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連載・エッセイ

第15回 暖炉の炎 ―2008.12.17

ドルドーニュ便り《番外編》


マキの山

今年の12月は雨がよく降る。曇天と霧雨の日が続いたあと、突然、雲ひとつない青空の日がやってきた。小型車クリオに乗って10分、いつもの散歩道の基点に到着。しばらく、緩やかな坂をのぼると、右手に5メートルはある巨大なマキの山が現れた。当地では、暖炉のマキは冬の生活必需品だが、これは販売用だろう。

わが家にも応接室とダイニングルームに暖炉がある。しかし、暖房は石油ボイラーでやっているので、日常的に使うわけではない。客があるとき、クリスマスや正月、それと雪の日など暖炉の炎が恋しくなると利用する。マキは、城主で前村長のド・ボモンさんから買ったものだ。彼は森を持っているので、そこで伐採した樫の木などをマキにして販売している。代金は1立法メートルで50ユーロ(6000円)。これで、春まで大丈夫だ。

ダイニングルームの暖炉は、この家が建てられた1827年に作られたものだから、年季が入っている。昔は、この部屋は台所兼食堂として使われていたようだ。暖炉には鍋やフライパンが掛けられ、豚や鶏を何時間もかけて焼く装置がついている。その右には、当時、パンをつくったオーブンがある。床はピゼといわれる石畳で、今では珍しいと、地元の人は言う。


ダイニングルームの暖炉

夕食に客を招いたときには、1時間前に暖炉に火を入れはじめる。5分で燃え上がることもあるが、マキが湿っていると30分かかることもある。古新聞に火をつけるだけでは効果がないときには、燃焼増強剤を使うこともある。はじめは、マキの並べ方と大小の組み合わせのコツがわからずに苦労したものだ。

数年前、友人I君夫妻が、わが家にやってきたことがある。彼は出版社の編集者、TVプロデューサーなどを経てフリーのジャーナリストをやっている。大学時代からの友人で、一緒に仕事をしたこともある。わたしはI君の才能に敬意を抱き、その人柄を愛している。そのI君が、滞在中、わが家の暖炉の炎の虜になってしまい、朝に夕にマキを燃やし続け、じっと炎を見つめていた。わたしが「君は“火淫”の人だね」とからかうと「いや、素晴らしい。炎の発見だね」と言っていた。

人は炎になぜ魅せられるだろう。揺らめく炎を見ていると、時の流れを忘れてしまう。あたりが優しく、親しみのある空間になる。そして、静寂と闇のなかで燃え上がる炎の前で、人は沈黙し哲学的になる。


先月、I君夫妻に鎌倉でご馳走になり、翌日、成田を発ってドルドーニュの家に戻ってきた。その2週間後、彼から「ガンの宣告を受けた」と電話があった。わたしは言葉を失った。食欲があまりない、と言っていたが、ガンとは思ってもいなかった。その日、わたしは暖炉に火をいれ、炎の写真を撮りI君に送った。


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