ > クラブ白水社 > バックナンバー一覧 > こちら、白水社カレー部。

クラブ白水社 バックナンバー
こちら、白水社カレー部。

第1回 カリー・ホッター部長、かく語りき。
第2回 ピンキーが考える、カレーとは?
第3回 私の人生辛(から)かった・贋カレー・マイスター「わし」の修行時代
第4回 車だん吉のサイン色紙(もちろん自筆イラスト入り)の似合う、ステキなカレー屋さんを訪ねて
第5回 横濱カレーミュージアムの“エチオピア”を見習うべし(誰が?)
第6回 カレー早食い大会に参戦!
第7回 部員たるもの、休日もカレーなり。
第8回 ある日のカレーうどんについて
第9回 名古屋カレー紀行
第10回 (札幌curry紀行)
第11回 ソニンよ、君は何処へ行ってしまうんだ!
第12回 「喫茶店系」
番外編 「ヤーカー神の託宣」
ずるずると番外編 「冬の北陸路で旨いものに巡り合う」
番外編(さて何回目だっけ?) 「レトルトは便利なのだが……」
番外編4 妄想カレー日記



第1回 カリー・ホッター部長、かく語りき。

★★★★★“カーマ”のチキンカリー

 ランチタイムに、よく、同僚と連れだって、神保町のインドカリーの店“カーマ ”に行く。この店は、脱サラした(とおぼしき)マスターが夫婦(のはず)だけで 切り盛りをしている。
 メニューはいたってシンプルで、チキン、サブジ、野菜、キーマの4種類だけである。
 でも、それで十分。だって、注文するのは、いつも決まってチキンカリー(辛口 )だから。
 ちなみに、お値段は800円。上野や銀座で名を馳せる“デリー”のカシミールカリーに似たサラサラのルーではあるが、“カーマ”のチキンカリーは、カラメル が入っていないため色は黄色く、あらかじめ下ごしらえされた鶏肉には味がよくしみている(ジャガイモも、ね)。最初にスープ状のルーだけ口に含んでみると、ス パイシーな香りが広がり、頭がじんわりと熱くなってくる。食べているうちに、次第にライスにルーがしみこんで、リゾット状態になってくる。食感が微妙に変わってくるのがおもしろい。最後は、感謝をこめてできるだけスプーンできれいにすくい取る。週に一度、多いときには三度ということもある。軽い風邪気味のときは、このチキンカリーを食べると、体調が良くなったような気さえする。
 困った、こんなに特定のカレーに入れ込んでよいものだろうか。
 しかも、ここのアチャール(卓上に置かれた、トッピング用のピクルス)は、タマネギに加えて大根も使っていて、浅漬けのようでもあり、いつも多めにとってしまうのだ。そのほどよい辛さは、チキンカリーの皿自体に添えられた、甘めのピクルスとレーズンの付け合わせよりも、癖になる。というか、虜だ、わしは。
 そう言えば、アクバルさんというインド人も、週に何度も来ていたなあ。辛口と激辛の中間の辛さというオーダーをしていた彼は、一体、何者か? 最近見かけないが、帰国したのだろうか。そのかわり、インド亜大陸系の顔立ちをした3人連れを見かけるようになったが、それにしても、どうにも疑問が残るのだ。
 はたして、彼らは、カレーライスをインド料理と思って食べるのであろうか?
 ラーメンが本来の中華料理とは離れて発展してきたのと同じように、カレーライスもインド料理とは言えないであろう。
 カレーライスには、欧風とインド風というカテゴリーがある。小麦粉でとろみをつけ、肉と野菜を煮込んだのが欧風である。チャツネなど甘みが隠し味となっていることが多い。インド風は小麦粉は使わず、タマネギていどにとどめ、スパイスを効かせたサラッとしたルーというところだろうか。
 考えてみると、同じカレーと言ってもずいぶん材料も作り方も違うのである。神保町界隈のカレーということで思いをめぐらせてみるだけでも、“新世界飯店”の中華風カレーや“共栄堂”のスマトラカレーなどもあって、さらに、話はややこしくなる。タイカレーは、カレーの一種といってもよいのか? 家庭のカレーは欧風カレーの応用なのだろうが、北海道ではホッキ貝やホタテ貝まで入れてしまう。カレー南蛮として、いつのまにか、そばやうどんの領域にも進出している。定義されることをを拒否している存在と言い換えることができるのかもしれない。
 したがって、カレーライスは、もはや一個の思想なのである(と、むりやり結論づけて、今月の弁に代えさせていただく。ちょっと唐突なまとめの気もするが、いいだろう。わしは部長なんだから)。

【カーマ/住所:千代田区猿楽町1-2-3 電話:03(3233)8787 定休日:日曜祝】





第2回  ピンキーが考える、カレーとは?

 どうやらここ数年の間で大人が堂々とカレーの話ができる環境が整ったようだ。テレビや雑誌などではあいかわらずラーメンの人気はダントツ高いようだが、カレーを取り巻く状況も少しずつではあるが変化し広がりを見せている。だからといってラーメンvs.カレーというような発想は『どっちの料理ショー』にまかせておいて(たまに見ると面白い)、あくまでカレーに関してはオタクっぽくならずさらりと普通の感覚で語りたい。それが白水社カレー部なのだから。
 カレーは常に子供の好きな食べ物の上位を占めてきた。母親は子供の口に合わせてあまり辛くないカレーを作る。子供はその甘いカレーのなかにも仄かな辛さとスパイスの香りを感じ取り、『どうしてこんなにご飯がたくさん食べられるのだろう?』と不思議に思いながらも、いつのまにかカレーの虜となっていく。遊びに夢中な子供たちも、『今日はカレーよー』の母のひと声で一目散に家に帰ったはずだ。大きくなったら何になりたいのと聞くと、未だに『ぼくカレーになる』と何の疑念もなく答える子供が少なくないことからもわかるように、そのインパクトは強烈でしかも持続性が強い。そして年齢を重ねる毎にその辛さとスパイシー度は高まりをみせ、遂には白水社カレー部所属“エチオピア”80倍カレーを泣きながら食べる通称『ゲキカラ君』のような人間が誕生する。正に『カレーになった男』のひとりである。
 要するに日本の家庭・家族そのものがにカレー好きをつくりだす装置なのである。そこでは年齢別辛さステップアップ方式がシステマティックに組み込まれている。アドミニストレーターたる母親たちはカレーの辛さと子供の成長を無意識のなかにシンクロさせ『男の子なんだから辛くても我慢しなさい』とセクハラ兼トラウマすれすれの言葉と共にルーを盛る。これぞ正に食の通過儀礼だーっ、と古館伊知郎なら言うであろう。
 もちろんこの昭和を代表するカレー・イニシェーションにも弊害がある。<子供が好きなメニュー=カレー>というというイメージが定着してしまったことだ。ちょっと前まで大の大人がカレー好きですなんて言うと白い眼で見られたものだ。たとえばお見合いの席で女性に『好きな食べ物は?』と聞かれたら、『カレーです』なんて間違っても答えてはいけなかった。ましてやご丁寧に『カレーライスです』とライスをつけりゃいいって問題でもない。どうしてもお見合いの席で女性とカレーについて話したいのであれば、『趣味は?』と聞かれたら、『スポーツと読書です。料理も少し。カレーはちょっとうるさいかな』程度の会話にとどめておかなければならなかった。
 1960年代から70年代にかけて花開いたカレー爛熟期ではあったが、それは同時に子供という消費者が確立し、マーケットに組み入れられたことを意味する。食品メーカーは競って子供を意識した新商品を開発しテレビCMを流した。大人たちは高度成長期を築き上げ、われ先に豊かさを手にいれようとわき目もふらず働いた。しかし、豊かさの象徴は車・カラーテレビ・クーラーの3Cであり、ここにカレーが食い込む余地はなかった。しばらくカレーを謳歌できない冬の時代が続いた。
 平成に入りバブル経済を迎えるが誰一人としてカレーを語ろうとはしなかった。人々はおしゃれなイタリア料理店に通い本格パスタや様々なデザートに舌鼓を打った。なかにはイタリア料理店に鞍替えする老舗のフランス料理店も現れるほどであった。やがてバブルは弾け人々は普通の生活に戻っていった。
 手元にタイトルにカレーのつく2冊の本がある。『俺カレー』(監修 東京カリ~番長・アスペクト社・税別¥1,800)は、各界72人のカレー愛好家のごく私的なカレーへの想いが語られ、見た目も楽しい本だ。値段も安いし長年家庭料理の域にとどまっていたカレーをモザイクなしの実名で語ることはカミングアウトともいうべき行為である。それを可能にした東京カリ~番長の功績は大きい。我々一般人もこんな風にカレーを語っていいんだと勇気が沸いてくる一冊だ。近年カレー本の名著である。
 『私とカレーの幸福な関係』(角川書店・税別¥1,400)は、元銀行員でミュージシャンの小椋佳の初エッセイ。さすが元銀行支店長その文体は丁寧でミュージシャンだけにリズムがある(?)。文中著者は決して熱くカレーを語っているわけではないが、日常の生活のリズムとつかず離れずの関係でカレーへの想いが挿話されている。私も大いに共感を覚える。
 神田界隈にはカレー屋が多い。視点を変えてみると我々はカレーに囲まれて生きているといっても過言ではない。そんな慎ましいながらもピリリと辛いカレーとの関係を今後とも楽しみたいと思う。





第3回 私の人生辛(から)かった・贋カレー・マイスター「わし」の修行時代

 わしのカレー人生は、上野広小路「デリー」に始まる。5歳の頃だったか。
 「デリー」の椅子はスツールであり、背もたれがなかった(現在もない)。しかも、いまの店内よりカウンターが高かったように記憶している。
 5歳児は当然足が床にとどかない。背もたれがないのだから、バランスを崩すと脳天から床にころげ落ちる仕儀となる。首ぐらい折れていたかも知れない。
 わし自身は結局、落下はまぬがれたものの、ふりかえってみれば震撼させられる事態ではあった。
 その当時、「デリー」には、蛆虫のように切り刻まれた生チーズの砕片が薬味として備え付けられていた。このチーズをお子さま仕様の甘口カレーにまぜまぜして食べるのがこよなく好きだった幼年期。
 (現在は、キューカンバーと、オニオンだけになっているが。)
 中学生になると、学習塾の夏期講習の休み時間に、学友とともによく通ったものだった。
 このころになると、辛さも数ランク上の「インドカレー」などを注文するようになってくる。
 「おめえ、食い方汚ねえよ」「うるせえな。この骨付きチキンを手づかみで食うところがいいんだよ」「ところでさあ、もうエルビス・コステロっていうの聴いた?」「知らねえ。新人?」などと言い合いつつ。

