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連載・エッセイ

町山広美「脳内会議から」 ―2006.07.11

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「白水新聞(注:出版ダイジェスト「白水社の本棚」のこと)が好きでよく読んでる、なんて激辛編集者氏に漏らしたもんで、ここに書くことになったんだけど」
「でもこれを白水新聞って呼んでるのは私だけだし、激辛編集者もただ極度に辛い物が好きなだけでしょ」
「そうそう。親しい編集者がうんぬん、って書くと文学業界の人っぽくてかっこいいという憧れがあったりして」
「相当浅い感じでね。文学と言えば、欠かさず見ちゃってる昼ドラの『吾輩は主婦である』。斉藤由貴演じる主婦に、夏目漱石が乗り移る話」
「下町の商店街が舞台で、お向かいの暴れん坊主婦役、池津祥子は、『ムー一族』で言うところの、由利徹の役回り。ここ二週は池津SHOWとして見てるよね」
「由利徹をやれる女だもの。しかしまあ、こんなにおだやかな気持で斉藤由貴を見られる日が来るとはねえ」
「同じく文系アイドルだった裕木奈江が、スポーツ新聞のインタビューで『昼ドラに出たい』って復活の野望を語ってたけど、あれはやっぱり、私にも書いてよ宮藤官九郎、のアピールでしょ」
「そっちなの? ドロドロ昼ドラで、小沢真珠的浮上を狙うつもりなんでしょ」
「そう言や、全盛時の斉藤や裕木の、『みんな』っていう、もったり糸をひく呼びかけは、最近あんまし見かけないね」
「今や日本マクドナルドのCEO夫人におさまった谷村有美のサイトをのぞいたら、相変わらずそんなだったけどね。でじゆみ、なんて名乗ってましたよ、何歳だよ」
「まあ局地的には健在なんだろうけども」
「最近見かけた『みんな』で感慨深かったのは、カーリングのチーム青森のかわいこちゃん、本橋って人のなんだけど。オリンピックの後すぐの大きな国内大会で、取材のカメラに向かって『みんな、大好きだよ』って」
「なかなか言えるもんじゃないよ。急成長、つーか素質」
「選ばれた人だよね」
「時期的にあの『みんな』は、谷亮子の使う『国民』と意味は同じ。でも、『国民』の枠にねじ込もうとする力の意志までは感じさせなくて、もっと甘いんですわ」
「こんな話、続けてていいんですかね」
「そもそもこれ、なんで会話調で書いてんのか、っていう。意見の応酬もなくキャラの書きわけもなく、そうそう、ってしゃべり続けて」
「おぎやはぎみたいな感じでずっとお互いに、そうだよねえって」
「ボケとかツッコミとか、そういうのはいらんね」
「空気読め、とかね。テレビに出てるわけでもないのにさあ、読むか、そんなの」
「亀田兄弟が外国で見つくろってきた選手にお見舞いするのは、空気読めパンチ。パンチとしてはたいした破壊力無くても、空気読め圧力がすさまじいわけでしょ」
「亀田兄弟ってそもそもが、ドキュメントを名乗る番組の枠内で、大家族みたいな目線で見られてきたものなんだろうけど」
「下流の人の営みを見下ろす方向で観察するサファリパーク目線。それを親子愛で飾ってね。でも、今やすっかり大きくなっちゃって」
「ここまで祭りが大きくなると、世界戦で大負けしようが、そう簡単には消えてかないよ。一緒に踊っちゃった後ろめたさを、世間が感じてくれることってあるからね」
「小室哲哉も、そんな感じ。でもあの人はやっぱりすごいよ。一束いくらで売るアイドルグループって、必ず数年後にメンバーのうち誰かが脱ぐ、脱ぎ脱ぎ要員養成所の機能があるけど、小室とつきあった人っていうグループからは続々脱ぐ人が輩出されてるじゃん。自営の養成所として、効率よすぎ」
「ところで、少しはまともな話をしなくていいの。最近話題の愛国心とかさ」
「ネットで右寄りの書き込みする人って、要は左翼嫌いなんだとよく言われるけど、それってもっと煮詰めると優等生嫌いなんじゃねーの、と思うわけ」
「先生に覚えめでたい連中が憎い、っていうね」
「そこは、日章旗掲げて走る暴走族に代表される、ヤンキーの皆さんもまあ同じでさ。愛国心とやらを学校で教えるようになって、愛国も優等生の所業になると、やつらはどうするのか、っていう興味が」
「ありますなあ」
「ますなあ。樟脳くさい言葉づかいすると、会話調の感じがなくなりますな」
「でもこれが、私の日常会話なもんで仕方ない。のぞき見るときに、『なになに』って発語したり」
「おじいさんに憧れるうち、我と彼の見分けがつかなくなって、こうなった感じで」
「話を冒頭までぐりぐりっと戻すと、この白水新聞を読むのが好きなのも、おじいさん好きと関連してるね」
「だいたいその、好きな理由を書けってことで発注された原稿だったよね、これは」
「ここにはさ、限られた人しか絶対手に取らない、難しそうな本の告知がいっぱい載ってるじゃん。そんで、すごくマイナーな専門書みたいなのが『待望の邦訳!』って興奮気味に紹介されてんの」
「それを見て、『待ってた人がいるんだ、私にゃ何のことかさっぱりわからん』って思うのがうれしい」
「髪の毛なんかとかしたことない、本の虫を何十年も培養してできあがったような、ものすごく物知りのおじいさんたちが数人、膝を付き合わせて、『ほほう、ついに出ましたかな』『でもこのタイトルには原題のエレガンスがありませんな』とか言い合いつつ、発言の端々にぺちゃぴちゃ口腔内の騒音が混じる感じを想像するとね」
「それを遠巻きに見て、『全然わかんねー』と言う喜び。疎外感の快感、ね」
「おそろしく本を読まない、そして、ここまでの雑談でわかるとおり、知的営みと無縁の日々を送る私ですからね、知らないわからないの垣根が低いもんで」
「本当はおじいさんが書いてるわけでもないって薄々感づいてはいるものの」
「夢を壊さないで!」

(筆者=放送作家)

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