内容説明
【オルガ・トカルチュク、ノーベル文学賞受賞!】
わたし/人体/世界へ向かって──116の〈旅〉のエピソードが編み上げる、探求と発見のめくるめく物語。『昼の家、夜の家』の作家が到達した斬新な「紀行文学」。ポーランドで最も権威ある文学賞《ニケ賞》受賞作。【2018年ブッカー国際賞受賞作】
前作『昼の家、夜の家』が日本でも好評を得たポーランドの人気作家による新たな代表作。現代の〈紀行文学〉として本国で高く評価され、二〇〇八年、ポーランドでもっとも権威ある文学賞《ニケ賞》を受賞した。
本書には、形態も目的地もさまざまな「旅」が登場し、架空の、あるいは歴史への旅に読者を誘う。タイトルの「逃亡派」とは、ロシア正教のあるセクト、もしくはその信者を指す。本書の執筆中、モスクワ旅行の機会を得た作家は、同行した宗教学者の話からこのセクトの存在を知る。放浪を唯一の正しい生き方とする彼らの教えに共鳴し、これこそが作品のコンセプトを象徴すると考えた彼女は、すぐにタイトルに決めたという。
クロアチアへ家族旅行に出かけるが、妻子が失踪してしまうポーランド人男性。アキレス腱の発見者である十七世紀の解剖学者の生涯。弟の心臓を祖国ポーランドに葬るため、パリから馬車で運んでいくショパンの姉ルドヴィカの物語……エッセイ風の一人称の語りと交じり合うようにして、時代も人物もさまざまな三人称の物語が、断片的に、あるいは交互に綴られていく。詩的イメージに満ちためくるめくエピソードの連鎖に、読者はまったく新しい「旅」を体験するだろう。
[著者略歴]
オルガ・トカルチュク
1962年、ポーランド西部、ドイツ国境に程近いルブシュ県スレフフに生まれる。ワルシャワ大学で心理学を専攻、卒業後はセラピストとして研鑽を積む。93年、Podróż ludzi Księgi(『本の人々の旅』)でデビュー、ポーランド出版協会新人賞受賞。96年、第三作Prawiek i inne czasy(『プラヴィエク村とそのほかの時代』)がポーランドで最も権威ある文学賞ニケ賞の最終候補作となる。文学を専門とする自身の出版社Ruta(ルタ)をヴァウブジフに設立(2003年まで)、以降執筆に専念する。98年、第四作『昼の家、夜の家』(白水社)でニケ賞にふたたびノミネートされ、英訳版(House of Day, House of Night)は2003年度国際IMPACダブリン文学賞の最終候補となった。2007年に本書『逃亡派』を刊行。四度目のノミネートで2008年度ニケ賞を受賞した。最新作は、Księgi Jakubowe(『ヤクプの書物』、2014年)。エッセイストとしても高い評価を得ている。ヴロツワフ在住。
[訳者略歴]
小椋 彩
北海道大学文学部卒業。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。2001〜02年ワルシャワ大学東洋学研究所日本学科講師。東京大学大学院研究員等を経て、現在、東洋大学文学部日本文学文化学科助教。
専門はロシア文学、ポーランド文学。訳書に、O・トカルチュク『昼の家、夜の家』(白水社)