
山崎まどか 第三回
『ノリーのおわらない物語』ニコルソン・ベイカー 著/岸本佐知子 訳
子どものころの豊かな世界
『ノリーのおわらない物語』を読むことは、九才の女の子の脳内を旅することだ。
アメリカの(ずいぶんとヒッピー的な)学校からイギリスに転校してきた少女ノリーの日常は、波乱に満ちている。転校生というのはそれだけで口の中で抜けかけている歯のようにグラグラしている身分だ。新しい学校には新しい学校のルールがあるし、何だか納得のいかないいじめもある。どこまで本当の友だちになれるか分からない、ちょっと競争心が強い同級生との関係もまだ定まらなくて、同じ学年に飛び級してきたいじめられっ子のパメラと仲良くなりたくても、なかなか手を伸ばすことが出来ない。それだけでも充分に忙しいはずなのに、お話を作るのが好きなノリーの頭は、親友の思い出やイソップ風に教訓が最後に来る自作のおとぎ話、弟のチビ助の言動など雑多な思考で溢れかえっている。この小説の中ではそれがもう、整理されずにだだ漏れの状態で綴られているのだ。
ニコルソン・ベイカーが自分の娘アリスのおしゃべりをそのまま書き取ったかのような、少女の妄想と思考と現実がいっしょくたになったような不思議な文体がチャーミングだ。どこで話がまとまるのかさっぱり分からないノリーのおしゃべりを永遠に聞いていたくなる。私も九才の時はこんなとりとめのない話し方をしたものだった。なかなか大人には伝わらなかったけれど、豊かな世界を生きていたように思う。その世界が自分の中から消えていなかったことを、ノリーと旅して初めて知った。
▼筆者=ライター。著書に『乙女日和』、訳書にタオ・リン『イー・イー・イー』。http://romanticaugogo.blogspot.com/

| ノリーのおわらない物語
ニコルソン・ベイカー 著/岸本佐知子 訳
可愛くて、お話を作るのが大好きなアメリカの少女がイギリスの小学校に転校して大活躍! |