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連載・エッセイ

第2回 江戸時代のペースで暮らす ―2008.05.26

ドルドーニュ便り《番外編》

「そんな田舎で暮らしていて、愉しみはなに?」と東京の友人が尋ねる。「そうだね。暮らしの発見とでもいうのかなあ。平凡だけど愉快なことが多いね」とわたしは答える。

会社を辞め横浜の家を売り、こちらで生活しはじめて6年目の春。江戸時代なみのスロー・ライフ“10の愉しみ”を、皆さんにご披露いたしましょう。

1)目を覚ますと、コーヒーとパンとオレンジの簡単な朝食をベッドでとり、ガラス窓の向こうに浮かぶ雲を眺める。雲をしばらく見つめていると、鳥が飛んでいった。

2)ラジオでニュースを聴く。理解度は内容による。馴染みのある話題であればほぼ分かり、そうでなければ、あまり分からない。今朝のグルメ評論家の日本弁当の話はよくわかった。

3)自己流の体操をする。NHKラジオ体操の変形プラス腕立て伏せ50回のコースである。ウサギ跳びをしながら、手は阿波踊りの仕草という自慢のメニューもある。お笑い体操で一日が始まる。

4)散歩をする。40年前の鉄道路、いまは緑のプロムナードを歩きはじめる。遠くで春雷が鳴る。妻が「大事なセーターが濡れてしまうわ」と言うので、いそいで帰路につく。

5)土曜朝市に行く。地元の野菜、果物、肉は新鮮だ。いまの季節はアスパラガスと胡瓜がうまい。朝市はゴシップと情報交換の場でもある。友人と片言で立ち話をしたあとエクレアを買う。

6)芝生を刈る。5月の草花の生命力は凄い。あっという間に花が咲き、芝生も伸びる。陽光を浴びながら、2時間モーターを動かす。淡紫色のアイリスが美しい。

7)インターネットを開く。異国にいても日本の空気は伝わってくる。読売の「編集手帳」と毎日の「万能川柳」を愛読。前者の良識にうなずき、後者のユーモアにニヤリとする。

8)友人ができる。300人の村だから皆顔見知りだ。最近、移住してきたリトアニア人夫妻が夕食にやってくる。暖炉に火をいれ、バルト諸国最新事情を聴く。

9)本が届く。アマゾン・コムで発注した『ナポレオンとアメリカの夢』(英訳)が、到着。ワーテルローの戦いで敗れたナポレオンの米国亡命計画を読みはじめる。歴史は面白い。

10)電話がある。息子は東京、娘はストックホルム暮らし。スカイプでよく電話がかかってくる。息子は「伊豆の温泉は最高」と言い、娘は「来週もまた出張よ」と言っていた。スカイプさんありがとう。

わが愉しみを知った友は「現代の楽隠居みたいだな」と冷かす。「いや、そこまで枯れてはいないよ。昔は大陸浪人、今はフランス浪人だね。いまに俺の出番がくるよ」とわたしは法螺を吹く。


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