内容説明
人気画家が刊行80年後の舞台を新たに描く
木村荘八の挿絵から名作の舞台を探る異色作
永井荷風の名作を飾った木村荘八の挿絵を人気画家が詳細に検証、舞台となった玉の井を中心に、刊行80年後の風景を新たに描く異色作。
永井荷風の代表作『濹東綺譚』が朝日新聞に連載されてから、2017年で80年。今さら作品の内容について説明することもないが、名作を名作たらしめた要因の一つに、木村荘八の挿絵が重要な役割を演じたことは異論を待たない。 昭和11年10月に『濹東綺譚』脱稿後、朝日新聞に掲載される翌12年4月から5月にかけて、木村荘八は作品の主な舞台となる玉の井を中心に取材を重ね、独特の線で名作に花を添えた。
いつか『濹東綺譚』の挿絵を描いてみたい――本書は人気のイラストレーターが、風景の詩人と評された荷風の視線を辿りながら、追憶の街並みを甦らそうとした意欲的な画文集である。
玉の井は昭和20年3月10日の東京大空襲で、脂粉の香り一つ残さず焼き尽くされた、わずか20数年の歴史しかもたない私娼街だった。路地入口の「ぬけられます」などの看板は、逆にその奥が陋巷であることを示していたという。
著者は偏奇館のあった麻布から、銀座、浅草、向島、そして玉の井へと、荷風と同じ足取りを歩みながら、名作の原風景を木村荘八のように探し求めていく。
[著者略歴]
唐仁原教久(とうじんばら のりひさ)
1950年鹿児島県生まれ。1984年デザイン事務所HBスタジオ設立。1985年HBギャラリー開廊。イラストレーター、アートディレクターとして、広告、装丁、雑誌などを中心に多くの作品を手がける。「雨ニモマケズ」「雨のち晴れて、山日和」など著書多数。TIS、JAGDA会員。