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連載・エッセイ

第11回 ジャポニズム ―2008.10.10

ドルドーニュ便り《番外編》


平安貴族姿のロートレック

フランス南西部にある中世の町アルビのロートレック美術館を訪れた。わが家から車で南に3時間のアルビはロートレック(1864-1901)の生まれ故郷である。美術館はサン・セシリア大聖堂の隣にある司教の旧宮殿にある。まるで城砦のような堅牢な建物で、パリ・モンパルナスの夜の世界を描いた画家の作品を展示するには、少し不釣合いではある。しかし、厳めしい司教の肖像画と「ムーラン・ルージュの踊り子」が共存しているのはフランスらしくて面白い。ともあれ、ロートレックの作品には、日本の美的感覚が立ちこめていた。

ロートレックは日本で最も人気のある画家の一人である。われわれが彼の作品に親しみを感じるのは、ジャポニズムの影響だと思う。ご存知のようにジャポニズムは19世紀中頃から世紀末にかけてフランスで起こった日本の美術から学ぶ運動だ。印象派の画家ゴッホ、モネ、ドガなどが江戸版画に魅了され影響を受けたことはよく知られている。ロートレックもその一人だった。

美術館館長ダニエル・デュヴィンクが『トゥルーズ・ロートレックとジャポニズム』という小冊子を書いている。彼はロートレックが浮世画のスタイルに影響を受けたことを証明するために、左ページに日本版画、右ページに彼の作品を置きその類似性を示している。たとえば、ムーラン・ムージュの踊り子を眺める紳士のシルエットは、歌川芳幾の影法師にヒントを得たものだ。


『トゥルーズ・ロートレックとジャポニズム』(1999刊)

20年前に、アムステルダムにあるバン・ゴッホ美術館を訪れたことがある。そのとき、ゴッホが安藤広重の『名所江戸百景』のなかの“亀戸梅屋敷”を模写した油絵“花咲く梅の木”を見た。ゴッホがそれほど広重に夢中になったことを、それまで知らなかったので、感激してポスターを買ったものだ。“模倣は最大の賛辞である”とは、このことだろう。

19世紀末、ジャポニズムは、ヨーロッパで大ブームを起こしていた。その影響は、印象派画家だけではなく、庶民のレベルまで浸透していたようだ。わたしの妻の故郷はスウェーデン南部の港町で、彼女が育った家は1880年代の建築だった。その家のサンルームの壁には、世紀末に流行した日本趣味の“芸者と梅の花”が描かれていた。小さな北欧の町もジャポニズムの波に洗われていたわけだ。


ゴッホの“花咲く梅ノ木”

ロートレック美術館から戻ってきて数日後、書斎の本棚を眺めていたら、随分昔に買い求めた広重の東海道五十三次の画集(MOA美術館刊)があるのに気が付いた。広重のやさしい筆さばき、移り行く四季、とくに雨雪霧月などには日本的抒情が溢れている。思わず私は、江戸時代にタイムスリップしたい衝動に駆られ、ロートレックやゴッホが、広重の信者になったのがわかる気がした。


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