内容説明
義足アスリートたちがより美しく躍動するために、日本を代表するプロダクトデザイナーが、学生たちとともに競技用義足のデザイン開発に挑んだ三年間の軌跡。
本書に登場する陸上競技・高桑早生選手、自転車競技・藤田征樹選手がロンドンパラリンピックに出場します。
私が義足のデザインに踏み込んだのは、最初は好奇心だったと思う。そこには何か、見たことのない人とモノとのかかわりがあるように思えた。──本文より
「この義足でロンドンを走ることを楽しみたい」陸上競技 高桑早生選手
「自分のためにも、支えてくれている人のためにも、いい結果を出せるように頑張りたい」自転車競技 藤田征樹選手
スポーツ用義足デザインに挑む
著者は、日本を代表するプロダクトデザイナー。北京パラリンピックでトラックを疾走する両足義足のオスカー・ピストリウス選手の姿に目を奪われた。身体の動きと一体化したカーボンファイバー製の義足に究極の機能美を見出したのだった。
一人一人のために手作りされる義足は、量産品の車椅子などと異なり、デザインとは全く無縁のものだった。そこで著者は2008年秋から、慶應義塾大学の学生たちとともに、義足デザインという未踏のプロジェクトに取り組み始めた。本書は、義足とは何かを一から学び、義肢装具士や義足メーカーなどと協力しあい、試行錯誤を重ねながら、高い機能性と美しさを兼ね備えたスポーツ用義足の開発に挑んだ3年間のドキュメントである。
実用化モデルは、陸上競技用義足と自転車競技用義足だ。
時間をかけ選手たちと対話をし、失敗を繰り返しながらも、心を込めてつくられた義足は選手たちの表情をも変えていく。
選手たちの躍動する姿と一体化した義足の美を見届けてほしい。
著者プロフィール
山中 俊治(やまなか しゅんじ)
プロダクトデザイナー/慶応義塾大学教授。
1957年愛媛県生まれ。82年東京大学工学部産業機械工学科卒業後、日産自動車デザインセンター勤務。87年よりフリーのデザイナーとして独立。91年から94年まで東京大学工学部客員助教授を務める。94年、リーディング・エッジ・デザインを設立。腕時計やキッチン用品などの生活用品から鉄道車両に至る幅広い工業製品をデザインする一方、技術者として、ロボティクスや通信技術に携わる。2001年には「Suica」のICカード改札機をデザイン。08年4月、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授に着任、山中デザイン研究室を設立、08年秋から義足デザインプロジェクトを開始。人と物との新しい関係を追究している。
2004年、毎日デザイン賞受賞。ドイツIF Good Design Award、グッドデザイン賞ほか受賞多数。10年、「tagtype Garage Kit」がニューヨーク近代美術館永久収蔵品に選定。
主な著書に『フューチャー・スタイル』(アスキー)『デザインの骨格』(日経BP社)など。
*略歴は刊行時のものです