ダークな作品の目立ったカンヌ映画祭
カンヌ映画祭のセレクションを決めるジェネラル・ディレクター、ティエリー・フレモーによれば、今年はグランクリュの年だったという。クエンティン・タランティーノ、ケン・ローチ、ジェーン・カンピオン、ラース・フォン・トリアーら、パルムドール歴のある監督たちの新作を筆頭に、層の厚いラインナップとなったためだ。だが終わった後に振り返ると、ずいぶんダークで屈折した作品が多かったという印象がある。会場でブーイングが何度も響き、受賞結果に対しても同じ反応が起こった。
パルムドールに輝いたのは、ミヒャエル・ハネケのLe ruban blanc。第一次大戦前夜の田舎を舞台に、美しいモノクロの映像で人間の奥底に潜む悪意や狂気をすくい取り、ファシズムの萌芽を象徴した。ハネケがいまだパルムドール未経験で、今年の審査員長が彼と縁の深いイザベル・ユペールであることから下馬評が高かったが、この監督らしい後味の悪さを残す作品だけに評価は分かれた。
ハネケと並んでパルムドール候補と言われていたのが、グランプリに輝いたジャック・オディアールのUn prophète。6年の刑を受けた19歳の少年が、やるかやられるかの腐敗した刑務所で徐々にのし上がっていく話を詩的に、ストイックに描く。ただしストーリー自体に目新しさがないのが惜しいところ。同胞フランス人に評価の高かったのが、特別功労賞を受賞したアラン・レネのLes herbes folles。ノンシャランでユーモラスなコメディだが、レネ特有のユーモアに慣れていない海外の批評家の受けはいまひとつだった。コメディではむしろ、元サッカー選手エリック・カントナの出演したケン・ローチのLooking for Ericが人気だった。
華やかさという点で注目を集めていたのは、ブラッド・ピットが出演したタランティーノの『イングロリアス・バスターズ』。第二次大戦中、打倒ナチを目指すユダヤ人兵士たちを描き、映画の引用を散りばめたポップなタランティーノ節のなかにも残虐な描写が目立った。
もっとも論争を呼んだのは、シャルロット・ゲンズブールが精神に異常をきたしたヒロインに扮し女優賞を獲得したフォン・トリアーのAntichrist、東京を舞台に、死後に幽体離脱した主人公の視点で兄妹の絆を描いたギャスパー・ノエの、セックス描写が多いSoudain le vide、新婚の若き夫が成り行きで娼婦のリンチ殺人事件に加担し、ショッキングな殺戮シーンがクライマックスにある、フィリピンのブリラント・メンドーザによる監督賞受賞作Kinatay。噂では審査員の選考は大いにもめたらしいが、結果的にタブーに挑む前衛的な作品が評価される形となった。


