《エクス・リブリス》とは、「蔵書票;〜の蔵書から」を意味します。独創的な世界の文学を厳選して贈るシリーズです。

最新刊


そんな日の雨傘に
Ein Regenschirm für diesen Tag

ヴィルヘルム・ゲナツィーノ
Wilhelm Genazino
鈴木仁子訳

靴の試し履きの仕事で、街を歩いて観察する中年男の独り言。関係した女性たち、子ども時代の光景……居心地の悪さと恥ずかしさ、滑稽で哀切に満ちた人生を描く。

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好評既刊



野生の探偵たち
Los detectives salvajes

ロベルト・ボラーニョ
Roberto Bolaño
柳原孝敦、松本健二訳

謎の女流詩人を探してメキシコ北部の砂漠に向かった詩人志望の若者たち、その足跡を証言する複数の人物。時代と大陸を越えて二人の詩人=探偵のたどり着く先は? 作家初の長編にして最高傑作。

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煙の樹
Tree of Smoke

デニス・ジョンソン
Denis Johnson
藤井光訳

ベトナム戦争下、元米軍大佐サンズとその甥スキップによる情報作戦の成否は?『ジーザス・サン』の作家が到達した、「戦争と人間」の極限。山形浩生氏推薦!《全米図書賞》受賞作品。

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青い野を歩く
Walk the Blue Fields

クレア・キーガン
Claire Keegan
岩本正恵訳

名もなき人びとの恋愛、不倫、小さな決断を描いた世界は、「アイリッシュ・バラッド」の味わいと、哀しみ、ユーモアが漂う。アイルランドの新世代による、傑作短篇集。小池昌代氏推薦!

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悲しみを聴く石
Syngué sabour

アティーク・ラヒーミー
Atiq RAHIMI関口涼子訳

戦場から植物状態となって戻った男。コーランの祈りを唱えながら看病を続ける妻。やがて女は、快復の兆しを見せない夫に向かって、誰にも告げたことのない罪深い秘密を語り始める……。

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ミスター・ピップ
Mister Pip

ロイド・ジョーンズ
Lloyd Jones
大友りお訳

島の少女マティルダは、白人の先生に導かれ、ディケンズの『大いなる遺産』を読み、その世界に魅せられる。忍び寄る独立抗争の影……最高潮に息をのむ展開と結末が! 英連邦作家賞受賞作品。

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通話
Llamadas telefónicas

ロベルト・ボラーニョ
Roberto Bolaño
松本健二訳

スペインに亡命中のアルゼンチン人作家と〈僕〉との奇妙な友情を描く「センシニ」をはじめ、心を揺さぶる14の人生の物語。ラテンアメリカの新たな巨匠による、初期の傑作短編集。

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イエメンで鮭釣りを
Salmon Fishing in the Yemen

ポール・トーディ
Paul Torday
小竹由美子訳

砂漠の国に鮭を放つ!? イギリス政府も巻きこんだ奇想天外な計画「イエメン鮭プロジェクト」の顛末はいかに……処女作にしてイギリスで40万部を記録したベストセラー長編。

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ジーザス・サン
Jesus' Son

デニス・ジョンソン
Denis Johnson
柴田元幸訳

緊急治療室でぶらぶらする俺、目にナイフが刺さった男。犯罪、麻薬、暴力……最果てでもがき、生きる、破滅的な人びと。悪夢なのか、覚めているのか? 乾いた語りが心を震わす短編。

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 『煙の樹』刊行記念・現代米文学・俊英対談!(前編) 都甲幸治&藤井光、『煙の樹』とジョンソンを語る【1】

遂に刊行されたデニス・ジョンソン『煙の樹』は、邦訳で600ページを超える、手応え十分すぎる大作です。そこで、最先端の世界文学ならこの方々に訊くべし!ということでお二人の文学者をお招きいたしました。ブコウスキーをはじめとする多くの翻訳と著書『偽アメリカ文学の誕生』でおなじみの都甲幸治さん、本作が初の翻訳書となる藤井光さんです。まずは『煙の樹』とデニス・ジョンソンについてお話しいただいた前編をお送りいたします。

