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連載・エッセイ

山本敏晴「アフリカの最貧国からアジアの最貧国へ」 ―2003.05.11

 みなさんは、西アフリカにあるシエラレオネという小国を知っていますか? この国は、平均寿命34歳(世界最短)、乳児死亡率世界最悪、妊産婦死亡率世界最悪など、まぎれもなく世界で最も医療事情の悪い国です。

 2年前、国境なき医師団(Medecins Sans Frontieres : MSF )の要請でこの国に派遣された私は、本当に意味のある国際協力の形を求めながら仕事をしていました。当時私が思っていた国際協力の形には、いくつかのポイントがありました。一つは、未来へとずっと続いていける医療システムを作ること。もう一つは、現地文化を尊重した形の国際協力をすることでした。

(一番目の)未来へと続いていくシステムを作るために私が主に行っていたことは、教育です。半年たって私が日本に帰ってからも、現地の人間たちだけで私がいたときと同じレベルの医療を実現できなければ国際協力は意味がない。このために日常の診療の合間をぬって徹底的な医療教育・公衆衛生教育を行いました。これにより、私がいなくても、現地周辺の肺炎などによる死亡率が悪化しないことを確認してから帰国しました。また日本に帰ってからも広報活動を広く行い、シエラレオネという国をできるだけ多くの人に知ってもらい、寄付金を募ったり文化の交流ができるような活動を行いました。

(二番目の)現地文化を尊重するために私がしたことは、とりあえず現地の言葉を覚え、彼らと同じ視線で話しをし、彼らの国の未来にとって何をするのが正しいのか、上から見下ろさずに考えることでした。このために私はなんとか現地の言葉を覚えようと努力をし、床に座り込んで患者さんと同じ目の高さで診察をするように心がけました。

 一応それらの結果、私がいなくなった後も、ある程度高いレベルの医療を実現でき、また現地の患者さんから精神的にも受け入れられた医療活動ができたのではないか、と思っております。

 しかしながら、上記の活動にはいくつかの問題がありました。それらを改善し、よりよい国際協力を行うために私は日本医療救援機構(Medical Relief Unit, Japan:MeRU)という団体からの要請で、現在アフガニスタンにやってきております。以下それぞれのポイントについて説明させていただきます。

(一番目の)未来へと続いていけるシステムをより確実なものにするためには、NGO(非営利民間団体)であるMSFやMeRUから、将来的に現地政府の保健省へと病院の人員・建物・システムの全てを渡し、運営方法を教えなければなりません。ところが前回のMSFの活動では一介の医師であったため、そこまでの政治交渉をする機会はありませんでした。今回のMeRUの活動では、大局的な政治交渉からもっとも末端の、直接の医療・教育活動まで、その全てを自分で統括する立場で派遣されたため、自分の行った活動が将来どういった形で残るのかを、確認することができます。その分責任は重大ですが、現地の人々のためによりよい形の医療を残すために、がんばっていきたいと思っています。

(二番目の)現地文化を尊重するために、私はまず現地の言葉を覚えようと努力します。ところが、シエラレオネではこれがかなり大変でした。この国には、文字がなく、しかして言語を覚える教科書はおろか、辞書すらなかったからです。
 もちろん、教えてくれる先生もいません。このため、車で移動する時にドライバーに頼んで教えてもらったり、現地スタッフの家へ遊びに行った時に夕食の食べ物の単語を教えてもらうしかありませんでした。

 最終的には、なんとか患者さんの診察をしたり、現地スタッフに医療関係の講義ができるぐらいにまではなりましたが、やはり現地文化を理解する、というところまでは遠く及びませんでした。

 このような前回の教訓を生かし、今回のアフガニスタンでは、派遣される前からアフガニスタンの言葉(ダリ語・ペルシャ語の方言)をあらかじめ学習しました。これにより現地へ行ったその日からある程度会話できる状態にしてきたつもりです。その分、現地の人との交流の機会は、だいぶ多くなったのではないか……と思っております。

 さて、この二つの改善策以外に、今回のアフガニスタンのミッションではいくつかの新しい側面があります。
 アフリカに位置するシエラレオネには、ガラと呼ばれる素晴らしい織物や、独特の音楽など、文字によらない文化がたくさんあったのですが、ここアジアに位置するアフガニスタンには、日本人に馴染み深い、文字による文化がたくさんあります。

 たとえば、文学や歴史書、ポエム(詩)、カリグラフィー(書道)などです。こうしたシルクロード経由で入ってくるような文化は日本人に親しみやすく、アフリカとはまた違った側面で現地の文化を尊重できるのではないかと思っております。

 もう一つ、シエラレオネは国連などの介入によって現在なんとか停戦の状態にありますが、アフガニスタンではまだずっと内戦が続いております。特に私がいる北部では各地の軍事派閥が毎日戦闘を続けており、さながら日本の戦国時代のようです。つまり、戦争がほぼ終わったシエラレオネでは未来の医療活動を計画しやすいのですが、まだまだ戦争が続いていくアフガニスタンでは、そうした計画をまったく立てられない状態にあります。

 さて、こうしたさまざまな点で前回のシエラレオネと異なる今回のアフガニスタンのプロジェクトですが、難しい中でもなんらかの、意味のある、未来へと残っていく活動を、現地の人と会話しながら模索していきたいと思っております。

(筆者=国際医療ボランティア・派遣医師)

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