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第11回 ―2010.03.19 定期券をキセルに悪用するヒトがあまりに多く、頭を悩ませる記述が『国鉄あらかると』にある。昭和四十年に日本国有鉄道(現JR)から非売品として出された鉄道雑学本だ。「キセル」とは、途中の運賃を払わず改札を通ることを意味する。 喫煙具の「煙管」の吸い口と雁首だけに金属が使われることからついた隠語だが、Suicaの普及で減少したようだ。そもそも「煙管」自体が死語といっていい。また無賃乗車は「薩摩の守」 と言われ、これは「薩摩の守忠度(タダ乗り)」に掛けてある。いずれにせよ不正はいけません。 大江健三郎の新作長編『水死』 (講談社)を読んだら、著者の分身とも言える、長江古義人という小説家が出てくる。ここで長江は、四国の森の中にある仕事場で、若い劇団員たちに刺激されながら、水死した父親の小説を書こうと試みる。 作中に登場する若い女性の劇団員には、長江つまり大江の作品をそれまで未読で、すでに過去の人であり、「現代」ではなく「近代」の作家だと思っていた、と言わせている。ここで気になるのが、本好きを自称する、いまの若い人と話していると、現代作家の名前しか挙がらないことだ。 村上春樹、伊坂幸太郎、東野圭吾、川上弘美、角田光代など、同じ今の空気を吸う作家しか興味がないらしい。その他となると漱石、芥川、太宰と半世紀以上タイムスリップしてしまう。戦後派も第三の新人も内向の世代も眼中にない。途中に金を使わないから「キセル」と一緒だ。不正はいけません。ちゃんと途中にも金を払おう。 |
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