第30回 「ベルベル語」石原忠佳

リレーエッセイ「ことば紀行」
第30回 「ベルベル語」石原忠佳

ベルベル語
【主な使用地域】北アフリカ
【話者数】約950万人(モロッコ640万人、アルジェリア230万人、ニジェール130万人、リビア6万人、モーリタニア3万人、その他エジプト、チュニジア)
【使用文字】ティフィナグ文字


学校の入り口を示す看板
(憲法改正後のモロッコでは、アラビア語、フランス語、ベルベル語の3ヶ国語での表示が目につく)

ベルベル人は北アフリカの先住民族
 北アフリカに居住していた先住民族が「ベルベル人」である史実は、世界はもとより本邦でもあまり知られていない。北アフリカ一帯は8世紀にアラブ人による支配を受け、それ以降長きにわたってベルベル人の言葉は公には使用が禁止され、文字も忘れ去られてきた。そのため、ベルベル文化やベルベル語の調査は、近年まで極めて困難な状況にあったからである。事情が変わったのは2000年代に入ってからで、1999年にモロッコの前国王であったハサン2世が死去すると、ベルベル人の母親をもつ息子のムハンマド6 世は王位を継承した後、ベルベル語教育を公認した。こうして2003年に「ティフィナグ」と呼ばれるベルベル文字がベルベル語教育の場に導入されたが、国内のベルベル語話者は640万人に達していたにもかかわらず、モロッコ王国が国家としてティフィナグ文字を使った教育を公式に認可したのは、遅まきながら2011年の憲法改正の時点である。
 さて、アラブ人がアラビア半島から北アフリカの地にやってくる以前には、ベルベル語の使用地域は、西は北アフリカ大西洋岸から東はエジプトのシーワ・オアシスに至り、さらに南北の広がりは、北回帰線(北緯23度26分22秒)から地中海沿岸に至るアフリカ大陸の広大な地域であったとされている。今日ベルベル人の多くが居住するのは、モロッコとアルジェリアであるが、書き言葉としてベルベル文字を使用する住民は稀であったため、ベルベル人相互間の話し言葉でのコミュニケーションは、双方の国の国内においてもほとんど成立しない。またチュニジア、リビア、エジプト、さらにはモーリタニアにおいては、自らの伝統・文化の保存を求めて、ベルベル部族社会が中央政府への抵抗運動を続けてきた。その一方でマリやニジェールでは、ベルベル語の使用が今日でも健在で、中央政府によってベルベル語は公用語の一つとして認知されている。
 とはいうものの、北アフリカのほとんどの国では今もってなお、言語使用に基盤をおいた人口調査が実施されておらず、ベルベル人たちはアラブ系イスラーム住民の中に組み込まれて登録されてきた。
 いずれにせよ、憲法によって言語規制が緩和された今日のモロッコでは、ベルベル人の言語や文化にまつわる研究は、今後どのような方向性を辿るのであろうか。
(創価大学教授)

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