 そう。思い出した。コステロはそのころ渋谷にあった、多分PARCO劇場の前身「西武劇場」で初来日公演を果たしたのだ。そして観客のノリのあまりの悪さに、マイクを蹴り倒して退場したんだった。ショックだった。当時、ロックのライヴといえども客たちはみんな椅子に座りっぱなしで、まるで映画でも見るようにシーンとしてステージを見つめていたのだった。1978年。

 閑話休題。
 デリーといえば、やはり「カシミール・カレー」である。このカレーの、同店における辛味度のランク付けは「極辛」である。辛さの横綱である。
 思い出すだけで、なんだかうっすらと顔面に汗がにじんでくる。
 若年の頃は、食えなかった。それはそれは辛すぎたのだ。
 やがて80年代になり、わしが大学生になると、巷に「20倍カレー」とかいうのが出回りだした。
 わしが通っていた池袋の学校近くにも、「ボルツ」というカレー屋があって、やはりマクシマムは20倍であった。わしは10倍が限界であった。
 20倍を食うアホの友だちは、ご飯を何皿もお代わりしながら決死の面もちだった。
 クリストファー・クロスやヴァン・ヘイレン、TOTOなどの響く店内で、わしは口をひん曲げながらスプーンを上下させていた。「うわっ、辛えー、ダメだー」「へこたれるんじゃない、S山。これぐらい食えねえから、おめえは女にもてねえんだ」
 わしも、当時はまだまだでした。

 さてどうだろう。21世紀。
 30代後半の年齢にさしかかり、ハッと気が付くと、ルー大盛りカレーばかり食べている。
 なぜルー大盛りか? 答えは簡単である。
 ライスはどうでもいいのだ。ルーを飲み下したいのである。
 しかも激辛で。可能な限り、スパイシーなそれを。
 神保町なら、白水社カレー部御用達の「エチオピア」「カーマ」「ボンディ」「メーヤウ」「トプカ」など、どこの店であろうとも、エクストリームリー・ホットなレヴェルで「ルー大盛りそのまま飲み」を楽しみたい、と思う。
 のみならず、理想的な食し方としては、ライスは多少残しておきたい。なぜならば、寂しげに食べ残された飯粒を皿に放置したままでカレー屋を後にするとき・・・
 カレーのソースそのものが好きな自分が再確認できる。しかもできるだけ大量の汗を流してすすりこみたい。
 「オレは炭水化物で腹を満たすためにカレーを食ってるんじゃあない。そんなのは、ガキの食い方だ」  この意地っぱり! ムリしちゃって! と言われれば、まあそれまでなんだが。
 その道の通、と呼ばれるには、なにがしかの「頑固さ」が要求される場合が多い、といえる。
 蕎麦をつゆ無し・薬味無しでザルから直に食うようなものかもしれん。

 さて、皆様は、「C O C O一番屋」にお出かけになりますか?
 わしはよく行きます。
 ご存知かどうか知りませんが、同店の、「うなぎカレー」とか「おでんカレー」とかには、とてもじゃないけれど、「どうしてなんだろうねえ」ってひきますよ・・・わしにはちょっと手が出せません。
 ですので「ホーレンソウ・カレー」を選びます。
 ここでも辛さが選べます。「すみません。15倍をください」「あのう、当店では10倍までしかお出しできません」「そうですか。やむをえん。ではその10倍をください。ライスは少な目に、200グラムで」「かしこまりました」
 ルーのかかった部分にさらに「辛さ増量パウダー」をふりかけ、汗水たらして食べる。わし流儀としてほとんどの飯を前述のように食いのこす。
 ううむ。こんなわしでも、時には飯がもったいない。トッピングとして用意されている「ガーリック・チップ」と「生卵」を注文しよう。飯の上にウスター・ソースをたらし、焦がしたにんにくの砕片をふりかけ、生卵をぶちまける。撹拌し、口に運ぶ。
 これはこれで至福だ。ウスター・ソースと生卵の組み合わせが、わしをして大阪は難波の「自由軒」のカレーを想起せしむるのである。

 さて、「40代からのカレー」についておしまいに考えてみました。
 やはり今後どんどん落ちていく臓器力のことをかんがみて、ウコン・しじみスープ・カキエキス・ヒジキなどが大量投入された「肝カレー」を開発してみたい。
 もともとカレーにはターメリックが主原料として入っているわけだから、ウコンと合わないはずがない。
 また、今後どんどん落ちていく肌ツヤのこともかんがみて、豚足、豚の尻尾、豚の軟骨などを大量に長時間煮込んで作り上げる「コラーゲン・カレー」も提案してみたい。カレーが不味いことが定石の、中華料理屋などでは、常備している材料を有効活用して、特色を際立たせることが可能なのではないだろうか。

 以上、このように、わしのカレー体験は、洋々たる展望と気概に満ちあふれておるんです。





第4回 車だん吉のサイン色紙(もちろん自筆イラスト入り)の似合う、ステキなカレー屋さんを訪ねて

 私がここカレータウンにあるこの会社に就職したのは、ちょうど10年前のことだ。現在はカレー部部長であるホッターさんも、当時は私の配属された営業部の先輩だった(今でもそうだっけ?)。

 入社した年のある日、ホッターさんと、私の同期のF、それに私の3人は、神保町でも名だたるインド料理店「マンダラ」を訪れた。10年前というのは、まだ白水社内にはカレー部は創設されていなかったし、神保町が「カレー天国」などとメディアでもてはやされることもない時代だった。私たちのカレーに対する認識も、当然のことながら大甘口であった。
 「マンダラ」のカレーの辛さは、5段階に設定されている。私たちが選んだのは、上から2番目のHOTだった。そこそこ辛いものが食える自信はあったが、一番上のVERY HOTを頼む度胸はなかったのだ。「マンダラ」のカレーは本格的でかなり辛い、という評判も聞いていた。でも、渋谷の「サムラート」あたりならいつも通ってたし、まあだいじょうぶだろう…。
 出てきたものを一匙口に入れて、後悔した。
 「カ・・・ラ・・・イ・・・・・・・・!!!」辛くて食えない。
 鍛え上げられた長距離ランナーであるFは、「これはからいですねえ」などと口では言いながらも、淡々とジョギングでもしているかのような軽快なペースで片付けていく。ホッターさんと私といえば、だらしなく汗と涙を流れるにまかせたまま、口中の大火傷を鎮めるために、ただただビールを流し込むしかなかった。

 今年になってから、ホッターさんと私は、10年ぶりに「マンダラ」を再訪した。今回はFではなく、ゲキカラ君が一緒だ。相変わらずの人気店である「マンダラ」は、ランチ時間ということもあり、店の外まで長蛇の列が出来ていた。
 待つこと20分、ようやく席についた私たちは、迷うことなくVERY HOTのチキン・カレーをオーダーした(正確にはホッターさんはHOTにした)。注文したものが出てくるまでの間、10年前の記憶がフラッシュバックした。あの時辛くて食べられなかったこの店のカレー。私たちは今回も泣きながら食べる羽目に陥るのだろうか。それとも、この外国人占有率の高く、普段の私たちのランチ予算を数百円はオーバーしている店のカレーを、その雰囲気に相応しく、落ち着いて楽しむことができるのだろうか。  この10年間、どれだけカレーに精進してきたかが、今問われるのだ。
 運ばれてきたものを一匙口に入れた。
 おや? 全く辛くないぞ。ホッターさんのHOTだけじゃなく、ゲキカラ君と私の頼んだVERY HOTもまるで辛くないのだ。
 そりゃあ、カレーというのは辛さが全てというわけではない。この時の「マンダラ」のカレーも、十分うまいというに値するものではあった。しかし、このカレーは、私たちが求めているものとはどこか違った。
 店を出て、救世軍前の交差点で信号を待ちながら、私は言った。
 「これはうまいインド料理ではあるけれど、うまいカレーとは違いますよね」
 まったく、自分でも何言ってるんだかわからない表現だが、ホッター部長はちゃんと察して、こう答えてくれた。
 「中華料理とラーメンは違う、みたいなものだね」

 週1回「エチオピア」通いから始まり、現在の週1回「カーマ」通いに至るまで、私たちは数百食のカレーを食い続けてきた。それが私たちの舌を変化させたのは間違いない。でも、それは幸せなことだったのだろうか。
 他のカレー部員同様、私も「カーマ」信奉者だ。「カーマ」のチキン・カレー激辛以上に好きなカレーは、他にどこを探しても見つからない。だから、ふと不安になることがあるのだ。もし、「カーマ」のオヤジさんが病気でもして、店を畳むようなことになったらどうしよう。いや、そんな縁起でもないことはないとしても、これ以上有名になって客も増えたら、味が落ちるなんてこともあり得なくはない。  お気に入りのカレー店は、数店はキープしておきたいものだ。それも家からすぐに食べに行けるような近所にあれば言うことない。今回カレー部の原稿をゲキカラ君から依頼されたとき、行ってみたいと思った店があった。地元・町田の「リッチなカレー・アサノ」だ。

 この店の名前を聞いたのは、独身時代に柿生に住んでいた、K出書房のOさんからだった。町田の仲見世通り商店街は、人が肩を触れずにすれ違うこともできないような細い路地に、洋品・アクセサリーから鮮魚・麺類までを扱う様々な小さな店が並ぶ、アーケード街というよりは穴蔵のようなところだ。その中でも最も通路の細い部分に、「アサノ」はある。Oさんは言った。「ポークカレー頼んでんのに、主人のじいちゃん、『ウチのカツカレーはうまいから』って、無理矢理カツカレー注文させるんだよー。食べてる間もあーだこーだ説明してくれちゃってうるさいしさー。でも、うまいことはうまいよ。老夫婦二人でやってるから、店がなくならないうちに早めに食べに行ったほうがいいかも」
 「dancyu」のグルメガイドにも載るくらいの有名店なのに私が行ったことがないのは、なんのことはなく、引っ越してきてから日が浅いからである。原稿の締切も過ぎてしまい、休日に慌てて食べに行った。お供は愛娘(2歳)。
 外から覗いたことはあったが、中に入ってみて驚いた。狭い。カウンターのみで、椅子は7席しかない。既に5席が埋まっており、娘は椅子を確保できず、私の膝の上に座ることに。本当は、「ポークを頼んでみてカツにさせられてしまう」というのを試してみたかったが、これだけ混んでいるとすんなり通ってしまいそうなので、はじめからカツカレーを頼む。