藤井光:『煙の樹』を訳すことになって最初にびっくりするのは、この分量ですね。僕は短篇集の『ジーザス・サン』からデニス・ジョンソンに入っているもので。『ジーザス・サン』の場合は、ジョンソンの世界が、ものすごく切り詰められた、研ぎに研いだナイフの切っ先のような感じで提出されていて、読者に対して絶えず斬りつけてくるような作品だったわけですよね。それに比べると『煙の樹』はもっとゆったりとした、ある種の大河小説のようだと言える。ただ、物語としてはものすごくスローなんですけれど、その流れに身を任せて油断していると、いきなり斬りつけてくる『ジーザス・サン』から受け継がれた鋭さもある。そうして絶えず、ちょっとぼーっとしかけたら目をパーンと覚まされるというのを繰り返していくうちに、気がついたら物語に乗せられて最後まで行ってしまう。分量は途中から気にならなくなっていき……僕がジョンソン・マニアだからかもしれませんが、まだまだ訳していけるなと思いました(笑)。
 ジョンソンは、短篇の場合特にそうですが、ストーリーとしてここで盛り上げてここで締めるというような起承転結をあまり気にしません。本能的な作家なんだろうと思います。『煙の樹』もスピードの緩急を繰りかえしてうねりを生み出している。そういう語り口が、いちばんすごいなと思ったところですね。
 内容的にはジョンソン・ワールドをフルパワーで展開していて、ちょっと病んだ人間の病みっぷりが加速していくところが、今回は戦争というテーマの下でさらに全面展開されている。本当にこの作家は容赦しない、極限まで行くのが持ち味ですね。極限の状況を目指す強靱さもすみずみまで染み渡っていて、そこが本作の強さであると思います。

都甲幸治:なんと言っても戦闘シーンはすごいですよね。迫撃砲を受けて山を逃げ回ったり、友軍の照明弾が腹に入ってしまい廃人同様になったり。一方で、間に普通の小説っぽい部分もあります。『ジーザス・サン』は全ての文章、行、ディテール、展開が尋常ではなくて、たとえばごく短い短篇のなかで急に季節すら変わってしまうことがあった。雪が降ってきたと思ったら実は野外映画館のスクリーンの像だったとか。結末も訳がわからない。それを延々長篇でやられると読んでいて辛いんでしょうが、『煙の樹』ではある程度普通に読める部分と、密度の上がる激しい部分とが交互に出てくる。ベトナム戦争については過去にも、『ジーザス・サン』で徴兵されベトナムに行くところを逃げる話があったり、Fiskadoroではベトナムをヘリコプターで脱出した老婆が、隔離された架空のカリブ海世界の女王になったりしていましたから、ジョンソン作品の裏にはいつもベトナムや暴力といった力が働いているんだなと思ってきました。しかし『煙の樹』で彼がここまであからさまにこだわりを出してきたのには、半ば驚き、半ば納得といったところです。

藤井:ジョンソンは『煙の樹』を1982年頃から断片的に書き始め、刊行の7~8年前から本格的にまとめ始めた。長い間自分の頭の中の片隅に常にあり続けたものを、最後に改めてまとめ直したという、彼にとって総決算的な作品と言えるのでしょう。

都甲:彼が60年の人生で考えて続けてきたことが裏にあるので、内容はまったくブレていませんよね。それはおそらく、正確には自分はアメリカ人ではない、ベルリンで生まれ幼少期は東京やフィリピンで過ごした、アジア人かつアメリカ人である、という彼の経歴から来ているのではないかと思います。だからアメリカの大義について書くにしても深みがあるし、共産主義と仏教の入り混じった、ベトナム人の不思議な世界観も描ける。藤井さんは「訳者あとがき」でティム・オブライエンとの違いについて言及していましたよね。

藤井:オブライエンの場合はアメリカ側に立って戦った自分の視点だけからしか物語を書けないと明言して、自ら限定していますよね。ジョンソンはベトナム人登場人物の心理描写にもものすごく説得力があって作り物っぽくないですし、アメリカの大義を信じて戦争に突入していく登場人物をカリカチュア的に描写できるのも、相対化できる立場ならではの特権であると思います。

都甲:右翼、保守、軍人、白人、男性……アカデミックな世界でしたら、もはやそういう人々から文化の中心は別に移っている、と簡単に語られてしまうのでしょうが、現実にはたくさんいる彼らの抱く哀しみもよく出てますよね。

藤井:自分の大義を信じて勇ましく突っ走って行くけれどツルッと足下を滑べらせてしまう、そんなオチのつけ方も散見されて、独特のユーモア感覚がありますね。

都甲:共産主義から自由主義を守るとか、祖国のために戦う、といったシンプルな大義がベトナムではまったく通用しない。熱帯では大義も溶けてしまうんです。味方だと思っていた人が実は全員二重スパイだったりとか。周囲の誰もどの立場かわからないし、いったい何を守っているのかもわからない。そういう中で全てがないまぜになり滑っていく。それを悲しむでもなく、ジョンソンはユーモアを交えて描いている。主人公が暗殺されそうになっているのに、逆に暗殺者をどうやって殺すかをずっと練習するシーンなんて読むと、ジョンソンは太々しいというか、大した作家ですよね。

