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杉江由次「6月まで待てない! 第1回・サッカー本ワールドカップ」 ―2006.03.11

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 あと3ヶ月もしたら夜中に奇声をあげ、日中は居眠りで仕事にならない日々が始まる。そう6月9日、サッカーW杯ドイツ大会が開幕するのだ。
 本来であれば2002年から始めたドイツW杯生観戦用貯金箱が、ズシリと重くなっているはずだったのに、あれから4年経った今、生観戦どころか、スカパー!にも入れないとは、どういうことだ?
 くう。“観るサッカー”の願いが叶わぬならば“読むサッカー”で勝負だ。これならたいしてお金もかからないだろう。というわけで、ここにかなり唐突にそして発作的に第1回サッカー本W杯を開催するのである。

 まずはA組【ドイツ、コスタリカ、ポーランド、エクアドル】代表は、当然、開催国のドイツ。『ブンデスリーガ ドイツサッカーの軌跡』ウルリッヒ・ヘッセ・リヒテンベルガー著(バジリコ)なんて大作もあるけれど、ここは開催国ならではの本を推薦したい。『欧州サッカースタジアムガイド』斉藤健仁、野辺優子著(えい文庫)。その書名どおり、各スタジアムのデータや歴史を写真とともに紹介している。ハーフタイムにはスタジアムに注目してみるのもこれまたサッカーの楽しみだ。姉妹編で出ている『世界のサッカーエンブレム完全解読ブック』もトリビア満載で楽しめる一冊。

 次はB組【イングランド、パラグアイ、トリニダード・トバゴ、スウェーデン】代表。イングランドではサーの称号ももつマンチェスターユナイテッドの監督、アレックス・ファーガソンの自伝『マネージング・マイ・ライフ』(日刊スポーツ出版社)では、いまや代表のキャプテンにまで成長したベッカムのデビュー時の話などが赤裸々に描かれる。またニック・ホーンビィ著『ぼくのプレミア・ライフ』(新潮文庫)は、熱狂的アーセナル・サポーターである著者の正真正銘サッカーバカぶりが明らかに。サッカーがないと生きていけない人は、絶対読むべし!

 死のC組【アルゼンチン、コートジボワール、セルビア・モンテネグロ、オランダ】からは、二国のサッカー本を推薦。アルゼンチンは、やはりこの男抜きで語れない。『マラドーナ自伝』(幻冬舎)。いつの間にかダーティーなイメージを植え付けられてしまったけれど、この自伝を読めばその印象も変わる、というかその根底にサッカーへの激しい愛があることが伝わってくる。
 そしてもう一国は、セルビア・モンテネグロだ。この地域とサッカーに取り憑かれてしまった日本が誇るノンフィクション・ライター木村元彦のユーゴ三部作『誇り』『悪者見参』(共に集英社文庫)『オシムの言葉』(集英社インターナショナル)は、どれを読んでも魂が揺さぶられる傑作だ。政治や戦争に振り回された選手や監督を支えたのは、サッカーを愛する民衆だった。ワオ!

 D組【メキシコ、イラン、アンゴラ、ポルトガル】からは、一次リーグ突破間違いなしのポルトガル代表のこの選手の自伝を紹介。『フィーゴ』トニー・フリエロス著(中央公論新社)。順風満帆のサッカー人生で、唯一足りない勲章を最後に手に入れられるだろうか?

 さてE組【イタリア、ガーナ、米国、チェコ】からはもちろんイタリア。でもバッジョの自伝なんか紹介しないぞ。ここではヴェローナFCにどっぷりハマってしまったイギリス人作家、ティム・パークスが書いた『狂熱のシーズン』(白水社)を熱烈プッシュ。お世辞にも品が良いなんていえないゴール裏で、人種差別や暴力の隙間から見えるものは、いったい何なのか? いや難しいことなんて何もない。おらがチームを勝たせるための、これぞサポート。浦和レッズのゴール裏でサッカー人生を送っているワタクシには、まさにバイブルな一冊。

 F組【ブラジル、クロアチア、豪州、日本】からは、当然我が日本代表本を。『28年目のハーフタイム』金子達仁著(文春文庫)や『山本昌邦備忘録』(講談社文庫)などあまたある傑作群のなかから、ここはやっぱりW杯に初めて出場した選手達の声を聞いてみよう。『6月の軌跡』増島みどり著(文春文庫)。この本の偉いところは、選手だけでなくドクターやコックなど裏方さんにしっかりインタビューをしているところ。選手だけがチームじゃないし、それぞれの持ち場にW杯の戦いがあることを教えてくれる好著。

 G組【フランス、スイス、韓国、トーゴ】からは2002年W杯の大躍進の謎に迫る『ヒディンク・コリアの真実』慎武宏著(TBSブリタニカ)。誤審騒動はあったけど、やっぱりあのときの韓国チームは勝つべくして勝ったのだ。うう、羨ましい。

 最後はH組【スペイン、ウクライナ、チュニジア、サウジアラビア】。まさかシェフチェンコをW杯で見られるとは思わなかった。その母国ウクライナの悲しすぎるサッカーの歴史を描いたのが『ディナモ ナチスに消されたフットボーラー』アンディ・ドゥーガン著(晶文社)。この本は絶対W杯前に読んで欲しい一冊。生死の分かれ目のピッチで、ナチスチームに堂々と立ち向かった選手にただただ感涙。今大会で、ウクライナ対ドイツが行われたらどんな試合になるのだろうか……。

 さてさて、これで一応各組から代表本を選んだけれど、ここまで触れてこなかった国は、世界最高のサッカージャーナリスト、サイモン・クーパーの名著『サッカーの敵』(白水社)を読めば、一段と理解が深まるだろう。またW杯本大会には出場していないけれど、命がけでサッカーをやっている国(国連ではまだ国として認められていないが、FIFAは認めている)を覚えておいて欲しい。『地図にない国からのシュート サッカー・パレスチナ代表の闘い』今拓海著(岩波書店)だ。遠征先で連絡の取れない家族の安否を気づかいつつも、国のためにピッチに立つ彼らの誇りは鳥肌ものだ。

 さあ、この傑作揃いのサッカー本のなかで栄えある第1回サッカー本W杯のチャンピオンは! うーん悩むなぁ。ヨシッ! 決勝はイタリア代表『狂熱のシーズン』対我らが日本代表『6月の軌跡』。そして勝者は『6月の軌跡』! もちろん我らが岡野雅行の決勝ゴォール!!

(筆者=本の雑誌社営業部)

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