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連載・エッセイ

第6回 木曜コンサート ―2008.07.30

ドルドーニュ便り《番外編》


トリオ・マリアン © Henry-Jean Fournier

木曜の朝9時、村の教会に3人の男(二人の退役軍人とわたし)が集合する。木曜コンサートの準備のためだ。フォルニエさん(退役将軍)は、教会修復協会の幹事として募金活動のコンサート(夏5回、入場料15-20ユーロ)を開いているが、これで5年目になる。

ド・ナゼル(退役大佐)さんとわたしは助手というわけだ。準備といっても、椅子を並びかえるのと、演奏のスペースをつくるために、中央にある儀式壇(これは重い!)を移動する簡単なものだ。

教会の壁には、フォルニエさんがつくった教会の歴史を説明するパネルがある。それによると、ここは1083年に建立され、十字軍に参加する騎士が祈りを捧げたという。また、百年戦争のさなかの1394年、英国軍が村を占領し隣接する修道院を破壊、フランス革命時には家畜の飼料(わら)置き場だった。




マリア像

午後5時30分開演、その日は“トリオ・マリアン”のコンサートだった。オランダ人のマリアンが竪琴(ハープ)、ピーターがオーボエ、地元のバレリーが横笛(フルート)のトリオである。彼らはプロだが、無料友情出演だ。

ヴィバルディ、テルマン、ワグナーや現代作曲家の作品が演奏されたが、アンドレス(1941-)の『アルギュー』は最高だった。

『アルギュー』は、まるで小川の清流のなかにいるような気分の作品だ。千年の風雪に耐えた壁に、竪琴とオーボエのやさしい音色が染み入る。演奏中、迷い込んだ小鳥がマリア像のあたりに止まった。

休憩時間は、久しぶりに会った友人にあいさつをし、思いがけない人に会う場になる。その日、25年前に東京の日仏学院でフランス語教師をしていたパリジャンヌに会った。「日本語ほとんど忘れてしまいました」と言う彼女の発音はきれいだった。




フォルニエ夫妻

フォルニエさんに「今日の入場者は?」と尋ねると「130人くらいかな」と答えた。悪くない数字である。それにしても、将軍の熱意にはアタマがさがる。

教会修復協会はこれまでに15万ユーロ(2500万円)を集め、中央の丸天井を修理、次の募金目標は18万ユーロで、内部修復を計画している。国や県への助成金要請から、演奏者との交渉、ポスター作りまで、彼は奥さんと二人ですべてやっている。

コンサートのあと、アラン(パリのミステリー作家)に誘われて、彼の家でワインとフォアグラをご馳走になった。その席で村人から、週末に、教会の中央祭壇の装飾絵画の一部が盗まれたことを知らされた。

教会を狙った窃盗組織の仕業らしい。なんと心無いことをするのだろう。フォルニエさんが気の毒だと思った。翌日、教会史の資料をもらいに、彼を訪ねた。窃盗事件も話題になったが、フォルニエさんは動じたようすはなかった。

彼は資料が入っているメモリー・スティックを渡してくれたが、使いかたが分からないと告白すると、「君はほんとうに日本人?」とからかわれた。「ハイテク宦官です」と答えると、将軍閣下は、わたしの家にきてコピーをしてくれた。


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