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アイシェヌール テクメン「“ブルガリア”ではない!〜元祖ヨーグルト国・トルコ〜」 ―2004.09.11

 外国に長期間滞在して初めて、「トルコは……」と考えた。「珍しい」「面白い」と言われれば言われるほど、それまで気づいていなかった母国の文化の魅力的な一面に気づくようになってきた。「私」と言っただけで「日本語、お上手ですね!」とお世辞(?)を言われるのと同様に、「珍しい」「面白い」と言われるのも「あなたの国に興味がある」という意味のお世辞を言っているのではないかと思ったこともある。しかし、そうでもなかった。人は自分の国にいるときはその文化の特徴にあまり気づかない。何もかもを当然と思うからであろう。私は日本人から「面白い、珍しい」と言われて初めて自分の国の文化的魅力に気づいた。その一つは「トルコのヨーグルト文化」である。

 日本でもブルガリアヨーグルト、カスピ海ヨーグルトなどと名づけられた「ヨーグルト」という言葉は、実はトルコ語からきた言葉であり、もともとトルコ食文化における重要な素材であることをご存じだろうか。ブルガリアはトルコの隣国で歴史的なつながりもあり、ヨーグルトが食文化の重要な要素であるという点でも共通しているが、ブルガリアだけではなく世界中どこでもヨーグルトはそのまま「ヨーグルト」と呼ばれていて、今や世界的な言葉になっている。しかし、それぞれの文化の影響で各国にそれぞれのヨーグルト文化が存在している。今回私はトルコ人のヨーグルトに対する思いを、日本での体験を通して書こうと思う。

 数年前、日本に住んでいた私は蒸し暑い梅雨のさなか、突然ヨーグルトを食べたくなった。さっそく行った近くのコンビニで見つけた小さい果物入りのヨーグルトはトルコで言うところのヨーグルトとはかなり違うように見えた。私にとってヨーグルトとは少しすっぱみのある、プレーンなものである。結局、500グラム入りのプレーンヨーグルトを買って帰った。そしてヨーグルトのふたを開けると中に小さい袋が入っている。乾燥剤と思い、机の上に置きかけたところ、なんと!「砂糖!!!」袋を開けて味見し確認してみたが、やっぱり砂糖だった。これはちょっとしたカルチャーショックだった。ヨーグルトに砂糖を入れて食べるなんて、トルコでは子供ならありえるが、大人には受け入れ難い。しかも、そのヨーグルトは砂糖を入れないで食べても十分甘く感じた。この一件の後、様々なメーカーのヨーグルトを試してみた。一番甘くないと言われたものでも私にとってはやっぱり甘い。その後、ヨーグルトはデザートだよと日本人の友達に言われたときは非常にショックで違和感を感じた。ヨーグルトをデザートとして考えたことはなかった。

 何年か経って、今度は日本人の友達が観光でトルコにやって来た。一緒に実家の別荘に行った。その日のメニューはバーベキュー。骨付き羊肉やキョフテ(トルコ風ミートボール)、野菜、サラダ、ご飯、おつまみなどが並んでいた。さあ、食べようと私がキョフテにヨーグルトを乗せようとした瞬間、友達が言った。「へえええ〜、そうやって食べるの!」「うん。おいしいよ。食べてみる?」「ううん。食べな〜い。」数分後、友達が叫んだ。「わああ、本当に食べちゃってる〜!」

 次の日、揚げたナスとbiber(シシトウに似た野菜)の上にかけるニンニクいっぱいのヨーグルトソースを作った。その友達はまた不思議そうに言った。「なーに、このソース。何のため?」「ああ、この揚げものにかけるよ。」「何が入っているの?」「ヨーグルトとニンニク」「へえええ〜、これにもヨーグルトかけるの!」

 もちろん、ヨーグルトはこうしてメイン料理にかけるソースとしてだけ使われるわけではない。肉を焼く前にヨーグルトに漬け込んだり、またRakiというトルコのお酒のつまみにはヨーグルトを使った前菜がとてもよく合う。Mantiという中華料理のワンタンに似た食べ物がトルコ料理にもあるのだが、それにもニンニク入りヨーグルト(もちろんニンニク嫌いな人はヨーグルトだけでも)をかけ、さらにバターやオリーブオイルをもとに作ったトマトソースやスパイスをかけて食べる。こうして、毎日何らかの形でヨーグルトを食べているのを見た友達は最後に驚いた顔でこう言った。「すごい!!! トルコ人は何もかもヨーグルトと一緒に食べるんだ」

 トルコ人はよくヨーグルトを食べる。だから、スーパーではバケツのような容器に入った3キロ入りのヨーグルトまで売られている。さらに、ヨーグルトは食べるだけではなく、水と塩を混ぜ、飲むヨーグルトAyranを作るためのものでもある。暑い夏の日には夏バテを避けるため、ニンニク、塩、キュウリと水、そしてヨーグルトを混ぜてCacikというスープの一種を作る。トルコのスーパーでヨーグルト売り場を見れば、種類の多さなどから私たちがいかにヨーグルトと密着した食生活を送っているかを感じてもらえるだろう。

 12年ほど前に日本で、すき焼きは生卵で食べるものだと言われ、「いやだ!」と思ったが、「生卵で食べなさい」とあまりにも強く言われたので、意地を張って、それならヨーグルトにつけると言ってしまったことがある。いちおう、言い出したからには、とヨーグルトをかけた分は食べたが、正直言って、そんなまずいもの生まれてこのかた食べたことがなかった。すき焼きを生卵で食べられないのなら、そのままで食べればよかったのだ……。しかしこれほどまでに、ヨーグルトはトルコの食文化においては日本の醤油みたいに、私たちの「食」にとって最も身近で基本的なものなのである。

 今回はヨーグルトを取り上げたが、トルコにはまだまだ珍しい食感や面白い食べ方をする食べ物が数えきれないほどある。いつかトルコにお立ち寄りの際は、ヨーグルトをふんだんに使った多種多様なトルコ料理を食べ、Cacik, Ayran を飲み、美しいエーゲ海や地中海の海岸で陽を浴びながら歴史の香りを感じてみてください。そして夜は夕日の沈む海を眺めながら、Rakiをゆっくり飲み、ヨーグルトを使った前菜やつまみを堪能してください。きっと、トルコの風土や歴史とヨーグルトが切っても切り離せないよい関係であることを実感していただけると思う。

(筆者=アンカラ大学日本語日本文学科準助教授)

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