 待っている間に小皿に盛られたお新香が出てくる。ふと横を見ると、他のみなさんもお新香をパリポリしお冷やをすすりながらのんびり待っている。なるほど、確かに狭い店だが、満席になったらじいちゃんの処理能力では全く追いつかないだろう。
 子連れというのはめずらしいらしく、ばあちゃんから話しかけられる。「いくつなの?」「2歳ちょいです」「じゃあウチの孫と1つ違いだ」ばあちゃんが娘にもお新香をすすめてくれる。アホ娘も調子に乗ってパリポリやって、ばあちゃんに喜ばれる。
 そうこうしながら随分待って、ようやくカツカレーが出てきた。量が少ないが、几帳面に盛りつけられている。匂いもなかなかよい。入り口には「薬膳カレー」とか書いてあるのに棚にはギャバンの胡椒缶が山積みでちょっと不安にさせられたが、結構いろんな種類のスパイスを使っているようだ。その分味もピリッとしていて、シズラーのビュッフェのカレーならバカバカ食べる2歳児も、「からい~」と言って水に手を伸ばした。このように例えるとじいちゃんに殴られるかもしれないが、私がいつもおやつに食べる「C&C」に近い味だ。あれをもっと上品かつスパイシーにしたような感じ。なにしろ店名が「リッチなカレー」だからねえ。値段もリッチで「C&C」の倍以上だ。カツカレーは1400円。カツ自体はいまひとつだったので、次回はチキンを頼んでみよう。

 とりとめのないレポートになってしまったが、最後に朗報をひとつ。白水社カレー部を社内外により強く認知させるべく、新たなプロジェクトがスタートした。潤沢なカレー部予算(?!)をバックに、さらなるカレー道を究めるべく、さしあたって「横濱カレー・ミュージアム」見学ツアー(←ちょっと情けない)あたりから始まる予定だ。次回はカレー部員による「カレー・ミュージアム」クロス・レヴューなんてものがお届けできるかもしれない。なんて勝手に書いたらゲキカラ君に怒られるかな。まあ、カレー部の今後に乞うご期待!





第5回 横濱カレーミュージアムの“エチオピア”を見習うべし(誰が?)

 御茶ノ水からJRを乗り継いで、関内まで。行ってきましたよ、ついに。というか、ようやく? てな突っ込みも聞こえてきそうですが、お許しあれ。
 2002年2月12日火曜日、横濱カレーミュージアムには、わが白水社カレー部のホッター部長、すーちゃん、ゲキカラ君、コバチェビッチ、そして同僚の半裸さんが、結集したのである。
 そもそもは、「カレー部を名乗るからには、行っておかなきゃ不味いでしょ」という“必要に迫られての遠征”であって、さほどの期待をしていなかった(なにせ、会社の近所で食べられるカレーショップが、7軒中で2軒も出店している)にもかかわらず、横濱カレーミュージアムのウェブサイトにて事前に情報を入手していたわれわれの鼻息や荒く、「とりあえず4皿は制覇だな。」「とりあえず8階の4軒は任せろ。」「激辛チャレンジャーOKってなんだ?」「もう死ぬんじゃないかと思うくらい辛いカレーを食いたい!」「俺はトプカで吼えたい!」「ピンキーは黙ってろ」などなど、暴言愚言くちばしりながらも、結局のところ喜び勇んで、現地に赴いたのである。
 ちなみに、横濱カレーミュージアムは「食のテーマパーク」とのこと。横浜における「食のテーマパーク」の先輩としては新横浜ラーメン博物館が有名だ。新横浜ラーメン博物館に行った人が、「期待してなかったけど意外と満足できた」と口にするのはよく聞く話だが、はたして横濱カレーミュージアムは、どうなのか?

 横濱カレーミュージアムは、関内駅前から伸びる〈イセザキモール〉にある。有隣堂書店本店のすぐ近く(ダッシュで5秒くらい)。なんと、パチスロ&ゲームセンターがメインの建物の7階と8階に“入って”いた。たぶん運営母体は同じなのではないかと思われるのだが、カレーミュージアムへのアクセスには、1階から6階までのパチスロ&ゲームセンター内をエスカレーターで上るのではなく、1階からの直通エレベーターが推奨されている。
 直通エレベーターの前には、インドっぽい衣服に身を包んだ呼び込み人ふうの青年。エレベーターが送り届けてくれる先の世界について、やたらと笑顔で語りかけてくる。“カレーパスポート”とかいうものも手渡してくれるのだが、こちとら、そんな説明に耳を傾ける余裕なし。そもそも、はやる気持ちでいっぱいだということもあるけれど、とかく世知“辛い”世の中、「過剰なセールストーク」に対しては、どうしたって防衛的に反応してしまう。何か余計なものつかまされるんじゃないかとか、何かぼられるんじゃないかとか……疑念によって混濁した頭のなか、白水社カレー部で唯一インド旅行の経験のある不肖ゲキカラ、「これも、インドっぽさの演出か」と、独り言ちた。
 ふう。やっとのことで、エレベーターに乗り込んだぞ。少しばかりのあいだ落ち着きますかね、と思ったのも束の間、今度はエレベーターの中に備えつけられた液晶モニタの中から、インド人らしき人物が「ようこそ」とかなんとか日本語で語りかけてきた。いやはや、憎らしいばかりの演出よのお。しかも、どことなく東京ディズニーランドのホーンテッドマンションを連想させもするし。こんなとこからも「食のテーマパーク」は始まっているのな……と、うっすら涙目になってみたりもしていたら。
 「ナマステー!」
 7階に到着したエレベーターから降りるなり、インドの民族衣装サリーにくるまれた女性から、またもや少しく過剰な歓待の言葉を浴びせかけられてしまった。当然のことごとくわれわれは、まやもや気もそぞろに彼女の説明を聞いていたのだが、次の瞬間、愕然とした。
 「ハヌマーンは、今日はお休みです」
 われわれは、しばし呆然とするしかなかった。だってそうだろう(と言われても困るでしょうが)、幻の名店らしい“ハヌマーン”の極辛インドカリーを食べることこそ、今回の横濱カレーミュージアム詣における、われわれの一番の楽しみだったのだから。

 というわけで、はなはだ不本意ながらではあるのですが、前回予告したとおり、今回はクロスレヴューなるものに挑戦してみました。評者は、ホッター部長・すーちゃん・ゲキカラ君・コバチェビッチの4人。
 当日営業していた“スパイスの秘境”“エチオピア”“せんば 自由軒”“トプカ”“ぐーるMAN”“パク森”の6軒のうち、きわめて恣意的に、4軒を対象としました(ただし、4軒で4皿分食べたのはコバチェビッチのみで、ほかの者らは3食ずつ)。そして、食べくらべたのは、各店を代表するハーフサイズのカレー(500円)です。評者各自の持ち点は5点(5つ星評価)ということで、こんな塩梅です。

【スパイスの秘境】
 ホッター部長>★★   なめらかでやさしいカレーでしたが、印象に残りませんでした。秘境とはアマゾンなど自然が厳しく人が容易に入ることのできない場所のこと。“スパイスの秘境”というからには経験したことのないめくるめくスパイスの旅にいざなってくれなければ羊頭狗肉ではござらぬか!

 すーちゃん>星ナシ! こんなものはカレーではない。だって辛くない。汗も出ない。名古屋名物というが、名古屋だったらカレーは“ココイチ”にまかせておけばいいのよ。どうせ旨いもんなんかない土地柄なんだから。ライス全残しで店を出る。

 ゲキカラ君>★    「もう、こんなの食べたら、死んじゃうんじゃないかと思うくらい辛くしてください」という再三にわたる我が儘なお願いを聞き入れてくれたことには感謝しますが、まったく、ぼくには辛さが足りませんでした。というか、食べたら死んじゃうようなメニューなんて、出しませんよね、普通。でも、激辛チャレンジャーOKを標榜するからには、もっと辛いもの好きの要求レベルを知っていただきたい。

 コバチェビッチ>★★   名古屋へ出張に行ったので、中日ビルの本店でも食べてみようと思ったが、店がなくなっていた……。際だった個性はないが、標準的にうまいカレー。


【トプカ】
 ホッター部長>★★   ポーク・カリーのハーフサイズを食べましたが、水っぽくて今ひとつ。ニンニクと生姜の香りが立っている淡路町の本店(?)のムルギ・カリーであれば★はもう一つ増やすのですが(ちなみに、ムルギをたのむと食券を売っているお姉さんが「カライヨ~!」と言ってくれるのがうれしいし)。

 すーちゃん>★★★  ムルギー食いました。うう~ん、まあ、本店の味は出してたわね。さらっさらっなルー。ピチピチっとくるスパイス感。さっぱりとドライなトリのお肉。申し分なかったわ。でも、ほかのカレーには用意されているのに、なぜムルギーだけ「ハーフサイズ」がないのか? ここのミュージアムのアコギなところは、店イチ押しの商品に関しては「ハーフサイズ」を設定しないことだ! さっきの“スパイスの秘境”もそうだった。気にいらねえな。ライス三分の二残し。

 コバチェビッチ>★    お試しサイズは馴染みのムルギー(チキン)がなく、仕方なくポークを頼む。それにしてもフックが足りない。須田町の店のはもっとサラッとしていてビシッと辛いはずなのに。FC展開中のトプカの将来に不安を感じる。


【せんば 自由軒】
 ホッター部長>★★★  「ここのラ、ラ、ライスカレーはご飯にあんじょう、ま、ま、ま、まむしてあるよって、うまい」と言ったのは織田作之助作『夫婦善哉』の柳吉。この前、“カーマ”でキーマカリーを食べていた小柄なインド人は、ていねいにルーとライスをまぶしながら食べていた。あたかもビビンパであるごとく、よく混ぜて食べることが正統派なのか?

