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福島祥行「外国語の学び方 『駆け込み訴え』篇」 ―2009.03.13

先生 こんにちは。きょうも楽しくニホン語を学んでゆきましょう
アシスタント 先生、きょうのフレーズはなんですか?
先生 きょうのフレーズは、「あの人は、ひどい」です。まずはスキットをごらんください
「申し上げます。申し上げます。旦那さま。あの人は、酷い。酷い。はい。厭な奴です。悪い人です。
ああ。我慢ならない。生かして置けねえ」
アシ 前回の「恥の多い生涯を送って来ました」ってフレーズより実践的な感じがしますねー
先生 そうですね。日常的にもよく使えるんじゃないでしょうか
アシ 前回のは、人間を失格した人限定って感じでしたからねー
先生 それでは、フレーズのしくみを見てみましょう。「あの人は」が主語です。さて、これは単数形
か複数形か、どっちでしたか?
アシ 単数形です。複数形だと「あの人々」になります
先生 そうですね。そして、つぎの「ひどい」が述語になります。では、この「ひどい」という単語
の品詞がわかりますか?
アシ えーと、「い」で終わってますから、形容詞ですか?
先生 はい、そのとおりです。この形容詞は、「残酷だ、苛酷だ、むごい」という意味で使います。も
ともとは、人情にあわない、道理にはずれているという意味の「非道」という漢語を、ニホン語の
形容詞のかたちにしちゃった造語なんですよ
アシ へえ、そうなんですかー。じゃあ、「プロい」みたいなもんですねー
先生 え、それはどうゆう意味ですか?
アシ 「プロのような」って意味ですねー。ほかにも「マニい」ってのもあります。もちろん、「マニ教徒っ
ぽい」って意味じゃありませんよー。「マニアックな」の意味ですー
先生 なるほど、ニホン語の造語力には、はかりしれないものがありますね。では、つぎに応用編を
ごらんください
 「子供より親が大事、と思いたい」
 「親は、ひどい」
 「威張るなよ」
 「親友は、ひどい」
 「兎は、狸を泥の舟に乗せて沈めました」
 「兎は、ひどい」
先生 いろいろ使えますね
アシ 先生、あたし、べつに兎はひどくないと思うんですけどー
先生 若いお嬢さんたちは、みんな兎の味方するみたいですね
アシ だって、キモいじゃないですか、あの狸
先生 まあ、たしかにそうなんですが……
アシ このフレーズはほかにも応用できますよねー
先生 はい、そうですね。たとえばどんなフレーズを思いつきますか?
アシ 「狸の弁当はひどい」「狸の性格はひどい」「狸の顔はひどい」
先生 狸、全否定ですね
アシ だって、キモいんですもん、あの狸
先生 でも、いまの「ひどい」は、すべて、もうひとつの「ひどい」の意味でしたね。このことばには「残
酷な」のほかに、「程度がはなはだしい」「はなはだしく悪い」という意味があるんです。「弁当が
ひどい」なんかはその意味ですね
アシ あー、なるほどー
先生 それでは、こんどは、このフレーズを、スキットを参考にして、べつの語に変えてみましょう。じゃ、
ちょっとやってみてください
アシ ハイ。「あの人は厭な奴です」「あの人は悪い人です」「井伏さんは悪人です」
先生 はい、よくできました。でも、最後のフレーズは変えすぎですね。遺言の下書きにでも書いてく
ださい
アシ ハイ!
先生 それでは、つぎは、コトバのベンキョーのコーナーです
アシ さて、このコーナー、コトバをベンキョーするということについて、いろいろな話題をとりあげて
いますが、きょうは、どうやったら長続きするかというテーマです。先生、なんかコツがあるんでしょ
うか?
先生 やはり、この講座でやってるように、とにかく口に出すとかブログに書くとか、使ってみることで
すね。当該言語のニュースを毎日読むのもいい方法ですよ。最近は、気になるキーワードの記事だ
けメールで配信してくれるシステムもありますから。まあ、まずは、当該言語圏の文化や歴史にも興
味をもつことです。この講座のおかげで、ニホンの文化に興味が湧いたでしょう?
アシ はい、ちょっとピンポイントな気がしますけどねー
先生 さて、もう時間がきたようです
アシ きょうのフレーズは「あの人は、ひどい」でした
先生 どうでしょう? このフレーズをマスターすれば、師を売りとばして銀貨30 枚が手にはいるかも
しれませんよ
アシ わー、それはすてきですねー!
先生 それでは今回の「ニホン語講座」はおしまいです。次回は「走れメロス」というスキットを見
ますよ。次回のフレーズをマスターすれば、友だちの頬を音高く張りとばすことができるようになる
かもしれません
アシ そのまえに、じぶんがぶん殴られる必要がありそうですけどねー
先生 いやー、語学って、ほんとにいいものですね。みなさんも、ぜひコトバを学んで、いろいろな
可能性を手に入れてみてください。それではまた、次回お会いしましょう
アシ さよーならー!

プロフィール: 福島祥行(ふくしま よしゆき)
1964 年生まれ。大阪市立大学大学院文学研究科フランス言語文化教室准教授。
専門はフランス語学・フランス語教育方法論・劇場論。
今春より月刊誌『ふらんす』にて「浪花ふらんす亭弥縫録」を連載開始。
公式サイト:http://chat--noir.com/

連載・エッセイ
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