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連載・エッセイ

第18回 散髪屋さんのオック語 ―2009.01.22

ドルドーニュ便り《番外編》


オック語の看板“ここで髪刈ります”

「オック語を喋る人を誰か知らない?」と図書館の司書ルーシーに尋ねたら「散髪屋さんのロベール、紹介するわよ。店の看板はオック語よ」と言う。定休日の月曜朝、ロベール・ラクスさんに会いに行った。

オック語は、この地方で一昔前まで誰もが使っていた日常語で、今でも年配の人々が喋る言葉である。現在、南フランスを中心に、スペイン、イタリアで数百万の人々が使っているという。フランス語とは異なる、中世から南フランスで使われてきたロマンス語系の言葉で、発音はスペイン語やイタリア語にちかい。

この言葉のことを知ったのは、数年前の夏、夕陽さす荒城の庭で開かれたでコンサートだった。オック語で謳われるトルバドゥール(即興詩人)の歌曲にわたしは魅せられた。歌詞は分からなかったが、メロディーは心に沁みる哀愁があり、不思議な透明感があった。それに、中世の衣装を着て独唱した女性も美しかった。


コンサートがあった荒城

トルバドゥールの歌は11世紀から13世紀にかけて、南フランスで大流行した恋を語り、騎士道を語る人生讃歌である。おおらかで気品があるのは、作詞、作曲をしたのが貴族階級だったからだろう。

ともあれ、この程度の知識しかなかったのだが、最近、ドルドーニュ県のリセ(高校)では、オック語を希望すれば学ぶことができ、地元のラジオ局は日曜日にオック語放送をしていることを聞き、ラクスさんに会いに行ったのだった。


ロベール・ラクスさん(図書館で)

「どこで、オック語を学びました?」(Hijino)

「家庭で両親がいつも喋っていたから、自然に覚えたよ」(Reix)

「なぜ、オック語にそんなに愛着があるのですか?」(H)

「ぼくのルーツだからね」(R)

「テープでオック語の朗読を聞いたのですが、皆目分かりません。でも、発音はスペイン語に似てますね」(H)

「むしろ、イタリア語に似ているね。その証拠に、サッカー試合のイタリア語放送を聴いていると、だいたい分かるよ」(R)

「オック語の特徴はなんでしょう」(H)

「フランス語に比べると音楽的で絵画的なことかな。スペイン人のスペイン語より、アルゼンチン人のスペイン語のほうが音楽的なのに似ているね」(R)
 

そのあと、ラクスさんは、同じ言葉やセンテンスをオック語とフランス語で発音してくれた。絵画的なという点はわからないが、なるほど音楽的ではある。

図書館で借りたオック語に関する本”Perigord,Occitan et langues de France”(2005年刊)のなかに、10年前に行われたオック語についての調査結果がある。それによると、ドルドーニュ住民の33%はオック語を喋ることができ、54%は理解できると答えている。

わたしはこの調査結果に触れ、「オック語の将来はどうなるでしょう」とラクスさんに聞いてみた。「土曜の朝市では、外国人が喋る英語が飛び交っているし、高校でオック語を選択する学生も少ない。このままでは急速に衰退するね」と、即興詩人の言葉を守るラクスさんは寂しそうだった。


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