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連載・エッセイ

山崎まどか(2)『セルフ・ヘルプ』 ―2010.03.19

再読愛読

山崎まどか 第二回

『セルフ・ヘルプ』ローリー・ムーア 著/干刈あがた、斎藤英治 訳

 ローリー・ムーアの作品集『セルフ・ヘルプ』に収録されている短篇の大半は、タイトルにふさわしくハウ・ツー物の形式で書かれている。主人公は「あなた」であり、文章が指示するのは「別の女になる方法」や「作家になる方法」。離婚家庭の一人息子が父親の家で過ごした後、テレビの前にいる母親に対してどのように振る舞うべきか書かれた「離婚家庭の子供のためのガイド」もある。

 どの短篇も、普通のハウ・ツー・ガイドのように幸せになる方法など教えてくれない。いかにもこの本が書かれた八十年代の女性雑誌に出てきそうな「ベージュの高価なレインコート」を着た「別の女になる方法」の「あなた」は、不倫の恋に傷つくばかりだ。この本の中の「あなた」は病気の彼氏を捨てて、罪悪感が死に絶えるのを待っている女だったり、恋人にも猫にも出て行かれる孤独な女だったり、大学でうっかり創作クラスの授業を受けたために人生を踏み誤ったりする。彼女たちはただ「~しなさい」という声に導かれて、ここまで来てしまったに過ぎない。だから、自分(あなた)の人生なのに、主人公はどこか他人事のようにそれを見ている。クールで、現実の地平からちょっと浮遊しているような感じが魅力的だ。そして「あなた」と名指しされている以上、それは本を読んでいる人の、もうひとつの人生でもある。だからそうなるかもしれなかったもう一人の「あなた」に小さく手を振りながら、この本を読みましょう(ハウ・ツー物の口調で)。

▼筆者=ライター。著書に『乙女日和』、訳書にタオ・リン『イー・イー・イー』http://romanticaugogo.blogspot.com/

セルフ・ヘルプ
セルフ・ヘルプ

ローリー・ムーア 著/干刈あがた、斎藤英治 訳

ハウ・ツー物の文体パロディで描かれる現代人の孤独な人生。八十年代アメリカを代表する女性作家の傑作短篇集。


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