 すーちゃん>判定対象外 船場にもあったのね。わしはいつも千日前あたりの“自由軒”で食べてました。これはこれでいいのよ。いいんだけど、こんなところじゃなく、やっぱりミナミで食いたいわあ。カレーの質うんぬんではなくて、雰囲気モノの一品。天王寺で環状線降りて“やまちゃん”でたこ焼き食ってジャンジャン横町~あいりん地区を抜けて萩の茶屋から南海電車に乗って難波に着いて、夕暮れの道頓堀を歩んだあげく、このカレーにたどり着く、そういうものでわないかしらん。ナニワ言葉が飛びかう店内で、東京モンゆえ肩身の狭い思いもしつつ……。生卵&ソースでまぜまぜするので、ライスは残しナシ。

 ゲキカラ君>★    名物のインデアンカレーは激辛チャレンジ不可なのですね。つーか、ソースをどばどばかけるしかドーピングの手はないのですね。よく言えば、昔なつかしきドライカレーの味ということなのでしょうが、「いちげんさん」としては、どうも、癖にならない味に思えました。黄色いカレー粉の粉っぽさをこそ愛せる人向けかと。もしも再訪する機会があれば、他のメニューで激辛チャレンジしてみます。

 コバチェビッチ>★    小さな二人掛け用テーブルひとつひとつにデンと置かれたティッシュの箱が恥ずかしい。初めて食べたが、かけるように強制されるウスター・ソースの味ばかりがして、まるでもんじゃのようだ。カレーとは全く別の、謎の食べ物。


【エチオピア】
 ゲキカラ君>★★★★ 辛さは物足りなかったものの、「80倍」のオーダーを受けつけてくれたウェイトレスさんと調理人さんに感謝! 神保町にあるエチオピアの本店では、いつしか辛さ調合の上限は70倍までが厳守されることになってしまったので、2人の心意気が嬉しかった。また、思わず備え付けのアンケートに書いてきてしまったほど強調しておきたい点として、ライスもおいしかった! 本店よ、見習うべし。

 コバチェビッチ>★★★★ 今回の遠征での最大の収穫。辛さは抑えめだったが(40倍でオーダー)、神保町の本店と違って米がベタつかない(粒が立って、光り輝いている!)ので、ソースとうまくからんでバランスがよい。いつものチキンにしたが、お試しサイズなのでじゃがいもなし、鳥肉1かけ、ルウ多め。できればフルサイズで食べたかった。このレベルなら五つ星さしあげたいところだが、ハヌマーンで食べていないので評価は一部保留。

 追 記 “ハヌマーン”のカレーを食すことあたわず、無念さをかみしめるしかないわれわれは、高校球児たちにおのが境遇を重ねるがごとく、横濱カレーミュージアムのミュージアムショップにて黙々と、レトルトカレーを購うのでした。





第6回 カレー早食い大会に参戦!

 それは、町内会の回覧板にはさまれていた一枚のチラシから始まった……。

 「大好き、神田 2002」という、神田地区町内会連合主催のイベントへの参加を呼びかける内容であった。やや。なな、なんと! そこには、われわれにとって見逃しがたい情報――「カレー早食い大会」の文字が躍っていたのである。
 横濱カレーミュージアム詣でに引きつづき、白水社カレー部公式行事第2弾として、さっそく「カレー早食い大会」に参戦することとなったのは、もちろん、言わずもがな。

 今にも雨が降り出しそうな3月29日金曜日の午後6時、ふだんはフットサルの若者たちでにぎわう小川町公園に、白水社カレー部“代表”が乗り込んだ。会社から歩いて0分の場所。いわば、サッカーの試合で言うところの“ホームゲーム”だ。おいそれと負けるわけには、いかない。“代表”としての誇りをかけて戦わねば、なるまい。というか、サポーターから、玉子や、じゃがいもを投げつけられるような試合っぷりじゃ、まずいだろう。
 というわけで、しっかりとイントレを組んで設営されたステージ&大音量スピーカーを前に、気合いを入れて、ふるえていたのだよ。ぷるぷると。

 が、しかし。
 会場には、緑のジャンパーを着た地元町内会のスタッフと、早食い大会小学生の部に参加する子どもが、目立つばかり。
 「ライバルは小学生か。けど、手加減はしませんよ。大人げないと言われようが、がむしゃらに戦うのみ」
 窓口で受け付けをすます前から、ゲキカラ君は、すでに臨戦態勢に入っている。
 事前に正式エントリーしたのはゲキカラ君だけであったが、空きがあるらしいとのことで、急きょ、すーちゃん、コバチェビッチも加わることに。
 そうこうするうちに会社帰りのサラリーマンなどもじょじょに加わり、会場も次第に賑やかになっていく。飲み食いのための屋台も、営業開始。食券を購い、代表選手たちに振る舞うも、誰一人、ビールすら飲もうとしない。なんでも、試合が終わるまでは、飲食は控えると言うではないか。よーし、カレー部代表選手諸君、気合い充分だぁ!

 「カレー早食い大会」本番に向かって、セレモニーが進行してゆく。もちろん、わがカレー部代表選手たちは、町内会のお偉方や、千代田区長らの有り難い祝辞も、上の空だ。腕組みなんかして、気合い入れてるし。
 そして、ついに。三味線お神楽バンド〈東京ガールズ〉によるオープニング・アクトにつづき、最後はジャンケンで決めるという盛り上がりの小学生の部、レベルが高いとは言いがたい成人女子の部があり、いよいよ本番の成人男子の部が始まった。

 ここで、ルールを説明しておこう。まず、選手たちは、屋台で支給される「カレーの入った皿(&プラスチック製のスプーン)」を自ら手にして(各自の責任で)ステージへと上り、長テーブルに着席。基本的に、6人1組で予選を戦う。で、食べ終えたら、挙手。予選を戦う6人のなかで一番早くカレーを食べ終えた者1人だけが、決勝戦に進出できる。そういった按配(ちなみに、カレーはシーフード・カレー)。おそらくは、和歌山での事件やBSE問題などを踏まえて、町内会で採択されたのであろう。

 予選第1組には、ゲキカラ君が登場。カレーの入った皿を手に、勇ましく、ステージに現われた。始まる前から、カレーを吹いて、冷まそうとしている。さらに、試合開始の合図直前には、ペットボトルから水分補給し、口の中の火傷対策をしているではないか。じつに、抜け目ない。予選突破は確実かと思われたが、なんと先に完食したのは、ショルダーバックを大事そうに抱えたまま試合に臨んでいた、“陰のある”男。
 「作戦失敗でしたね。最初にライスを片づけてから、最後にルーのみ一気にノドに流し込もうと思ってたんですけど……。つーか、みなさん、試合開始前に、ライスとルーを、ちゃっかり、かき混ぜてるじゃないですか」(ゲキカラ君)
 つづいて、“金髪”すーちゃんvs“顔グロ”サラリーマンの戦いが見物の予選第2組。いつになく闘争心むきだしな感じがビシビシ伝わってきたのだが、すーちゃんも、あえなく敗退。
 「地獄を見たわあ。ノドに、つっかえるのなんのって。もう、ひさびさに、ほんと、必死の思いね。だって、皿のなかに顔をうずめなきゃなんないんだもの。悔しいわあ」(すーちゃん)
 つづく第3組。それまでの成り行きを見守っていたコバチェビッチも、先行した2人のカレー部代表の雪辱をはらすべく、やる気になっている。しかし、だ。おとなしく、もたもたと食べていると見えた“カエル顔”のハーフ・パンツ男が、なんと、10秒たらずで、手を高々と挙げたのだった。意外な結果に、会場は騒然。
 「ぜんぜん、だめですよ。勝利のラインは20秒と読んで、カレーをあらかじめかき混ぜて、四分割しておいて、ひと山に5秒ずつかける必勝作戦で試合に臨んだんですけどねえ」(コバチェビッチ)

 結局、そのハーフ・パンツ男は、決勝戦でさらにペースをあげ、8秒で完食し、他を圧しての勝利。
 予選で敗退し打ちひしがれていたカレー部一同は、レベルの違いに呆然とするしかなかった。
 派手にかき込むのではなく、無駄なく流し込む高度なテクニックの前では、小手先の作戦では、たちうちできないのである。

 小学生の部の優勝者にはプレステ2、成人女子の部の優勝者にはエルメスのバッグ、成人男子の部の優勝者にはDVDプレーヤーと、地元・千代田区の特産品(?)が賞品として授与されている華やかな舞台を尻目に、われらカレー部の3人は、参加賞の東京マドレーヌをしげしげと見つめるのであった。
 反省会では、この惨敗を教訓に、さらなる精進に励むことが確認されると同時に、ちょっとどうかと思うような作戦が提案された。
 「来年は、女装して、参加しよう」
(白水社総務部、東京都葛飾区在住)





第7回 部員たるもの、休日もカレーなり。

 白水社カレー部員の昼食は、少なくとも週に3日はカレーと決まっている。さらに当然ではあるが、スパイスの効いたかなり辛いカレーを選択することに決まっている。「エチオピア」「カーマ」「トプカ」「共栄堂」など、神田を、いや日本を代表するカレー店を順番に回っていると言ってよい。よって、我々はいつもカレー臭い。トイレで用を足していてもスパイシーな香りが漂う。

 そんなことはさて置き、休日のお昼時、さあ何を食べようかと思いながらつい入ってしまうのがまたカレー店だからどうしようもない。特に前日のお酒が残っているぼやけた頭には確実に刺激が必要だ。しかも朝食はまともに食べることはできない。きちんと空腹を満たしながら頭もシャキっとさせる食べ物、それはカレーしかない。

 私が住んでいる中央線沿いの荻窪はラーメン店が多いことで有名だ。青梅街道沿いの「春木屋」の前など休日には列を成している。そんな連中に一瞥をくれてやりながら、私がココイチ荻窪店に通いはじめてもう何年になるだろうか。ココイチとは正式には「カレーハウスCoCo壱番屋」のこと。従業員数625名、店舗数771店、年商466億円、愛知県一宮市に本社を置く一大カレーチェーン店だ。

 ココイチのカレーは、本格インド風カレーとは対極にある家庭的な味わいのカレーだ。カレー部の趣旨から少しずれるかもしれないが、安心して食べることができる間違えのない味わいのカレーだ。メニューのヴァリエーションも豊富で、ご飯の量、辛さ、トッピングなどを選択しながら自分だけのカレーを作ることができる。正にカレーのテーマパークだ。だが、それ以上に私をココイチの虜にした理由は別にある。

 気持ちよく食事ができる貴重な店でもあるのだ。従業員、さらにはアルバイトにいたるまで笑顔を絶やさず、ハキハキとした応対で接客してくれる。厨房の中での丁寧でキビキビした調理の様子も見ていて気持ちがよい。それだけで私のこころは癒され、世知辛い都会の人間関係からも解き放たれる。同じチェーン店でありながら、安くてうまけりゃ文句ないだろう的Y野屋の牛丼など、土曜の午後を過ごすにはあまりにも哀しすぎる。

 CoCo壱番屋のホームページから「平成14年5月期中間決算短信」をプリントしてみた。全30ページに及ぶ業績報告書である。いくつかの会社の決算報告書をプリントしてみたことがあるが、ここまで正確で詳細なものはそれほど見ない。ひと皿のカレーに注ぎ込む情熱と自信がひしひしと感じられる報告書である。ココにカレー産業、外食サービスの一つの理想のカタチを見出すのは私だけではないはずだ。





