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その5 ―2009.04.08 3週間弱におよぶ贅沢な休暇を終えて東京に戻り、山積した仕事や雑務を片付けたころには、3月も半ばにさしかかりすっかり陽気も春めいていた。「そうだ、暖かくなったしガスパチョを作ってみよう!」とある日仕事は一切しないことに決め、近所で材料を買い揃えた後、ネットで購入したJuan Kattán-Ibarra著 teach yourself spanish のCDを初めてプレイヤーに差し込んだ。野菜の皮をむいたり細かく切ったりという作業は大好きだ。ストレスは和らぎ心がスッキリするし、頭も冴える。だから語学のCDを聞きながらやると効果絶大!と考えたわけだ。野菜に触っていると素直な気持ちになるらしく、CDの会話練習や単語練習なども、馬鹿正直にすべて声に出して繰り返した。そのまま第4課まで進み、「よし、好調、好調」と第1課からもう一度聞いた。こんなペースだから、ガスパチョも大量にできた。 ガスパチョはトマト、タマネギ、きゅうり、ピーマン、ニンニクといった野菜を、パン、水、酢、オイルと一緒にミキサーにかけるアンダルシア名物の冷製スープだが、材料のバランスがなかなか難しく、満足がいく出来に仕上がるまでには何度もめげずに作るしかない。ようやくおいしいと思えるガスパチョが完成したとき、そういえば友達になったセビリアのホテルの支配人が料理好きだと言っていたなと思い出し、「ガスパチョが上手くできた!」とメールで報告したところ、「自分のガスパチョがおいしいと主張するとは君、勇気あるね」と強烈な皮肉が返ってきた。「ふん、誇り高きアンダルシア男に報告した私が馬鹿だった。でもおいしかったもんね」と反論すると今度は「そりゃおいしかっただろうさ。ところで何色だった?」と痛いところを突いてくる。別のセビリア出身者に聞くと、ガスパチョは「赤くないとダメ」なんだそうだが、私のはピンクだったのだ。ホテルの支配人にコツを聞くと、「セビリアで作ることさ」とさらに腹が立つ返事だった。トマトと水が違うそうである。その後、再びセビリアを訪れレストランでピンク色のガスパチョが出てきた時、勝ち誇ってその証拠写真を撮ったのは言うまでもない。 水といえば、マドリード出身の友人が話してくれたのだが、昔お父さんの友人がバレンシアからマドリードに遊びに来たとき、バレンシア名物のパエリアを作って食べさせようと、諸々の材料のほかに水まであちらから持ってきたそうだ。結果は「とてつもなくまずかった」。 まず何よりも、熱意が違ったのだろう。特にスペイン南部のアンダルシアに関していえば、西洋的なものとアラブ的なものを独特のセンスで融合し作り上げられた文化が、私個人の精神構造とテイストにあまりにも合っていたので、そこで話される言葉を知らないという選択肢はもう考えられなかった。だから意気込みも違う。たとえば、ホテルから空港へ向かうシャトルバスのラジオから流れてきた女性シンガーの曲。フラメンコとアラブ音楽の要素を取り入れたポップスはすぐに気に入ったが、名前が分からない。そこで東京に戻った後、オンライン・ショップでスペイン女性ヴォーカルを検索し、サンプル・クリップを片っ端から聞いて、ようやくDiana Navarroの大ヒットアルバム No Te Olvides De Mí を探し当てた。私は普通、こんなに頑張らない。辞書を片手に歌詞カードを読み、何度も聞くことで覚えた単語はずいぶん役に立った。やはり語学、特に学習初期は、寝食よりもこれが楽しいとのめり込むのでなければ身に付かない。 もうひとつは、選んだ教材がアタリだったこと。先に述べた teach yourself spanish と続編 improve your spanish は、英語で学習する用意のある人にはぜひお薦めしたい優れものである。そのほか、サラマンカ大学が出版しているLeer en españolのシリーズは、スペイン語で書かれた文学作品をレベル別に易しく書き変えてあり、一部は朗読CD付きなのでiPodなどがあればどこでも学習できる。特にレベル5まで頑張れば、デリーベスの Los Santos Inocentes という素晴らしい作品が待っている。そのほかにも、使えそうなフレーズがたくさんある有名人インタビューや映画をテレビから録画し、パソコン・ソフト(3千円程度)を使って音声をデジタル化しiPodで聞くのも効果的だった。最初はなかなか聞き取れなくても、学習が進み繰り返し聞いているうちに少しずつ分かるようになるから張り合いも出る。 |
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