第36回 解説

次の会話を中国語に訳してください。

A:課長のお土産もらった? 味噌味のチョコだって。
B:さっき食べたけど、あれはないね。ありえない。
A:なんでああいう変なもの買ってくるかね。
B:お土産なんて普通でいいのにね。

1)課長のお土産もらった?


 「係長」「課長」「部長」「社長」など、日本の会社組織の肩書きを中国語に訳すときはちょっと厄介です。そのまま中国語にすると意味がわかりにくかったり、ランクが違っていたりするのです。例えば、中国語には“系长”という肩書きはありませんし、“部长”は日本語の「○○省大臣」の意味になってしまいます。そもそも日本と中国の会社組織はまったく同じではないため一概には言えませんが、「係長」「課長」「部長」「社長」にほぼ相当する言い方は以下のとおりです。

  係長 = 股长
  課長 = 科长
  部長 = (部门)经理
  社長 = 总经理

 「お土産」についても、訳すときには注意が必要です。直訳の“特产”“土产”“土特产”などは「その土地の有名な特産品、名物」という意味で、郷土色のあるものをイメージさせます。しかし、日本語の「お土産」は必ずしもその土地の特産品というわけでなく、人を訪問するとき持って行く贈り物などを指すこともあり、使用範囲が広いですよね。例えば、東京の人が地方へ出張するとき持っていく人形焼なら“特产”などと言えますが、どこでも売っていそうなクッキーの詰め合わせだったら“特产”などとは言えません。
 ところが、今や人形焼だってどこでも買える時代になり、特産品かどうかの境界線はあいまいになりました。ですから、日本語の「お土産」は“礼品”と訳すのが無難でしょう。ただし“礼品”だけでは「プレゼント」というイメージもあるので、“科长带来的礼品”のように“带来的((ほかのところから)持ってきた)”を付け加えると、より日本語の「お土産」の意味に近くなります。ちなみに、最近日本語の「お土産」と同じ意味の“伴手礼bànshǒulǐ”もよく聞かれるようになりました。そのうちもっと広く使われるようになるかもしれません。
 また、「もらう」という意味の動詞はたくさんありますが、「(お土産を)もらう」の場合は“收到”をよく使います。
 したがって、文全体は“你收到科长带来的礼品了吗?”となります。これでも問題ありませんが、目的語“科长带来的礼品”はちょっと長いので、これを文頭に置いて“科长带来的礼品你收到了吗?”とすると全体のバランスがよくなります(chachaさん、よくできました!)。このように目的語を文の頭の部分に移動し、文のテーマとして際立たせることを文法上「主題化」と言います。

2)味噌味のチョコだって

 もともと「味噌」は中国語で“大酱”または“黄酱”と言いますが、日本の料理名や食材名が漢字であれば、それをそのまま中国語の発音で言う傾向があります。「味噌」もそのまま中国語読みして“wèizēng”と言う中国人が非常に多いのですが、じつは辞書には“噌cēng”という発音しか載っておらず、“zēng”は誤読です。しかし、「嘘も1000回言えば真実になる」じゃないのですが、ほとんどの人が“wèizēng”と発音すると、本来の“wèicēng”という読み方が逆に間違いのようになってきてしまいました。こういうややこしい事情を避けるために、今のところはやはり“大酱”または“黄酱”と訳しましょう。
 全体で“竟然是大酱味的巧克力!”というふうに訳してみました。「なんと、意外にも」という意味の副詞“竟然”を使っているのは語気を強めるためです。(イナゴさん、よくできました!)

3)あれはないね。ありえない

 これを“那个没有。不可能有。”と直訳しても、なにを言っているのかさっぱりわかりませんので、意訳する工夫が必要です。原文で言いたいのは「まずいね、こんな食べ物は許せないよね」ということですから、この気持ちを表すために、以下のように訳してみました。

  什么玩意儿啊?难吃死了!

 “玩意儿”は物や事柄をけなして言う表現で、“什么玩意儿啊?”は「なんだそれ?」という意味の慣用句です。“死了”は程度が甚だしいことを表す程度補語ですね。
 みなさんの投稿では、“不像话(ひどい、話にならない)”という訳語もありましたが、“不像话”はふつう言動や事態について使うので、ここではちょっと使いにくいです。

4)なんでああいう変なもの買ってくるかね

 投稿してくださった方の多くは“他为什么买来那种奇怪的东西呀?”というふうに訳しました。これでまったく問題なく、教科書式の模範解答と言ってもよいでしょう。しかし、実際の会話では、よく以下のような言い方をします。ぜひこのネイティブらしい表現をマスターしましょう。

  你说他怎么偏买那种古怪的东西呀?

 “你说”は相手の意見や同意を求めたりするときによく使います。「なんでああいう変なもの買ってくるかね」には、AさんがBさんに同意を求めるニュアンスが含まれているので、“你说”という表現がぴったりですね。
 “为什么”と“怎么”はどちらも「なんで、どうして」という意味の疑問詞ですが、“怎么”は“为什么”に比べて、意外さやいぶかる気持ちが含まれるので、ここは“怎么”のほうが◎ですね(イナゴさん、一二功夫さん、西公民館火曜夜クラスさん、よくできました!)。
 “”は“偏偏”とも言い、「よりによって;ほかでなく」という予想や期待に反する意味を表す副詞です。この“”を使うことで、「お土産にふさわしいものはいくらでもあるのに、よりによって味噌味のチョコレートかよ!」という語気を表せます。(theophilusさん、よくできました!)
 「変なもの」は“奇怪的东西”でも問題ありませんが、“奇怪”より、「変わっている、変てこだ」という意味の“古怪”のほうがより原文に近いと思います。

5)お土産なんて普通でいいのにね

 わりと原文に近い言い方として、“礼品嘛,一般的东西就行了。”のように訳して問題ありません。投稿してくださった多くの方がこのように上手に訳していました。ここからは、一歩進んで、よりネイティブらしく言い方を習いましょう。

  可不是!送点儿一般的东西不就行了嘛。

 原文の文末に同調の語気を表す「ね」を使っているので、中国語訳には同じ語気を表す“就是”や“可不是”を文頭につけましょう。
 “点儿”は“一点儿”の略で、必須ではありませんが、あったほうがより語気がやわらかく、会話らしくなります。“就行了”だけでもいいのですが、ちょっと淡々とした感じなので、“不就行了嘛”という反語的な言い方にすれば、より語気が強くなります。

 いかがでしょうか。今回はネイティブらしい表現がたくさん出てきましたね。ぜひ活用してみてください。
 さて、今回も皆さんの知恵を集めて、以下の訳文を作りました。ほんの一例ですが、参考にしてもらえれば幸いです。

A:科长带来的礼品你收到了吗?竟然是大酱味的巧克力!
B:我刚才尝了尝,什么玩意儿啊?难吃死了!
A:你说他怎么偏买那种古怪的东西呀?
B:可不是!送点儿一般的东西不就行了嘛。

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