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連載・エッセイ

第20回 アダモの“雪が降る” ―2009.02.24

ドルドーニュ便り《番外編》


雪の日のわが家の庭

雪が降った。庭の小さな朱色の太鼓橋も白くなった。異国の環境のなかで、この橋を見ると心が和む。

雪の日の愉しみは読書。それもミステリーがいい。天安門事件の翌年の上海を舞台にした犯罪小説、ジョー・シャーロンの『Death of a Red Heroin』(2000年刊)を読んだ。

主人公は詩人刑事のチャン・ツァオ。殺人事件の謎解きも面白いが、中国共産党トップの子弟のコネ濫用が強烈に印象に残る。フランスでも、この在米中国人作家の本はよく読まれているようだ。

英語版を読んだあとインターネットで調べてみると、日本では『上海の紅の死』(早川書房)のタイトルで邦訳がでていた。訳者があとがきで、「英語で読むより日本語で読んだほうが、イメージが広がるかもしれない」と書いていた。なるほど、言われて見ればその通りだ。

詩人警部チャン・ツァオは陳操、殺される美人・模範党員グアン・ホンインは関紅英、上海の地名、孔子の言葉や唐代、宋代の詩も、アルファベットより漢字のほうが、現実感があり親しみがわく。これが文化アイデンティティというものだろう。

深夜、YouTubeを散策した。ときどきアクセスするのだが、意外な発見があって面白い。まずは、ビールとクルミのナッツ(わが家の庭でとれたもの。麻生首相がいくホテルのバーのナッツよりうまい!)を準備、イケヤの安楽椅子に腰掛ける。“やまとバー”の開店!

映画「駅Station」や「鉄道員(ぼっぽや)」は、北海道が舞台で雪の場面が多かったなあ、と思いながら高倉健をクリックすると、“唐獅子牡丹 歴史的シーン 男の美意識の頂点”がでてきた。

バックグラウンドに唐獅子牡丹の歌が流れ、小雪の降る夜道を、傘をさし二人の男が敵陣に乗りこんでいく。高倉健と池部良が、死を覚悟の殴りこみをかける直前の場面だ。

ヤクザ映画のセンチメンタル・シーンと言えばそうかもしれない。だが、この場面はなにか強く情感に訴えるものがある。むやみやたらに、殺しまくるハリウッドのアクション映画より、よほど詩的である。(血なまぐさい修羅場はご免だが)義理人情の詩も、また良いものだ。

そのあと、阿久悠の作詞した曲や、好きなシャンソンをYouTubeで思いつくままに検索して聴いていた。そのうちに、アダモが日本語で歌う”雪が降る“に出合った。

“雪が降る~あなたは~来ない”と、ほぼ完璧な日本語でしみじみと歌っている。きれいな日本語なので、歌詞が心にしみこんでくる。これには、おどろいた。越路吹雪や美空ひばりの“雪が降る”よりいい。

“雪が降る”は、アダモの作詞(仏語)作曲だから、誰も敵わないかもしれない。それにしても、見事だ。歌は国境を越えるというが、アダモは国境を溶かしている。


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