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連載・エッセイ

第6回 ―2009.05.14

愛書狂

 芥川比呂志が若い頃、ある酒席へ参加したが、萎縮して一人無言でいた。すると座敷の主人格の男が声をかけた。「きみ、靴下を脱いでごらん。楽になる」。言われた通りにすると、本当に気が楽になったという。

 絶妙のアドバイスをしたのが、あの太宰治。太宰は、酒を断る比呂志に、またこう言った。「弱きを助けよ」。勧める方が弱い立場だから、助けると思って飲んでくれ、という意味だ。小説の天才は、社交の天才でもあった。その太宰が生まれたのが一九〇九年六月十九日。今年は生誕百年とあって、さまざまなイベントが行われるようだ。

 故郷の青森県では「生誕百年記念式典」および、各種の企画が目白押し。笑ったのは「走れメロスマラソン」で、太宰の生家「斜陽館」を見ながら快走できる、とのこと。……なあんだ、最後は裸でゴールするのかと思ったよ。「『人間失格』大会」も探してみたが、さすがにそれはない。

 「太宰治」で、いちばん驚いたのが「CABIN」第十一号。近ごろ、 届くのが楽しみな文芸誌の巻頭に、高橋徹が「津軽行2008」を寄せている。そこに「来夏発行予定の古書目録『特集太宰治』を書き出す前に」とある。「月の輪書林」の次回目録は「太宰治」だ。

 「私家版・安田武」「古河三樹松散歩」「美的放浪者・竹中労」など、特集主義の目録で世の読書人をうならせてきた古書業界の鬼才が、次に挑むのが「太宰治」とは! もちろん、あの月の輪書林のことだ。並みの特集になるわけがない。今年の夏は熱いぞ。


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