パク・ミンギュ「たこやき・ピンポン」

 私が執筆のために使っている部屋の近くの道路ぎわに、毎晩、一台のトラックが出勤してきます。小さいトラックです。荷台の側面には日本語が書かれたきれいな提灯がぶらさがっており、若い主人が座って作業しています。彼はとても忙しそうです。スッ、スッ、スッ、スッとピンで生地をひっくり返して、回して……それ何ですか? と尋ねてみると「たこやき」という可愛らしい名前を教えてくれました。後でわかったのですが、私以外の人はみんな、たこやきのことを知っていました。そしてたこやきは、なんで僕だけ知らなかったんだー! と満月に向かって吠えたくなるほど、お・い・し・か・っ・た・です。
 若い主人は大阪でこの秘法を学んできたと言っていました。それで私も、ああ、雑誌や映画でいつも見ていたこの謎の人物――←まさにこの方の正体がわかったような気がしました。そんなことは絶対ないでしょうけど、私はこの方がたこやきをどっさり召し上がって、ああ美味しい~、もう最高~、と泣きながら駆けてくる男!であると規定することにしました。あなたの気持ちはよくわかります、地球の果てまで駆けて下さい。
 ところでグリコというのは何なんだろう? ユーレカ、みたいな嘆声の一種なのかな? 真理を悟ったらユーレカ! たこやきを食べたらグリコ! と叫ぶものなんだろうか? と阿呆みたいなことを考えているうちに、私はその若い主人と仲良くなりました。ある日、ゆっくりと焼けていくたこやきを眺めていると、またこんなことを考えつきました。たこやきを最初に作った人は絶対卓球が好きだっただろうと……それでこんなに美味しいピンポン玉を作られたのだろうと。グリコ!
 グレイ型宇宙人が登場する前には、タコ型宇宙人がメインの時代がありました。私は、あの遠い宇宙のどこかにある、タコたちが集まって暮らしている危険な小惑星について考えてみました。海で覆われたその惑星(タコの星だから当然ですね)では、ゴジラより巨大なマグロたちが力強く泳ぎ回っていることでしょう。ある日、その小惑星が地球に向かって突進してきます。地球は大混乱になります。大気圏を突破したその惑星は火に包まれ……あ、あちちっ! と巨大マグロたちは水面上に出てきます。その瞬間マグロは乾燥し、空気との摩擦がかんながけ効果を起こし、マグロはたちどころに天然カツオブシと化して惑星の表面にくっつきます。まあありえない話ですけども、その間にもタコたちはよ~く焼けており、このようにしてふっくらと焼き上がった小惑星が地球めがけて落ちてくると……今後百年、地球村はたこやき祭りです。食い倒れ! 最近私は、「くいだおれ」というハングルのタトゥーを腕に入れたアメリカ人に会いました。何のことかって? こんなばかみたいなことをずっと書いてきた理由は、

 本の序文にも書いた通り、「安心して下さいね」ということを、今日集まってくださった皆さんに伝えたいと思うからです。理由はわかんないですが、とにかく、いったん、安心してみましょう。いや、理由ははっきりしています、お互いが安心して初めて、次の一言が伝わるんですから。そうです、「ありがとうございます」という一言を私は心から皆さんにお伝えしたいのです。安心して、感謝して、感謝して、安心して、ピンポン、ピンポン……翻訳・出版に力を尽くして下さったすべてのみなさんと、そして何より読んで下さるすべてのみなさんに心から感謝します。人間は思ったよりばかですが、地球は思ったより頑丈です。意外に頑丈な地球から、たこやきが存在する地球から、しかもこんなにもご近所から、釘とモアイに代わりましてご挨拶申し上げます。

韓国にて  パク・ミンギュ

*本エッセイは2017年5月22日に東京神保町・チェッコリで開催されたトークイベントのために、『ピンポン』著者のパク・ミンギュ氏から寄せられたものです。(翻訳:斎藤真理子)

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