第8回 ある日のカレーうどんについて

 僕はものを食うのが好きだ。
 それも、できるだけ長い時間をかけて食うのが好きだ。
 きのうは、阿佐ヶ谷の「みや野」というところで「おまかせ蕎麦懐石」を何人かで楽しんだ。
 ものすごくゆっくりと、一品一品、料理が運ばれてくる。
 6時半から始まった会食だったが、ふと時計を見ると10時近くになっていた。
 そのくらいになって、ようやくシメの蕎麦が到着する。
 こういう時間を過ごすのがいちばんだ。

 さて、「長い時間をかけて食うもの」というと、僕が思い浮かべるのは「カレーうどん」だ。
 あのねっとりとしたカレーの分厚い層。
 それを掘り起こして、うどんをひっぱりあげる。結構重いんだよ、あれ。
 ぬたーっ、て感じ。
 で、ひっぱりあげたうどんを、口に運ぼうとするんだけど、できない。
 だって熱いんだもの。すこし冷めるのを待つことになる。
 その間、具の豚肉とかタマネギとか、つまんで食べたりして。
 カレー味だから、ごはんが欲しくなったりもして。
 「そろそろいいかな?」と思って、うどんをフーフー吹きながら二・三本ちぎって食べてみる。
 まだ熱い。でもなんとか食べ始められる。
 お店のおねえさんがドンブリを運んできてから、すでに4~5分ぐらい経過している。
 結局全部食べ終わるまでに、30分ぐらいかかっちゃうぞ。
 猫舌の人はきっと、もっとゆっくり食べるんでしょうね。
 でも、この「ゆっくりお食事」感がなんともいいのよね。
 やらなくっちゃいけない、現実のモロモロが待ちかまえていて、なのに着手するのが億劫なときなどは、特に。
 食べ終わっちゃうのが、惜しいくらいだよ。

 ここまで書いてて、思い出したのは、給食のこと。
 小学校、低学年のころ。
 僕はものを食うのがものすごく遅い子供だった。
 しかも偏食がすごかった。唯一ちゃんと食べられるのが、ザルソバだったりして。
 で、給食の時間は、まさに拷問ね。
 みんなが帰っちゃっても、僕だけ全部食べ終わらない。
 また、先生がきびしいのよ。ちょっとでも残ってるとウチに帰してくれない。
 で、献立が、たとえばカレーうどんの日だってあるわけ。
 食えないんですよ。いや、時間さえかければ、うどんとカレーは食える。どっちもキライじゃなかったから。
 でも、どうしても食えないのが:「豚肉の脂身」。
 これは絶対ダメ。くちびるにのせるだけで、「おえっ」とくる。
 だから先割れスプーンで、いつまでたっても、ツンツンつついているだけ。
 アルマイトのお皿の上には、もはや、その脂身のみが残ってる。
 でもダメなの。先生は元・海軍士官。駆逐艦に乗ってた人。
 「食べものを、粗末にするような子は、日本人じゃあ、ない!」
 そうゆう調子だからねえ……。

 ま、そーゆーわけで、「カレーうどん」は僕のこころの中では、今も昔も、スローフードNo.1 なのですよ。

 参考までに:熱いカレーうどんがおすすめの店は? 神保町「タネのタキイ」裏の「満留賀(まるか)」。辛いカレーうどんを食べたい方。小川町「六文そば」で、鷹の爪がフリーサービスなので、たっぷり振りかけて食べましょう(これは同僚のカレー部員「ゲキカラ君」に教わりました」)。





第9回 名古屋カレー紀行

 ナゴヤ。
 僕の世代が抱いているナゴヤのイメージは、タモリがつくったものに他ならない。それは、「エビフリャー」と「ミャアミャア言葉」に代表される、悪意に満ちたものだ。
 それをさらに悪化させてくれるのが、「ナゴヤは商売がやりにくい」という、業界の先輩諸氏のありがたいアドバイス。「ナゴヤに行ったら真っ先に○×書店に行かないと、『ウチに挨拶ナシでナゴヤで商売できると思ってるのか』と怒られる」とか。

 だから僕も2年前に自分がナゴヤ担当の販促員となったとき、その不幸を嘆いた…かというとさにあらず。
 ナゴヤといえば、

 「ピクシーオレ!」

 じゃないですか。

 僕がグランパではないチームを贔屓にしていようが、偉大なるサッカー選手ピクシーことドラガン・ストイコヴィッチを讃える妨げにはならない。4年前、僕が応援していたチームの弱点・3バックの右を鋭いサイドチェンジでピンポイント撃破していた、ピクシーの蹴るボールの美しい軌跡が今も目に浮かぶ。00年元旦、天皇杯決勝のゴールは語り草になっているもののひとつで、広島DFを嘲笑うかのように右へフェイント3つ、厭味なくらい落ち着きはらってGKの逆を突いたそのシュートは、130メートルくらい離れたホーム側ゴール裏で観ていた僕には、蝶がひらひらと舞っているようにしか見えなかった。瑞穂で生ピクかあ~。妖精のあの魅惑的なプレイを間近に見る機会が増えるかと思うと、勝手に口元が緩んで怪しい。

 そんなわけで、昨年秋にピクシーが引退するまで、何度か瑞穂で観戦することができた。大体グランパは弱かったけど、ピクシー見に行ってただけだから。でも、彼が去ってしまったナゴヤに、この先なにを期待できるというのだろう…。

 あ。カレー部の仕事をするのをすっかり忘れていた。

 ナゴヤの人はエビフリャーばかり食べているわけではない。味噌カツや味噌煮込み、櫃まぶし、台湾ラーメンなども有名だ。どれもぐちゃぐちゃしていて、見た目がよいとは言い難い。そのせいでまたナゴヤをバカにする人がいる。
 ところが、僕はこのローカル・フードが大好きなのだ。どういうわけか味覚が合う。だからナゴヤを訪れると、叶の味噌カツ丼とか、山本屋総本家の味噌煮込みとか、必ず食べなければならないものがいろいろあって、なかなかカレーを食べられないでいた。でも、カリー・ホッター部長から「カレー部なんだからちゃんとカレーを食べなさい!」と叱責されたので(ウソ)、ちゃんとナゴヤのカレー状況を、今まで食べた範囲でレポートしたいと思う。

 まずはナゴヤNo.1の誉れ高い、東区東桜の「カレーのモリ」のチキンカシミール。キレイにまんまるく盛られたライスに笑う。カレーは骨付きのチキン入りで、ソースの色といい味といい、湯島のデリーのカシミールに極めて近い。辛さも普通の人にはちょうどよいだろう。大変おいしい、と言っていい。問題は¥1280という高すぎる値段だ。だって、デリーだって¥900なのに。

 ナゴヤから他の都市へ移動することも多いので、駅周辺で食事ということもよくある。
 名駅の有名店といえば、水を使わずトマトだけで煮込んでいるという大名古屋ビル地下「ポンペイ」のインドカレーだろうか。さっぱりとした味わい。ここも¥1000と高い。
 毎日ビルの地下にあった「タンドゥール」は安心して食べられる感じで好きだったのだが、場所が変わってからは行っていない。
 メルサの地下の「らじゃたーりー」は、コックさんの顔でおなじみ、「オリエンタル」のカレーをベースにしているが、インドチキンカレーあたりは結構いける。

 最近食べたのが、中区千代田の「クミン」のビーフカレー。ウコンを常飲している僕の隣りのK氏が拝みたくなるような店名である。クミンのみが格別に引き立っているというわけではなく、種々のスパイスを使って丁寧につくった家庭カレーのおもむき。これもまずまず。

 と、まあこんな程度しかまだ食べていない。「スパイスの秘境」とか「チロリン村」とか「インド亭」などは、今後またご報告したいと思う。

 最後に、現時点でどこのカレーが一番か、と言えば、文句なしに

 「うどん錦」のカレーうどん

 だ。ここまで意地でもインド料理店は出さず、カレーライスのみ取り上げてきたのに反則気味だが、この店だけは外すわけにはいかない。
 ナゴヤ随一の繁華街(かつ風俗街)・錦のど真ん中にある、カウンターのみのこじんまりとした店では、客の9割はカレーうどんを食べているくらい有名。具はシンプルに豚&タマネギ。うどん自体も手打ちでうまいのだが、カレー汁が最高にクリーミーでたまらなく、おやじさんが鍋の中でカレーを溶く手つきさえも滑らか。普段うどんやそばを食べる時に大量の七味を投下するのは先月のすーちゃんに倣って同じなのだが、ここのを食べるときはそれを躊躇う。ここのに匹敵するカレーうどんORそばは、ウチの近所・町田の名店「満屋」の冷やしカレー南蛮そばしか考えられない。ナゴヤに行ったら最低一食は食べることにしている。
 錦のカレーうどんが食えるのなら、月イチの出張も辞さない(大ウソ)。でも、今度食べられるのは何ヶ月後かな…。





第10回 (札幌curry紀行)

日本全国カレー好きの皆さま、お待っとさんでございました(原稿遅れて、ごめんなさい)

 札幌には、おいしいスープカレーがたくさんあるらしい。しかも、激辛らしい。
 となれば、もう、いてもたってもいられまい。わが白水社カレー部は、札幌へと飛んだ。

7月5日 fri.
 会社終業後、羽田空港から新千歳空港へ。JR札幌駅から車で5分ほどの場所にあるホテルにチェックインしたのが、午後10時すぎ。ラーメン横丁で、とりあえず「駆けつけ一杯」。“魯庵”にて、激辛味噌ラーメン。真っ赤っ赤に辛いけど、意外に甘みたっぷり。油っぽい。「負けました」と、隣席の酔客が撃沈してゆくさまを尻目に、コバチェビッチとともに完食。

7月6日 sat.
 ホテルにて朝食バイキング後、近くの市場で新鮮な魚介とビールを胃袋にしっかり仕込んでから、地下鉄に乗り込み“マジックスパイス”http://www.magicspice.net/(札幌市白石区本郷通8南6-2)へ。
 11時の開店とともに、わが白水社カレー部の面々+うどん部+ヤキソバ部の、総勢7人がなだれ込む。「覚醒~瞑想~悶絶~涅槃~極楽~天空~虚空」と、辛さは7段階。“マジックスパイス”では、カレーを「魂の旅へと誘う辛汁料理」として位置づけているらしい。白水社カレー部の“過激派”の3人(ゲキカラくん、コバチェビッチ、すーちゃん)は、もちろん、超激辛の「虚空」をセレクト。ベジタブルとチキンで挑戦。

