内容説明
エリートによる歴史記述に現れない庶民の実態をさぐる
古典作家の著作、墓碑をはじめとする金石文、キリスト教関係の資料、パピルスなど多岐にわたる資料を駆使して、一般民衆、奴隷、解放奴隷など、歴史の表には現れない庶民の生活を描き出す。
「99.5パーセント」の人々の人生
古代ローマ史はさまざまな人物の活動に彩られている。だが、著名な著作家による歴史資料は、クラウディウス帝のもとで働いていた解放奴隷に対する元老院議員たちの反感や、パルティアとの数々の戦争は記録しても、自由人の庶民が解放奴隷に対してどんな感情を抱いていたかや、戦争で捕虜となったパルティア人がどこでどんな奴隷生活を送ったかは関心の対象外だった。現存する資料は、おおむね富裕層と権力者によって、あるいは彼らのために生み出されたものだったからである。
本書は、庶民の墓碑銘や手紙、当局への訴えの書状、許可証などから、差別感情の有無、公衆浴場で発生した事件や事故、庶民の女性が携わっていた職業など、エリート層の著作家が目を向けなかった「99.5パーセント」のローマ人の視点・価値観・人生を描き出す。庶民の男女・貧民・奴隷・解放奴隷・兵士・娼婦・剣闘士・無法者にとって、世界はどのようなものだったのだろうか。
当時の文学作品がどの程度実際のローマ人の日常生活を反映しているかを考察した「資料論」も収録。