フランス受験産業事情
「バカロレア(大学入学資格試験)に通らなかったら授業料全額返金いたします」
フランスの最大手学習塾アカドミアの新戦略は効果上々、9月中旬に広告を出したら、1週間で320件の新たな契約(登録者)があったそうだ。
このニュースにリュック・シャテル国民教育相は「バカロレアは売り買いされるべきものではない」と不快感を示し、対するアカドミア社長は、「交通機関にだってバスとタクシーがある。近年、学校が休み時間や休暇中に導入している補習だの補講だののほうが、我々民間企業の領域を荒らしている」と応酬した。
受験産業先進国、日本の読者には、なんと牧歌的、あるいはトンチンカンに見える光景ではないだろうか。
小学生時代から、クラスの半数以上が塾に通うという日本とは異なり、フランスでは塾産業はほんとうに細々としたものである。その分、子どもの学習の面倒を見る責任は親にあり、勉強を見てやる能力のある親を持つか持たないかで子どもの学力に差が出る、つまり高学歴の親が高学歴の子どもを再生産するという構図は、近年声高に「格差社会」が叫ばれている日本より、ずっと徹底しているのではないかと思われる。
私はフランスの高校生が、バカロレア試験を前にして、まだ親に勉強を見てもらうのを目にしてたまげたことがあるが、自立して勉強ができないのもさることながら、予備校が発達していないことも理由にあげられるのかもしれない。
アカドミアは、年間60時間の講習と休暇中の3回の集中講義、週平均2時間程度の受験指導を2940ユーロ(39万3800円)で請負い、バカロレア取得を約束する。
しかし2009年、フランスのバカロレア成功率は86%。しかもこれまでの実績からして、アカドミアの顧客層には最低レベルの生徒は入らない。とすれば、払い戻しのリスクはほとんどない。
バカロレアという「資格試験」と日本の「入学選抜試験」の性格の違いに由来するとはいえ、受験産業もずいぶん甘いレベルで商売するものである。考えてもみよう。日本で、「志望校に合格」ではなく「どこでもいいから大学一校必ず受かります」では商売にならないだろう。
フランスでも、せめて「マンションつき」つまり、バカロレアで高得点を挙げ、選抜試験のあるエリート校、グランド・ゼコールへの受験準備資格を取るくらいは目標にするべきではないだろうか、と受験大国から来た者は余計なことを考えてしまう。しかし、これも塾が乱立などしておらず、受験産業が加熱していないという証だから、喜ばしいことなのであろうか。