 うまい。スープを一口運んで、そう思える逸品。揚げ春雨がのっていたりチキンが丸ごと一本はいっていたり、見た目(盛りつけ)も楽しい。
 なるほど、辛い。が、まだまだ行けるゾ。日ごろ、神保町の“エチオピア”(最近では夏季限定のゴーヤカレー70倍)や“メーヤウ”(レッドカレーのプリックナンプラー20匙掛)で辛さ修業をしている身としては、セーフティーゾーンだ。
 すーちゃんは、滝のような汗をかいて、みごと、ナチュラルトリップ。自分の頭の左上に、人の顔が見えたと言っていた。
 次回は、ぜひとも、隠しメニューの「アクエリアス」に挑戦したい。青唐辛子100本分、虚空の4倍(?)とのこと。

 マジックスパイスを後にして、最寄りの地下鉄東西線南郷7丁目駅へ。わが白水社カレー部+うどん部+ヤキソバ部の面々は、胃腸の活動を促進させる第1波に次々と襲われ、代わる代わる、駅構内のトイレに駆け込んだ。もう、マジスパの威力に敬意を表するしかないですな。大通り公園へと向かう列車のなかでビッグウェーブに身を縮める者、第2波・第3波にふるえながらも大通り公園でトイレ巡礼を続ける我らに幸あれ! というか、これぞ札幌カレー紀行の醍醐味なりと楽しんでしまう我々は、バカである。

 大通り公園のはずれから少し足をのばして次なる店へ。
 スリランカ狂我国(中央区大通西15丁目、東京スタイル裏中小路)だ。
 たどりついたのは午後2時半すぎ。そこそこ、腹ごなしもできた。
 ここのお店は、辛さを、100番までの番号で選べる。今回の札幌カレー紀行に大いに参考にさせていただいたホームページ「札幌激辛カレー批評」http://www.kabasawa.jp/curry/curry_home.htmlでは「マッシュ・ベジタブル50番スープ大盛」が紹介されている。かなり、いける辛さらしい。よし、もうちょっと上を目指そう。何事も、鍛練あるのみだ。がしかし、いきなり頂上を目指すのも、はしたない。
 というわけで、「マッシュルーム&ナスの80番」を注文。
 地下洞窟に設けられた、秘密基地のような店のなかは、クーラーがきいていないため暑い。カレーを待つ数分のあいだ、体温の上昇にともなって期待もふくらもうというものよ。
 食してみて、淡路町の“トプカ”の味を連想した。癖になりそうな、好みの味である。だがしかし、もっと辛くてよいだろう。あっという間に完食。
 「100番にしとけばよかった」

 路面電車に乗ってススキノまで戻り、老舗の“千秋庵”で茶菓子などをたいらげ、狸小路をひやかしながらホテルまで。その後、タクシーを飛ばし、当日の夕食会場のサッポロビール園まで。ジンギスカン食べ放題コースをたいらげたあと、しめのカレー屋へ。
 “ピカンティ”(北区北13条西3丁目アクロビュー北大前1F)である。
 小雨降る、午後9時過ぎ。携帯電話で場所を確認しながら、どーにか到着。うわ、満員だ。白水社カレー部+ヤキソバ部+おやじギャグ部の総勢7人が、入りこめる隙はない。しばし、ウェイティング。で、よーやく席につき、サラサラ系薬膳カリーの「開闢」を注文。
 辛さは、「序章~知覚の扉~幻影~無量~アガリ」の5段階だという。もちろん、迷わず、「アガリ」を指定。

 うぐうぐ。うまし、うまし。札幌のスープカレーは、野菜が豊富でおそろしく具だくさんでコストパフォーマンスのよさといったらないのだが、「開闢」には、高麗人参や茴香が入っているというではないか。しかも、辛いし! てっきりプチトマトだと思って、油断して舌の上でグジュッとつぶしたら……酢漬けのハバネロ・ペッパーには、やられました。さすがの僕もしばらくヒーヒー言ったし、コバチェもかなり苦しんでいた。同じく「アガリ」を指定した、すーちゃんはというと、おやじギャグに怒ることに精いっぱいで、あまり辛さを感じなかったご様子。
 あのハバネロ・ペッパーは、まるで、地雷です。世界でいちばん辛いと言われる唐辛子が、数々の野菜に紛れて、何食わぬ顔して潜んでいるんですから。スリルたっぷりの味わいを堪能できて、至福の時を過ごすことができました。ありがとう。

7月7日 sun.
 雨。ホテルにて朝食後、狸小路のドンキホーテでビニール傘を6本購入。
 白水社カレー部の「たべもの探訪」ユニット(ピンキー、コバチェ、ゲキカラ)の3人は、雨のなかタクシーで、こりずにカレー屋へ。
 “マッサーラ”(中央区南8条西11丁目南9条通沿い)である。
 10時半に到着。「ベーコンとしじみ」ほか、よそじゃあ食べられない食材の組み合わせが自慢の、前代未聞のカレーを食べられる店だ。
 コバチェは「かき卵とトマト」を、残る2人は「ベーコンとしじみ」を注文。
 どれも、辛くはない。しかも、辛さは選べないし、手元のチリパウダーで各自調整するのみ(もちろん、容器がからになったことは言うまでもない)。が、それぞれ、昨日までの飲酒の疲れをやわらげ、いやしてくれる。店のインテリアなども含め、「カフェめし」といった感じである。ピンキーは、店主とおぼしき女性にご執心だった。

 再度タクシーに乗り込み、札幌くいだおれツアーを締め括るべく、「味の三平」(中央区南1条西3丁目大丸藤井セントラル4F)へ。札幌ラーメンの代名詞「味噌ラーメン」発祥の店である。ラーメンに、はじめてもやしをのせたことで知られている。唐辛子をゴマ油で炒め、とろろ昆布と練り合わせた自家製みそを使用した「鉄火麺」の一番辛いやつを頼んだところ、カウンターの中学生とおぼしき一群に、「人間じゃねえ」「ありえねえ」と、笑われる。が、もちろん、完食。食べ終わるなり、帰路につくべく新千歳空港へと急いだ。





第11回 ソニンよ、君は何処へ行ってしまうんだ!

 僕はTVっ子だから当然だが、元EE JUMPソニンのFirst SINGLE「カレーライスの女」のプロモーションビデオをみなさんも既にご覧になったことだろう。私も一度だけ見たのだが、率直に感じたままを述べる。

 『そこまでやらなくてもいいんじゃないのー。素っ裸にエプロンかよー。横乳見えてるじゃん。スプーン咥えちゃってさー。そんなの全然セクシーじゃないよー。頼むからやめておくれー。ソニンよ、君はソニンなんだよー。あのEE JUMPのソニンなんだよおーーー。』

 もうどれくらい前になるだろう。たまたま点けたTV、確かHEY! HEY! HEY!だったと思う。男の子と歌って踊っている君を初めて見た。いや君は飛んでいた。軽やかに宙を舞っていた。セーラー服姿で後方宙返りを極めていた(ような記憶があるが妄想かも知れぬ)。

 息を切らしながらも溌剌とした笑顔で歌う君に感動した覚えがある。TVの歌番組を見て感動することは滅多にないが、ソニンよ、君は僕を感動させた。君はできる子だ。この世界でやっていける子だとその時思ったのは僕だけじゃない筈だ。

 安っぽい衣装を着て、取るに足らない内容の詩をいかにも不幸な女ですというような表情で唄うことが人を感動させるとは思えない。モー娘の方が元気が出る分だけまだ益しだ。そもそも「カレーライスの女」ってタイトルが気に入らない。

 カレーライスが好きな女? カレーライスしか作れない女? 安っぽい女? 辛い女? インドの女? カレーでライスな女? ホセ・カレーラスの女? どうしたものかね。人生行路じゃないけどぼやきたくもなるよ。

 今回のつんく♂プロデュースが成功するか否かはもう少し様子をみてから判断したい。恐らくダメだろうけど。何でもかんでもつんく♂に頼めば良いってものじゃなかろう。

 まずい。カレーから遠く離れてしまった。

 先日、今日は遅くなるかしらと軽く食事でもしておこうと近くの「山頭火」で塩ラーメンを食して社に戻ると、営業部に数名の人影があり。もちろんカレー部の面々がほとんどだ。カリー・ホッター部長の隣の席に設けられたカレー図書館の書物を開いては、缶ビール片手にこの店はうまかったとか辛かったなどと無為に時を過ごしているようだ。カレーの写真見ながらカレーの話をしているものだから、どこかへカレー食べに行いきたいということになった。私は仕事があるからちょっと無理かなと言いたいところだが、夏休みで部長がいなくても部活を休むわけにはいかない。今日出来ることは明日もできるという先輩のことばを思い出し、すーちゃん、コバチェビッチと共に3名でカレーを食べに行くことになったのである。もちろんラーメンのことは内緒にして。

 最初に向かったのは泉岳寺「英国風特製カレー SUNLINE」(港区高輪1-5-15)。メニューは英国風特製カレー\1500のみ。事前の情報によるとかなり辛いがこの店では水を出さないとのこと。対策として我々は駅近くのスーパーで缶ビールを買い飲みながら店に向かった。

 白いペンション風の店の扉を開けカウンターに座ると、まず目に飛び込んできたのは店のカレーについての考えが書かれた紙である。各席に置いてある。店主によるとSUNLINEのカレーは薬膳であり医食同源の思想のもとで作られているとのこと。ビールの酔いが回ってきたところでそんなこと言われてもどうしようもない。

 大きな白い皿の左にご飯、右にさらさらスープ状のカレーが盛られている。すかさず丸眼鏡をかけたアラレちゃん似のお姉さんが食べ方を指導してくれた。『まずはルーのみを食べてみてください。辛さを確認してからご飯と混ぜて食べてください。当店では水をお出ししておりません。食べ終わって2時間ほどするとお腹がぽかぽかしてきます。それまで水は飲まないで下さい。』我々が緊張の面持ちで一言も発せず食べたことは言うまでもない。デザートの抹茶アイスを食べながらスーちゃんがふと漏らした『甘くない』の一言にアラレちゃんの口元がほほ笑んだことを私は忘れない。

 勢いづいた我々が次に向かったのは白金台「LINO」(港区白金5-10-10)。髭を蓄えたご主人がいらっしゃいと迎えてくれた。カウンターの中には沢山お酒が並んでいる。我々はテーブルに着くとすぐに生ビールを頼んだ。アラレちゃん御免なさい。

