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連載・エッセイ

楳図かずお「グワシ! ぼくの5か国語学習法」 ―2007.05.10

 外国語を始めたのは、仕事でイタリアに行ったときに、ちょっとでも自分の口からしゃべらなければと思って、イタリア語を少しテープで勉強していったのがきっかけで。せっかく覚えたことを忘れるのはもったいないので、戻ってきてからも続けていったんです。ただそのときに、ホテルなんかはどこでも英語が通じるのが分かりまして。やっぱり英語って世界共通で、義務教育的な部分があるかなと思ったので、戻ってきてからイタリア語と英語を平行でやり始めたんですね。それで、英語の教室に週に一回だけ行ってたんです。でも週に一回じゃあんまり効果ないですし、単にだまって座ってるわけにもいかなくて、やっぱり会話って話題だなあと思ったんですが、なかなかしゃべれないのにそれは無理なんで、とりあえずやめちゃいました。もうちょっとしゃべれるようになってから行こう、と(笑)。それからもうまるっきり独学なんです。まずは、最初に買った『イタリア語旅行会話』という短いやつを、歩きながらぶらぶら覚えたり、電車の中で聞いたり、とかね。でも電車で語学の勉強は無理ですね、ああいうガタンゴトンの中では。そうでなくても、歩きながらラジオなんか聞いてると、カラスがカアと鳴いた瞬間に「今のとこちょっと聞こえないんだけどー!」とかそんな感じで。外国語って耳からのところが大事なので、やっぱり「ながら」で聞くのはちょっと最初はきついですね。

 最初から五か国語(英・伊・仏・独・西)ってことは思ってなかったんです。まずイタリア語と英語って。だけど少しずつ慣れてくると、多少はよそに目が行っちゃうっていうのがあって(笑)。特に(NHKの)ラジオ講座なんか、聞かないつもりなんだけど、他の言葉もずるずるずるっと入ってくるんで、何とはなしに聞いてるうち、「もうちょっと聞いてみようかー」って。フランス語なんか難しいから最初そんなつもりはなかったんですけど、イタリア語をやってるうちに、「あれ、字で見たらおんなじだ」とか思ったりして、そこから増えていったんです。イタリア・スペイン・フランスって、文法もけっこう似てますもんね。こっちで覚えたのはあっちでも応用できるかもしれないし、と。

 五つに限定はしてないんですけど、ぼくだいたい何かすると、五つぐらいになっちゃうんですね。たとえば漫画を描くときも、即座に考えようと思っても話は出てこないんです。だからいつも五つぐらいアイディアを持っていて、その中から一つチョイスして、一生懸命もう一つ考えて五つにしといて。そうすると、出し抜けに何かあっても必ず対応できるっていう状態を保てるんですね。なので、それ癖かもしれないんですけど。日本流に言うと、一筋っていうのが潔いとか立派とかってなるけど、何となく一つだけで他が見えてない世界って、自分勝手になってしまう気がするんですね。大学でも二つぐらい外国語取らせるじゃないですか、あれやっぱり必要だなと思います。距離を置いて比べてみると、また何かいろいろ見えてくるようなのがあると思うので。

 ラジオ講座はリピートして放送してくれるので、ダメなところはまた来年!っていうような感じの、すごいスパンの長い考えでやってたんですけど、とりあえず教材は作る必要があると思って。で、ここ五年ぐらい、もう必死で、テープにほぼ完璧な感じで録ってます。そういうコレクションみたいなのはもう宝物ですよね(写真参照)。ただ、最初の頃は気づかなかったんですけど、ずっと録ってるとヘッドが磨り減って、テープを聞いてみたら音が悪くて。そのとき初めて、何度も録っているとこうなるって分かりました。それからはもう、半年録ったらラジカセ自体を新しいのに買い換える!ってしてます。最近は録れたかどうか毎回チェックしてて、暗くなったら懐中電灯でテープが回ってるかどうかまで確かめて。そこまで徹底してやらないと。まあ、そういうのもひっくるめて、聞くだけではなくて、いろいろ楽しみながらですね。

 現地に行ってどっぷり勉強っていうのは一度もやったことないですけども、まだ勉強しはじめのほとんど分からないころフランスに行きまして、案内してくれる方がちょっと気に食わなかったので(笑)、出来もしないのに「一人のほうがいいです」とか言って。そこから死に物狂いだったんですけどね。それでデパートに入って、スプーンだのフォークだのきれいなのがあったから、それを買おうと思って。買うのに二日かかってしまいましたけどもね。黄色や赤のやつなんですけど、どれだか一つ足りなかったので聞いたら「ありません」って言うので、ぼくは「アレレー?」って言ったんですね。普通に日本語だったんですけど、そしたらおばさんタタタって走っていっちゃって、またやってきて、「はい、ありません」って。あとで分かりましたけど、「アレ Allez」ってえらい命令だっていうんですよね(笑)。見てこい、みたいな(笑)。

 やってて嫌になるときもあります。ラジオ講座だと、例えばドイツ語だったら1格2格って出てくるあたりからめんどくさくなっちゃうんですよ(笑)。フランス語なんか最初のころ、初めの一日はよかったけど、二日目からもうついていけなかったので(笑)。だけどまあ、毎年やってるとちょっとずつ伸びていくので。ぼくあんまり難しくは考えてなくて、本当にただ聞いて、それで耳に残ればいいし、残らなければどうでもいいやという感じで、気楽にずっとやっているんですね。全然ダメだったときも、一日に一コ単語を新しく覚えれば一つもうけー、という感じで。

 いずれはちゃんとしゃべろう!という思いは、もちろんあるんですけれどもね。でも全然急いでなくて。完璧になるかは分かりませんけれども、それに向かってがんばってる、ってぐらいのもんで。ただ発音だけはちゃんとしたいっていうのがあります。下手な発音でだらだらしゃべると馬鹿にされてしまうけど、きれいな発音で的確に一言二言しゃべると、あれ、この人いっぱいしゃべれるかもしれないと思ってもらえる(笑)。言葉ってそれぞれ違うけれど、とりあえずひとまとめで言えるのは、みんな持ってる口の機能から出る音だっていうふうに分かってしまえば、どんな発音だって全然平気ってことです。口の活性化って思えば、口の動かし方ってそれほど多くはなくて、その範囲でしゃべってるだけのことなので、どの言葉が来たってもう全然怖くないって感じになりますね。

 だいたい、ぼくができるくらいだから、どの方でもみんなできると思いますー。本当に。ぼく全然、勉強しなかったので。漫画ばっかり描いてましたから。すぐに上達しなくても、あきらめずに、いずれは、ってふうに思ってください。身についてるっていうのは、自然に、自分が気がつかないうちに、ちょっとずつだけど、何度もやってると気がつきますので。やっていれば、必ずきっと。気長にいきましょう、ですね。(談)

(筆者=漫画家)

※ラジオ講座を録りためた宝物のテープは語学ごと・1タームごとに整理し、無印良品のブリキの箱にしまって山と積んでいます。


連載・エッセイ


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- 第5回 カント『永遠平和のために』その4(2/2) [2009.07.28]

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