藤井:視点が冷めているところがあちらこちらで見受けられますね。そういう場面でユーモアをすっと出せるというのは、本人の資質でもあるんですが、登場人物たちの思いこみに対して共感しすぎていないということもあります。

都甲:ジョンソンには実際のベトナム体験はありませんよね。オブライエンなら実際に行った人が語る、というノンフィクションのふりをしながら、それをどうフィクションにもっていくかという話になるけれども、ジョンソンの場合、同時代にフィリピンや日本に住み、ベトナムに行く兵士の姿をじかに見ていながら、自分では戦っていない。

藤井:1948年生まれですから年代的には行っていてもおかしくないのですが、行っていないことで逆に、自分の直接体験に囚われすぎることがなく、少し冷めた視点で少し距離を置いた物語の作り方が出来るのかなという気もします。登場人物はフランス人もアメリカ人も、ベトナムで哲学的な妄想を勝手に膨らませていますよね。本人たちにとっては結構深刻なんですけれど、ベトナム人たちからすると理解できない世界しょうね。

第7回配本『煙の樹』2010.03.02


エクスリブリス
特色

欧米はもとより、ラテンアメリカ、ロシア、東欧、アジア、オセアニア、アフリカまで、まさに「世界の文学」を幅広く紹介していきます。

頭角を現し、注目を集めている新人、気鋭から、隠れた名作家まで、今こそ読んで新しい、ユニークで意欲的な作品を厳選します。

柴田元幸、岸本佐知子、岩本正恵、野崎歓、鈴木仁子、沼野恭子ら第一線の翻訳家をはじめ、藤井光(アメリカ文学)、渋谷豊(フランス文学)、松本健二(ラテンアメリカ文学)ら新進翻訳家を積極的に起用します。

装丁家、緒方修一による、各作品にふさわしい清新なデザイン、瀟洒な造本、読みやすい本文レイアウトでお届けします。


推薦のことば

「期待の現代文学」
 柴田元幸

世界のいろんな場所で、日々いろんないい小説が書かれ、出版されている。だから、「この本をぜひ出したい」という編集者がいて、「この本をぜひ訳したい」という翻訳者がいて、その情熱を共有する人間が周りに何人かいれば、とてもいい現代文学のシリーズが出来ると思うし、事実このシリーズ、かなりそうなりつつあります。

「太陽との距離」
 古川日出男

世界には中心はない。ある偉大な作家がAという地域にいても、Aこそが核だ、とは断言できない。ある革新的な作品がBという国(の言語)で書かれていても、Bの国語こそが今後の文学の核となる言語だ、とは判断できない。だが地球上のどんな場所も、太陽とは等距離だ。それを理解した新しい“本”だけが、ここに世界文学として届けられるだろう。

「本を片手に旅するように」
 桜庭一樹

飛行機に乗ったら世界が、「おぉ!」ぎゅんと狭くなるように。タイムマシンに乗ったら、「あれ?」過去がもうすぐ外に在るように。「エクス・リブリス」の本たちが思わぬ空間と時間に連れてってくれるとよい。あてもなく旅をするように、気楽に、刺激的に世界文学を読み続けることができたらそれだけで幸せです。


今後のラインナップ

ヴィルヘルム・ゲナツィーノ
 鈴木仁子 訳
『そんな日の雨傘に』
(ドイツ)
第9回配本・2010年6月上旬刊行予定

エドワード・P・ジョーンズ
 小澤英実 訳
『地図にない世界』
(アメリカ)

ポール・トーディ
 小竹由美子 訳
『ウィルバーフォース氏のヴィンテージ・ワイン』
( イギリス)

カルロス・バルマセダ
 柳原孝敦訳
『ブエノスアイレス食堂』
(アルゼンチン )

ジョー・ブレイナード
 小林久美子訳
『ぼくは覚えている』
(アメリカ)

ペール・ペッテルソン
 西田英恵 訳
『馬を盗みに』
(ノルウェー)

オルガ・トカルチュク
 小椋彩 訳
『昼の家、夜の家』
(ポーランド)

ラウィ・ハージ
 藤井光訳
『デ・ニーロのゲーム』
(レバノン)

サーシャ・スタニシチ
 浅井晶子 訳
『兵士はどうやってグラモフォンを修理するのか』
( ボスニア・ヘルツェゴビナ)

オラフ・オラフソン
 岩本正恵訳
『ヴァレンタインズ』
(アイスランド)

アルベルト・ルイ・サンチェス
 斉藤文子訳
『空気の名前』
(メキシコ)