 薬膳カレー\1500と和風カレー\1200をひとつずつ頼んで3人で食べることにした。どちらもルーは銀色の器に盛られている。薬膳カレーの色は濃く、かなり多くのスパイスを使っているだろうことは見てわかるほどだ。しかもご飯と混ぜても辛いだけではなくしっとりと馴染んでおいしい。和風カレーはダシがしっかりと効いていてもちろんご飯にぴったりだ。長ネギが入っているが、夏は堅いので油で炒めてから煮込んでいるそうだ。ワイルドな風貌の割には小技の利くご主人である。満足して3名は次の店へ。

 さすがの我々も最後は麺で締めようということになり、日本そばの店を探すがお目当ての店が見つからず、恵比寿「ちゃぶ屋」(渋谷区恵比寿1-7-3)へ行く。つけ麺の店である。私のこころの拠りどころと言っても良い。それがつけ麺だ。

 この店はかなり濃い味付けの店なので、いつも若い人たちでいっぱいだ。我々四十間際の体力では太刀打ちできそうもないと思いつつも、勢いで入ってみる。つけそば醤油\650をそれぞれ頼み、サイドメニューの焙り焼きチャーシュー\250も2つオーダーするが、3人とも麺をすすり上げる音が間延びしている。つけ麺は全員完食。焙り焼きチャーシューが一枚残ったので、3人で譲り合うが誰も手を付けようとはしなかった。

 私は結局、風ひとつ吹かない東京の熱帯夜を歩き疲れつつもラーメン、カレー、カレー、つけ麺の都合4食を食べた。何が私をしてそうさせるのかはわからない。

 最後に一言。ソニンよ、テレビに媚びるな。そのままの君でいいんだ。




第12回 「喫茶店系」

 ラーメンには、「家系」というジャンルがあるが、カレーにも、あまたの専門店やインド料理店に対抗して、厳然とあるのが「喫茶店系」である。雑誌のカレー特集では必ず取り上げられるわが町の「エチオピア」が喫茶店であることをついつい忘れてしまうが、かつては自家焙煎コーヒーを売りにしていた。現在でもその名残は、店名とともにドリンクセットやデザートに痕跡をとどめている。「トプカ」も店のつくりはどうみても喫茶店ふうで、メニューにはコーヒーの文字がある。そこに出自の秘密が隠されているかもしれない。(ちなみに、夜になるとトプカは居酒屋になってしまう。ただし、もろキュウやめざしといった定番メニューに加え、パパドゥ、チャナチャール、サモサなどの「インド風つまみ」という一群の品目が異彩をはなっている。)先日、出張の折に入った新潟大学前の「キャフェ・ウェスト」もバロック音楽の流れる典型的な喫茶店であったが、おいしいマサラ・カレーを食べることができた。

 さて、喫茶店からなぜカレーの名店が誕生するのだろうか。そもそも、そのようなお店にはこだわりの主人が多い。当然、コーヒーの豆の選定から、焙煎方法、そして淹れ方と徹底的に凝る。そうするとコストがかかってしまう、しかしいくらなんでもコーヒーでは価格に反映させるのも限界がある。そうすると、ランチなどの食事のメニューで客単価を上げることが必要になってくる。
 喫茶店の軽食と言えば一般的にはサンドイッチやスパゲッティが思い浮かぶが、こだわりの主人はそこで思いつく。カレーだ、しかも欧風カレーではなく本格的なインドカレー。そこには、探求しつくすことのできないスパイスの沃野が広がっている。研究し、工夫することのできる余地は無限とさえ言える。もともと香りや味には自信のあるこだわりの主人が、自分の思うベストの味を作り上げてみたいと思わないはずがない。かくして、主人のこだわりから名品が生まれてくるのである。

 かくのごとき妄想を巡らせながら行ったのが、千駄木は団子坂上交差点近くの「カフェ・ラ・カンパネルラ」である。名前の通り喫茶店である。入口の看板には「淹れたての珈琲」とあり、どこにもカレーの文字はない。知らなければ、ただの喫茶店かと通り過ぎてしまう。店内は明るく、モーツァルトがBGMで流れている。席に着くと品の良いおばあさんが、注文を聞きに来る。ここのカレーは、チキン、野菜、チキン+野菜のミックスの3種類。そして、カレー単品ではなくデザートのヨーグルトと飲み物のセットになっている。チキンと野菜は950円、ミックスは1100円と値段はやや高めである。しかし、値段にはひるまず、ミックス・カレーのセットをオーダー。
 カレーは、レーズンを上にちらしたライスとは別盛りで、どんぶり様の器にたっぷりと出てくる。やや赤みをおびたルーは、スパイスの香り高くほんのりと辛い。鶏肉、にんじん、じゃがいも、の他に大根が入っているのがユニーク。この大根が意外とカレーに合う。スパイスが過度の主張をすることなく、やさしく調和している。食後に出てくるコーヒーも、ネルドリップのおいしいものであった。きっと、ここの主人は客にコーヒーも飲んでほしいので、カレー単品ではなくセットにしているのであろう。決してただの添え物ではないおいしいコーヒーが飲めるのは、喫茶店系ならではである。値段にも納得しながら、団子坂を下りてくる。
 この店には、ほかにもボルシチのセットがあるらしい。寒風が吹いてきたら、ボルシチに浮気するのも良いかな。





番外編 「ヤーカー神の託宣」

 あっ、あたしが書くの?
 12回連載だったんじゃなかったっけか?
 まあいいわ。カレー原稿、作ればいいのね。

 初めての店に入った場合、カレー者を自認する人は、とりあえずチキンカレーを注文することが多いのではないだろうか。
 たしかに、チキンはインドカレーの旨味をもっともスタンダードに引き出してくれる食材だと言える。
 東中野「カレーリーフ」でも、店のイチ押しはチキンカレーであった(無念なり! わしは売り切れで食えなかった!)。
 中野「英国カレー シーザー」で食ったチキンは、絶品だった。
 原宿「ギーヤナ」。この店の看板カレーである「ギーヤナカレー」も、チキンのカレーである。
 日本のカレーの聖地・湯島「デリー」の絶対不可侵カレー「カシミールカレー」にチキン以外の具が入っていることなど指をつめられても想像できない。

 しかし、カレー曼陀羅の宇宙には、もうひとつ、なくてはならない領域がある。
 野菜カレーである。
 わしは野菜カレーをひそかに「ヤーカー」と呼んで崇めている。
 本当に旨い、優れたカレーの店には、その店でしか食えない独自のヤーカーが用意されているものである。

 武蔵小金井の「プーさん」はわしにとって、いま最も気になる存在だ。
 なんといっても、ここのヤーカーには、ぶっちぎりを確約できる。
 ここのヤーカーにくらべれば、「エチオピア」の野菜カレーなんぞ、ただの児戯。味噌汁。ソース御飯みたいなもんだ(そんなビッグマウスしちゃっていいのか~? この恩知らずめ。何度、エチで二日酔いの苦しみから救ってもらったと思っておるのか!)。
 「プーさん」に初めて訪れたときの衝撃を、いかにして、忘れ得ようか。
 メニューには、クマプーがお尻をこっちに向けて樹によじ登っているイラストが描いてある。
 「ははは、店名がプーさん、なんか70年代中央線の喫茶店を彷佛させる内装、そして店員はエプロンしたきゃんわいい~女の子ばかり。そしてこのイラスト。乙女ゴコロカレーを食わせられるにちがいない。」
 わしは完全に侮りモードに入った。辛口とそうでないのがあるが、まあ辛口といったって、乙女ゴコロカレーだとすればたかが知れているであろう。
 しかしわしは、カレーの神の冒涜者であった。
 カレーの神はわしに悔い改めを迫るかのように、野菜カレーをお遣わしになった。
 すごい具の量だ。あらゆるキノコ類があふれ、レンコンは厚切りにて横たわり、ニンジンも厚切りにて鎮座し、イモ、カボチャはごろごろと巨大ピーマンはぼてぼてと、どこまで掘っても尽きることない鉱脈のようなカレー。
 そして、襲い来るホットネス。わしの金髪からは、タマのような汗が発生し、ルーの中にポッタポッタと落ちていく。
 あああ、うめえええ……。かれえええ……
 神との交感のひとときである。誰にも邪魔はできない。
 これぞヤーカーの神髄。衆生よ、プーさんの神技を知れ。

 わしは、メニューのクマプーを通うたびに眺めているうちに、カレー屋の「プーさん」のみならず、クマのプーさんも好きになってしまい、先日も「クマのプーさん日めくりカレンダー」を1700円で購入してしまった。

 そして祐天寺「カーナピーナ」のヤーカーを見よ。
 これもすごい具だ。そして、容赦なく辛い。
 溶鉱炉のようなカレー、といったらいいのだろうか。
 実にムダのない、ストレートな、ひきしまったデルモ(男)の肉体のような、ヤーカーだ。
 おめえらみんな、病み付きになるにちげえねえぜって言ってるみたいなカレーだ。
 東横線なんてめったに乗らなかったわしをして、女一人暮らし住人率が都内・1という目黒区に通わせるにいたった、ワイルドなひと皿だ。

 しかし、「カーマ」の大野さんは、なぜあれほどご自分の作られたヤーカーを貶めるのだろうか。
 だって、注文すると、「おいしくないですよ」と仰るそうではないか。
 「カーマ」で、極上の激辛ヤーカーを堪能する日は、ついにやってこないのだろうか。
 きっとできる、きっとできると、思うのだが……。

 さて、最後にご報告。白水社カレー部の面々は全員、東急吉祥寺店/東横店で開かれた北海道物産展に幽鬼のように現れ、イクラ・ウニ・カニといった北海道の誇る食材にはイチベツもくれることなく、一目散にあのスープカレーの天国「マジックスパイス」の出店に突進し、「瞑想」「涅槃」「虚空」など、それぞれが指向する神聖なカレースペースにと旅立ってきました。サッポロの感動が、ふたたび東京の地でよみがえったわけでした。





ずるずると番外編 「冬の北陸路で旨いものに巡り合う」

 12月9日、朝4時30分起床。
 普通の人には早過ぎる時間だが、既に老人化が進み普段から5時半に起きる僕には1時間早いだけのことだ。
 今日から出張で、新潟・富山・金沢・福井と回る。
 向こうは雪なのかな。
 でも行く所は街中が主だし、なんとかなるだろう。
 それにしてもこの時間にしちゃあヤケに外が明るいな…。
 カーテンを開けてみると、東京の中でも山深い多摩地方にある我が家の庭には、軽く10cmは雪が積もっていた。

