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連載・エッセイ

─第6回─ ―2007.05.10

 製紙工場と印刷工場、そして製本工場を取材した。モノとしての本が、どのように作られるのかを見たかったのである。製紙工場では、オーストラリアから届いたユーカリの木片が、ドロドロに溶かされ、やがて三十トンの巨大なロール紙になるまでを見た。印刷工場ではオフセット印刷機が高速で回っていた。製本工場では一枚の紙が切られ、折られ、綴じられ、一冊の書籍になっていった。

 どの工場でも、私は同じ質問を繰り返した。「書店や図書館で本を手にしたとき、どこを最初に気にしますか?」と。製紙工場の研究員は、紙の質やインクの乗り具合が気になると答えた。印刷工場の職人は文字の形や字間、行間が気になるという。製本工場の職人は造本や開きやすさが気になるそうだ。自分が手がけたものはもちろん、自社が送り出した本は一目で分かる、とどの職人も言う。

 製本工場の一室で、檀一雄の『火宅の人』限定版(新潮社)を見つけた。段ボールの輸送箱を開けると、赤いベルベットで外張りされた函が現われる。中央には司修によるブロンズのレリーフ。その函のなかに『火宅の人』。表紙は司修のエッチングに手彩色をほどこした仔牛革で蔽われている。本扉にも司修のエッチング。天金。百三十六部の限定だという。

 「きれいな本でしょう」と製本工場の相談役は棚から取り出して見せてくれた。彼の両手の親指は、どちらも第一関節から先がない。二十五歳のとき、雑誌の断裁作業中に誤って落としてしまったのだ。そのため彼は、入社十年間で覚えた仕事を、また一から勉強し直した。「昔の職人は指を落として一人前」と笑う。人が命がけで作る本を、誰が粗末にできようか。


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