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連載・エッセイ

第5回 中世の僧院ビール ―2008.07.09

ドルドーニュ便り《番外編》


村の教会(11世紀末建築)

ドルドーニュ地方に夏がやってきた。庭の胡桃、樫、イチジクの深い緑に陽光が降り注ぎ、ポプラの白い葉が風にそよぎキラキラと光る。

この季節の愉しみのひとつは、庭の木陰でとる昼食だ。わが家の食事は簡単だが、素材は新鮮だ。たとえば、今日の食卓は、サニーレタスと胡瓜のサラダ、ハム、麻の種入りのパンと白ビール。

野菜は農家直売の朝市で、パンは小さな店の作りたて、ハムも地元産で、スーパーで買ったのはビールの小瓶だけである。

初めて飲むそのビールの表示を見ると、ベルギー産、“アフリジェム僧院、1074年から醸造”とある。

ラベルには、「悔い改めた6人の盗賊が修道士になり、作ったビール」と由来が書いてあった。その白ビールは実にうまかった。

原料の大麦は僧院周辺のものを使い、製法は継承というから、オリジナルに近いのだろう。日常の暮らしのなかで、中世が味わえるのは愉快なことだ。


隣の町の土曜朝市

村のロマネスク様式の教会は、僧院ビール元年とほぼ同時期のものである。村人はここで結婚式をあげ葬儀をする。11世紀末以来、教会の鐘(タイトル写真の左)は時を知らせている。風向きがいいと、1キロ離れたわが家にも、その音が届く。

わたしは、教会を見るたびに、歴史が日常のなかに溶け込んでいる風景だと思う。
サン・ジャン・ドコールの教会が建ったころ、日本は平安時代で、平等院が建立されている。京都宇治とはちがい、村の教会の周りには、ビルもマンションも広告もないので、過去が輝いて見える。

ドルドーニュ地方で、歴史が日常のなかにある風景をもうひとつ挙げてみよう。
わが家から40キロのところに、県庁所在地ぺリグーがある。県道をしばらく走り、わき道に入ると“ローマ街道”と呼ばれる真っ直ぐの道路に入る。

この道は、この地方がアクィタニア(のちのアキテーヌ)と命名されたローマの属領時代に、ローマの軍団が使っていた軍事道路のあとである。ジュリアス・シーザーが、ケルト人の住むこの地を征服したのはBC54年だから、2千年前の道路ということになる。

ぺリグーは、当時、“小さなローマ”と呼ばれる繁栄した町だったという。ここには、剣闘士がライオンと戦った2万人収容のコロセウムの遺跡が残っている。

町のガロ・ロマン博物館には、ローマ様式の大邸宅跡が保存されていて、床下暖房システムの残部も展示さている。博物館前にはヴェスナと呼ばれる円筒形神殿(高さ25m)の遺跡もある。


ヴェスナ神殿の遺跡 1世紀建築

こんな風景のなかで暮らしていると、中世もBC一世紀もそれほど遠い過去ではなく、時間の流れの連続性を感じるのである。悔い改めた盗賊の皆さん、ありがとう!


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