内容説明
文学や映画でおなじみ、イギリスの執事やメイドなどの使用人。これらの職種に対する社会的イメージと実情を、19世紀~現代を中心に、文学や諷刺、各種記録から考察する。
使用人文化から見たイギリス
英文学を読んでいると随所に登場するのが使用人(家庭内労働者)である。かつてイギリスの中流以上の家庭では、使用人は身近かつ不可欠な存在だった。一方で、十九世紀のベストセラー『ビートン夫人の家政書』は「社交界では使用人を悪くいうのが習慣になっています」と語る。当時の人々にとって、使用人とはどういう存在だったのだろうか。
世相を反映する例として小説を見ると、『オリヴァー・トゥイスト』に登場する、盗みの疑いをかけられた主人公をかばう慈母のようなハウスキーパーと、『レベッカ』で女主人に嫌がらせを繰り返す邪悪なハウスキーパーとは、一見正反対の人物に見える。だが著者によれば、両者の行動の裏には、ある共通した人物像があるという。では、そうしたキャラクターが生まれた背景には、ハウスキーパーとは「どういう人」だという世間のイメージがあり、そのイメージはどこからきたのだろうか。
本書では、回顧録などの記録や文学作品、各種資料をもとに、十九世紀を中心に現代までのイギリスにおける、使用人の社会的イメージについて分析する。さらに、それらのイメージと、日本人やアメリカ人がポップカルチャー等で描いてきた使用人とのギャップについても考察している。