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連載・エッセイ

第10回 日本特集号を読む ―2008.09.25

ドルドーニュ便り《番外編》


上の写真は町の図書館から借りた月刊誌 ”L’Histoire” (歴史)の日本特集号の表紙(2008年7・8月号)である。この雑誌は、歴史学者や専門家が一般読者のためわかりやすくテーマを解説している啓蒙誌だ。

編集長が巻頭言で、今年は1858年の日仏修好条約調印から150周年にあたるので特集を組んだと言っているが、なかなかの出来である。

表紙のタイトルは“サムライからマンガまで”。これは平均的フランス人の抱く日本のイメージそのものだ。サブ・タイトルは“極端な日本文明の1万年”。日本文明の歴史は1万年!と敬意を表しているが、ハラキリ、カミカゼ、カローシのイメージが強烈なので、“極端な”という形容詞がつく。


イラストは鎖国直前の日本の交易船

この特集は、縄文土器から憲法9条まで120ページ、イラスト付きで30のテーマを網羅しているが、徳川時代に力をいれ20ページをあてている。フランス人読者が興味を抱くクリスチャン弾圧、平戸、浮世絵、歌舞伎などを語りながら、鎖国時代のプラス(平和と江戸文化)とマイナス(西洋文明とのギャップ)を描いている。

ペリーの黒舟来訪、幕末の混乱で記事は終るのだが、吉田松陰にかなりのスペースを割いている。儒教信奉者で愛国者の松陰が、なぜ死罪覚悟で、海外で学ぼうとしたのか? 筆者は次のように書いている。「西洋の脅威を恐れる一方で、西洋の知識に魅惑され、燃えるような愛国心を持つと同時に、新世界への渇望があった松蔭は、時代の矛盾を象徴する人物であった」。なかなかクールな松陰論だ。

江戸時代から今日までの日仏関係をフランス人の眼で書いた”France, Mon amour”(フランス、わが愛)という題の記事がある。日本人はフランス人に長い間“片思い”をしてきたと言う意味を込めているのだろう。


日本人画家が描いた横浜のフランス人 1861年

そのなかで、幕末、フランス公使だったレオン・ロッシュの部分を読みながら、わたしはあらぬことを考えていた。ロッシュは最後の将軍・徳川慶喜の信頼が厚く、英国に対抗して軍事援助をし、幕藩体制の改革案を提出するほどの入れ込みをしていた熱血漢だった。

しかし結果は、徳川は薩長に敗れ明治政府が成立、勝ち組に肩入れした英国が、のち日本に大きな影響力をもつことになる。歴史にもしはないが、もし徳川政権が生き延びていたら、日本はフランス文明圏の国になっていた可能性が大きい。

ただし、徳川改革政権が「明治革命」(この雑誌では、明治維新をそう言っている)に匹敵する大改革を実現できたかは定かでない。

ともあれ、この「もし、徳川が続いていたら……」は、長州出身で学生時代に松陰に入れあげ、『宝島』の著者R. L. スチーブンソンが書いた“吉田松陰伝”を訳したこともあるわたしの“転向宣言”みたいな夢想である。

それにしても、日本の雑誌はフランスと言えば、ファッションとグルメと観光ばかりだ。150周年を記念して、なぜこの種のフランス特集をださないのだろう。


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