 「すごい雪ですねえ」
 と言ってるのは、東京の人ではない。
 ここは新潟大学西門前、Cafe Ouest。
 店の奥さんもそう言うくらいで、新潟市もこの時期としては大雪だった。
 出張先でこれでは、まったくカレーでも食ってなきゃやってられん状況である。
 そんな荒んだ気持ちにも、Ouestの野菜カレーは優しい。
 カリー・ホッター部長から「新潟ではこの店を必ずチェックすべし」との指令があったのだが、なるほど評判に違わぬ名店だ。
 スパイスはホールをご主人がコーヒーミルを使って擦り潰している(森枝卓士のレシピみたい)という、香り高い一品。
 「可能な限り辛くしてください」という愚者のオーダーにも快く応じてくれ、クラシックの流れる落ち着いた店内からは想像もつかない激辛カレーが出てきた。
 赤味がかったソースに生クリームで一筋の白、サフランライスの黄色、野菜の彩りも美しく、品のよい外観。
 かなりコクととろみがあるが、全然悪くない、小麦不使用の自然なものだ。
 熱くて辛いものを食べた直後にはつらいが、コーヒーもとてもおいしい。
 しかも安いという、近所にあったら絶対に通ってしまうであろうお店だ。

 大学の前にはよいカレー店があるものなのだろうか。
 富山大学前にあるアジャンタもおすすめだ。
 なにしろランチセットについてくるスパイシーチキンがめちゃウマ。
 パリッと焼かれた香ばしい皮とふっくらとしてヘンに柔らかすぎない肉とが、これはもうちょっとしたもので、鶏自体相当よいものを使っていると思う。
 そういえば、富山駅近くのCURRY HOUSE MEWのチキンカレーも、丁寧にスパイスを組み合わせてつくられたソースそのものもすばらしいが、鶏肉がまたおいしいのに驚いた。
 よい水と空気に育まれ、富山のニワトリたちは健康なのだろう、と勝手に推測。

 こうなると、金沢大学の前にもおいしいカレー店が…などと期待してはいけない。
 ご存知ない方に説明すると、金沢大は駅とも繁華街とも離れた山奥にあるので、そもそも大学前にはなんの店も存在しないのだ。
 でも、あきらめるのは早い。
 学内に、生協食堂とは別に、「カレーショップ」というのがあるからうれしいではないか。
 基本はFCのような、いわゆるトッピングカレーだが、辛口セイロンカレーなるものがメニューの片隅にある。
 カレー部武闘派(激辛愛好系)を納得させるようなレベルではないが、手軽に食べられるありがたさと、カレー屋がないのならつくってしまうという、その心意気を買いたい。

 スペースには余裕があるが時間がない!(←仕事納めの日に書いている原稿)新潟味処かも屋のカレーラーメン(美味!)とかデリー高岡あわら店の超激辛で有名なグリーンカシミールカリーとかも紹介したいが、またの機会ということで。
 表題からいつものカレー部とは違うものを想像した方はごめんなさい、酒でも魚でも蟹でもない、あいかわらずのカレーバカでした。





番外編(さて何回目だっけ?) 「レトルトは便利なのだが……」

 ネタ探しのために阿佐ヶ谷『和田』でカレーうどんを食べようと思って行ってみたら休んでいた。日曜日だから仕方ないのだが。そのまま帰るのもなんだから荻窪駅近くの焼き鳥屋『秋吉』で生ビールと焼き鳥を食す。知人はこの店を『五本の焼き鳥屋』と称す。その名の通り一品目5本単位で焼き鳥が出て来るからだ。どれも二口サイズだから5本くらいカンタンに行ける。店のお兄さんたちがうるさいくらい威勢がよいが、対応が早く気持ちいい。ほとんどカウンター席なので一人でもくつろげる重宝な店だ。その正面のビルの3階に『いちべえ』というすこぶる多くの種類の日本酒を置いてある居酒屋があるのだが……。

 危うく自分がカレー部員でありことを忘れてしまいそうになった。W編集部員よりクラブ白水の原稿催促の電話が鳴る。とりあえず小社1階営業部のカレー資料館でネタを漁ってみることにする。

 うーむ、あったぞ。カレー関係の書籍に挟まっているのはレトルトの『まぐろカレー』ではあるまいか。昨年秋にK営業部員が中四国出張で買ってきてくれたものだ。さっそくGoogleで『まぐろカレー』を検索してみると、幻冬舎の『本格カレー殺人事件』なるサイトにヒットしてしまった。ちょいと幻冬舎のホームページを眺めてみる。私の好きな女優さん石田ゆり子が『お茶っコ日和』なるエッセイを書いていたのでついつい読んでしまう。

 『まぐろカレー』に話を戻す。慎重にパッケージを開け、皿がないのでプラスチックのコップにカレーを搾り出す。5階の会議室兼食堂の電子レンジで、近くのコンビニで買ってきたサトウのごはんとカレールーを同時にチンする。程よく温まったところでごはんにカレールーをかけてみる。

 温まってもかなりドロドロして粘りがある。香りは悪くない。マグロの茶色い肉片がいくつか見える以外は普通のカレーだ。ごはんと一緒に食べてみる。ついでに缶ビールなどを開けて飲んでみる。そば屋のカレーの香りに近い。そば屋のカレーはそばつゆのベースのカツオ出汁でカレーを作るから一様に和風のカレーになる。当然『まぐろカレー』もマグロの出汁が出ているから和風カレーになるのだろう。パッケージを見て想像するに、マグロがごろごろ入っていてかなり男っぽいカレーかなと勝手に期待していたので、ちょいと肩透かしにあった感じではある。むしろ『ツナ・カレー』として、辛いのが苦手な人や子供向けに商品化し直したほうがよいのではなかろうか。

 先日、日本の大手食品メーカーが中国でレトルトカレーの販売を始めたというレポートをテレビで見た。おそらくすぐ出来ておいしいところが中国人にも受け入れられることだろう。しかしながら、日本のカレーは日本人の手によって工夫されてきたはずだ。中国人が食べるカレーを日本人が作るのだから驚く。さてどんな味がするのやら。





番外編4 妄想カレー日記

月曜日 あたふた仕事をしているうちに、お昼になる。他のフロアのカレー部員が昼飯をさそいに訪れる。「今日は、どこ行こっか」と首をひねりながら階段を下りていくと、さらに別のカレー部員が玄関で待ち受けている。「雨が降っているから、遠くはいやだね」と、意見は一致して、近場のエチオピアに決定。近いとはいえ、行くには明治大学前の大通りを渡らなければいけない。少し遠回りをすればよいのだが面倒なので信号はおろか横断歩道もない最短距離のところを、自動車の間をすり抜けて渡る。こんなことを続けていると、いつか車にひかれそうな気がする。最近、エチオピアに登場した豆カレーがワッキーのお好みだ。エチオピアのカレーの中では、唯一ご飯と別盛りである。ヤツは、その70倍の辛さを汗ひとつかかず涼しい顔をして平らげる。

火曜日 昨日は近所でごまかしてしまったけど、やはりここに行かないわけにはいかない。カーマ。席に着くと、マスターの妻に「いつものですね」と言われてしまい、今日はキーマにしようかなという浮気心はたちまちしぼんでしまう。でも、チキンカレーを食べないと後悔するから、やっぱり「いつもの」でオーケーだ。ちなみに、この店で野菜カレーをたのもうとすると、マスターから「酸っぱいですよ」とか「肉が食べられない人のためのカレーですよ」とか、あまつさえ「まずいですよ」とまで言われて、なかなか注文を認めてもらえないのは有名であったが、最近はウワサによるとそうでもないらしい。何を言われても、平然と注文を主張するのがコツとの情報。社内の某女性社員、「時間かかりますよー」というマスターの揺さぶりにも、「かまいませんよ」とすずしい顔をしていたのがよかったらしい。

水曜日 天気が良いので、ここはひとつ散歩を兼ねてトブカに行くとする。そういえば、横濱カレーミュージアムから、エチオピア、トブカ、パク森が撤退するらしい。そのかわりに、マジスパや四国のカレーうどんの店が入るらしい。つまり、神田色が一掃されることになる。カレーの激戦区あるいは聖地とよばれる神田を軽んじるとはいい度胸、と吠えたくなるが、まあ、あの手のテーマ・パーク(?)は、客に飽きられないように絶えずお店を入れ替える必要があるのかもしれない。ディズニーランドが絶えず新しいアトラクションを追加していくように。まあ、わしらはこれらの店が近いから、撤退しようがどうでもいいもんね。トブカの接客係のおねーさんは、南アジア系の顔立ちで、愛想のいい大柄な人と愛想の悪い小柄な人がいる。そもそも食べ物屋における、無愛想さというのはアジア的スタンダードである。スマイル0円などというしゃらくさーいアメリカン・マニュアル文化より、うまい物出せば文句ないだろ的な態度の方がいっそ潔い。いつものように辛いけれども後味さわやかなムルギをいただく。

木曜日 今日の昼飯は、カーマを通り過ぎてメーヤウまで行く。手前のムガール・マハールも繁盛している。いつも思うのだが、この店は厨房がやたらと広い。いまひとつ使い勝手の悪そうなフロアにくらべると、料理をする人は思うように腕をふるえるスペースを確保している。ヒゲを生やしていっけん老けているように見えるマスターが、流れるような動作で仕事をこなしていくのは気持ちがいい。スーちゃんは、ここではチキンカレーのルー大盛りを頼む。どんぶり様の容器になみなみと入ったルーは、なかなかの分量である。これを食すと、常人は夕方まで胃が燃えている。しかし、激辛クンは、さらにテーブルに備え付けのブリック・ナンプラーから、唐辛子のみをすくいだして大量にカレーの上にぶちまける。はっきり言って、お店の敵である。わたしは、近ごろはとろりとした三枚肉が入っている、ポークカレーがお気に入り。

金曜日 辛さという点ではもの足りないけれども、ほかのどこにもないユニークな味ということではひけをとらないのが共栄堂。スマトラ・カレーを標榜しているが、きっとスマトラにはこんなカレーはないのだろうな。いわゆるカレーとは違うスパイシーな香りが食欲を刺激する。きちんとはかりで量ったかのように正確なライスの量にして斜め45度にしても皿から落ちない粘度、ルーの一定の辛さ、これらの安定した仕事ぶりが、老舗の名に恥じない。客のオーダーを間違えたり、分量がまちまちだったり、辛さが安定しなかったりするエチオピアは少し反省してほしい。さて来週は、しばらくぶりに櫓にでも行ってみるかな。

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