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連載・エッセイ

─第1回─ ―2006.07.14

 都心の大型書店に入ると、「ここには国内で出版されたあらゆる本が並んでいる」という気持ちになる。オンライン書店にアクセスすると、洋書や古書も含めて、手に入らない本はないと思えてくる。でもそれは錯覚にすぎない。大型書店やネット書店で売っていない本はある。

 先日、『足助の昔話』という本が届いた。足助(愛知県豊田市)に伝わる昔話を集めた本だ。出版元のマンリン書店は江戸時代から続く足助の老舗で、土蔵を改装したギャラリーでは陶磁器を中心とした工芸展が開かれている。この本はマンリン書店が集めた資料をもとに、中村広子が絵と文章を書いて、マンリン書店店主の深見寿美子・冨紗子姉妹が監修した。

 『足助の昔話』にはISBNもバーコードもない。値段も「定価」ではなく「価格」となっている。東京の大型書店には売っていないし、オンライン書店でも扱っていない。深見姉妹がこの本を送ってくれたのは、昨年の夏、マンリン書店を取材した縁からだ。

 先月は和歌山県日高川町(旧美山村)の書店、イハラ・ハートショップから本多立太郎『父を語る』が送られてきた。こちらはISBNと定価表示こそあるけれども、やはりオンライン書店では買えないようだ。出版元のすりふか文庫は隣のみなべ町にある。イハラ・ハートショップとも、取材が縁でおつきあいが始まった。

 もしマンリン書店やイハラ・ハートショップを訪ねていなかったら、この本を知ることはなかった。足を運び、初めて会う人と語らうことで、私はこの本に出会った。大型書店もネット書店も便利だけど、それがすべてではない。知らない本に出会うために、ときには旅に出る必要もある。


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