Second Coming/The Stone Roses
時は1989年。
あたしと編集部のケンちゃんは、青山の日本青年館にいたの。
ストーン・ローゼスの初来日公演よ。
いいでしょー。人間長生きするといろいろ良いこともあるの。
ワカモノに、「えっ、S山さん、ローゼスの初来日行ったんすか、すごいっすね(オヤジっすね、バブルっすね)→括弧内はモノローグ」とか驚かれるしね。
そりゃそーよ。あたしなんてほとんどヤツラ(ローゼス)と同世代だし…。
まあ、ソレはいいとして。
今回の「私の一枚」はローゼスの2枚目(にしてオリジナルアルバムのラスト!)、「セカンド・カミング」よ~ん。

時は1994年。
あたしはそのころつき合ってた女の子とお茶の水のロッテリアにいたの。
でね、彼女が言うの。
「S山さん、ローゼスが5年ぶりくらいにやっとセカンド出したね」って。
「そうね。今度のはかなりロックロックしてて、前作のようなキャンディ・ポップなカンジは薄れてるよね」
「そうそう。こないだ借りたプライマル・スクリームのも、すごくロックっぽかったよね.」
当時あたしは31歳、彼女は8歳年下。
いろいろと啓発されたわ。ヴァセリンズとか、ダニエル・ジョンストン関連とか、ピクシーズから派生したバンド(ブリーダーズ?)とかティーンネイジ・ファンクラブとか、よくわかんないけど当時の20代のインディー好き女の子が聴いてたモノ。
実は、ジーザス・アンド・メアリー・チェインも、彼女の影響で、ようやく理解したのだ。
ジザメリが、プライマルのボビーをドラマーに擁してデビューしたのは、あたしが21歳のときだったのにね。
感謝してる。彼女には。いまでも。
で、そういう女の子は、とかく気分屋なので(どうしてだろう…クセのある音楽が好きな女の子は、ご自身もクセがあるからなのかな)。
よくイサカイをしたものだ。
「この曲がわからない、っていうのはいいけど、バンドそのものをケナさないでよ。だいたい、あなた、<わるくないね>とかこないだ言ってたじゃない! 結局、口先で流すだけなんだから…キライならキライって、ハッキリそのとき言いなさいよ、そうゆうどっちつかずの態度がムカつくの!」
そして彼女は問う。
「あたしのことが、ホントにスキなの?」
もちろん、スキ。とっても。
でも自分を変えようがない自分にも、「スキ」といいたいの。
で、1995年に、彼女とは別れることになるのだが…。
あたしは、ダレかを「キライ」になって別れたことが、一度もないの…(ダメ?)。
で、そのたびに思い出すのは、94年の、このローゼスのアルバムなの。
時々刻々の恋愛感情にウソはまったくないのに、どうして別れてしまうんだろう。
…と思いながら、このアルバムの8曲目、『タイトロープ』に耳を傾けてみる:
彼女はエンジェルなんだろう
そうにちがいない
だって 見たんだよ、たしかに、
金箔で飾られた
天使の羽を
朝日の光る中
シーツの拡がりの中で
オレはたしかに見たんだ
ああ 彼女の天使の羽を
オレにはわかってる
もう 他に恋人はいらないんだ
キミの寝顔を見ていさえすれば
なにもかも満ち足りていくんだ
この曲を耳にするたびに、ナミダがこみあげて、しょうがない(かなりクサイであろー)。
エンジェルを発見するたびに、そのヨロコビに酔う。だけどやがては別れ、去っていく彼女らのことを、いつも思い出す。なのにかつて見たアンジェリックなイメージの幾多が、その都度この詩のイメージにかさなって、すべての想念はフリダシに戻ってしまうの。
サイアクであろう。あたしを糾弾せよ。
でも。こんな曲もあるの。
愛はその翼をひろげ
その身に釘打たれるときを待つ
あなたを私は許します。
けっきょく、この世を統べるのは 私なのよ
(……)
オレは夢を見た
光を見たんだ
消さないでくれ
彼女は無事だろう?
だって彼女はオレのシスターだから
そう。彼女は「シスター」
なのだ。
そして、「シスター」としての女性を思い出すごとに、こんなヴィジョンが思い浮かぶ。
1.ものすごく内気で、化粧っけもなく、ジミで、ロクロクひとに話しかけたりもできない女の子が、音楽にめざめ、ギターを手にする(その音楽はビ・バップ・デラックス)。
2.おずおずと弾いていたギターだが、この娘にはおそるべき才能があった。
ストーン・ローゼスのギタリスト、ジョン・スクワイアの難解なギター・ソロを、またたくまにいとも流麗に弾きこなせたのだ。
3.そんな彼女にも、ひょんなことからカレシができる(バイト先の図書館で知り合ったの)。
4.あたかも春風吹く頃合い、たのしく過ぎていく日々。だが、彼女はめざめてしまったギターへの情熱が忘れられない。
5.カレシとデート。しかし、どんなにオシャレなカフェーより、ギターショップでエフェクターを物色することのほうが楽しい彼女。カレシとの会話をほっぽらかして最新のサウンドエフェクト・ツールを追求する彼女。ショーケース越しにヒトミがキラキラ。「はやくしろよ」「ううん、すぐすむから、ちょっと待ってて!」
6.「オレとギターとどっちが大切なの」と問いつめられ、困惑する彼女。
7.「そんなこと言われても…アナタも、ギターもよ…どっちも大切なの」
8.「どっちかにしてくれよ。オマエ、近頃ギターのハナシばっかじゃねえか。なにげに放置されてんスけど、オレ」
9.こういうオトコとは即座に別れましょう。
10.…というあたしの提言を聞いた彼女はそのオトコと別れ、とあるバンドに加入します。
11.ハイ、ライヴ当日です。「ねえ、あんな子にギター(しかもリードギター)なんて弾けるの? どう見ても文化系女子図書室ひきこもり系じゃないの…ていうかランドセル似合いそう」…という風評を切り裂くように、ステージで彼女は赤いレス・ポールを縦横無尽に、あたかもマシンガンのごとく弾きまくる。
12.「え、どうして?」「あんな目立たなそうな子が?」「こいつぁ驚いた。オレだってあんなフレーズ弾けねえぜ!」「チックショー、惚れたぜマジで!」「弟子入りしたいのー」
13.バンドメンバー(ベース)の証言:「なんであのコを入れたかって? エフェクター操作の魔術師! そしてあの指のさばき! 小柄なあのコから、あんな音がでてくるなんて、誰も予想できねえじゃん! あいつはこのバンドのシスター。ローゼスの『ラヴ・スプレッズ』に出てくる、愛の魔術師なんだよ!」
…というわけで、あたしにとってストーン・ローゼスのセカンドは、いささか妹フェチめいておりましたが、そんなような妄想を、ずっと駆りたててきているのでございましたの。
【語学書編集部/すーちゃん】