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連載・エッセイ

第1回 今岡良子【モンゴル語】 ―2010.05.31
ことば紀行

【主な使用地域】
モンゴル国、中国内モンゴル自治区
【話者数】500〜600万人
【使用文字】キリル文字、モンゴル文字
【あいさつしてみよう】Сайн байна уу? サイン バイノー?(こんにちは)

 何か新しいことを始めたい。4月は語学の入門書がよく売れるという。その後、なかなか続かないのは、自分自身が変わらないからだ。つまり、英語を勉強してきたように、真面目に取り組んでしまう。いい高校、いい大学に行き、いいところに就職するという、自分を取り巻く身近な人たちの期待とある種の脅迫の中で正しい英語を勉強してきたのではないか。新しい外国語は、人生を楽しむようにかかわってみよう。
 昨年の夏、モンゴルへ行ったAさん、62歳。高校に進学する機会がなく、学校で受けた英語教育に記憶がない。しかし、2週間の滞在期間中、通訳をつけることもなく、モンゴル人のホストファミリーと楽しく過ごした。
 Aさんは、言葉よりも先に、身振り、体全体が動き、思いを伝えようとする。「ありがとう」を言う前に、満面の笑みを浮かべる。言葉で伝える時は、モンゴル語でも、大阪弁でも、とにかく大きな声を発して注意をひく。発音の難しい単語は、相手に日本語を教えてしまう。家庭菜園を耕したり、陶芸をしたり、日本料理を作ったり。同じ動作をしながら、幼い子どもが言葉を吸収していくように覚えていく。2週間でなんとなく日常会話をつかめるようになった。
 同じ頃、モンゴル語を専攻する学生が、ホームステイ先で言葉の壁にぶつかっていた。まず、聞き取れない。教室で聞くネイティブの発音は、コントラストがはっきりしてわかりやすい。しかし、生活者の発音は、グラデーションのような多様さがある。年代によって、選ぶ言葉、話し方が違う。次に、覚えた会話文をスラリと口にしても、返事がなく、会話が途切れてしまう。「ありがとう」「ごめんなさい」は最初に習うが、モンゴル人は感謝や謝罪の気持ちがあっても、言葉で表現しない。相互扶助の社会では、口先よりも、行動が重視されるからだ。そして、学生自身に生活経験が乏しいため、ホームステイ、1日目に自分と家族の紹介をすると、翌日から話すネタがない。自己嫌悪に陥り、話せなくなり、3泊のホームステイを2泊で切り上げた。
 正しさにこだわると、相手の投げかけてくる多様性に適用できないし、間違ったらいけないと思うと、恥ずかしくて言葉を外に出すことができなくなる。そこは、相手に対してストライクゾーンを広げて、自分に対しても寛容でいい。失敗しても、間違えても、人生にかかわりなし。4月に入門書を買った方、そんな気楽な気持ちで、新しい外国語を続けてみてはいかがでしょうか。

(筆者=大阪大学世界言語研究センター准教授)

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