トレーシー先生は机の上のメモを見つめた。「ええ、今日、このクラスに転入してくる女の子がいるの。もうすぐくるわ。名前は、ジェシカ・フィーニー」
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「ジェシカは、ひどい事故にあっているのです」先生はいった。
何人かの生徒がせわしなく身動きして、イスがガタガタいった。
「火事にあったのよ。そして、やけどを負ったの。ひどいやけどをね。ニューヘーヴンの病院で治療を受けるあいだ、セントキャサリンに通学することになります」
キャッと声をあげる女の子もいた。まるで自分がやけどをしたみたいに。ぼくたちがだまったまま見つめていると、先生は話をつづけた。
「どれくらい、ジェシカがこのクラスにいることになるかはわかりません。でも、心の準備をしてほしいの。ジェシカのやけどは……たぶんみなさんがいままで……いままで見たことのあるどんな人のやけどともちがうはずよ」
先生の声は一瞬つまって、きこえなくなった。すわったままかたまっている子もいた。机の上のものをごそごそいじりはじめる子もいる。ぼくはそわそわしてきた。なんだか、悪いことをしているのを見つかったときみたいだ。
「でもみなさんなら、友だちとしてあたたかくむかえてくれると信じています」
先生はまた言葉を切った。先生が話しおえたとき、波のようなものが教室の上をとおりすぎていくみたいな感じがした。ぼくは、胃のあたりがこおりついたようなみょうな気分だった。おなかがぺこぺこか、すごくいっぱいなときみたいに。汗がどんどん出てきて、おでこがしめってくるし、腰のあたりもぐっしょりだ。
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ドアの外で、なにかが起こっている。
とうとうきた。おそろしいことが近づいている。だれか、その女の子を見て悲鳴をあげたり、なにかいったりするかな? ぼくはなにかいうんだろうか? ホラー映画みたいなのかな? おぞましい生きもの? それとも、それほどひどくはないのかな?
母さんはしょっちゅうコンロでやけどをしている。つい先週も、したばかりだ。やけどの跡は真っ赤で、たまにちょっと白くもなる。だけど、それほど醜くはない。きっと、そこまでひどくはないんだろう。
「ここ、病院にいちばん近い学校でもねぇのに」ジェフがいった。机の上をじっと見つめている。
「えっ?」ぼくはジェフのほうを見て、それからドアに目をやった。トレーシー先生がドアに近づいていって、ノブをまわした。
きっと、ひどいんだ。ぜったい、そうだ。
「あいだにいくつも町がある。ここ、いちばん近いカトリックの学校じゃないんだぜ」ジェフがいった。
ぼくは、先生がドアをあけるのをながめていた。左手を廊下のほうにのばす。顔を半分、教室のほうにむけている。先生の顔が青白くなった。そしてとうとう、いつもよりちょっと大きな声でいった。「みなさん、あたらしい仲間を紹介します」
先生は、女の子の手をとると、教室のなかに引きいれた。「さあ、みんなでジェシカにあいさつしましょう」
どんなにぞっとする姿をしているんだろう、やけどした人ってどんなんだろう……ぼくは想像した。だけどどの想像も、教室に入ってきた姿とはくらべものにならなかった。
最初にみんなの目にとびこんできたのは、ジェシカ・フィーニーの顔だった。仮面みたいだ。ぼくはジェシカを見つめ、それから目をそらし、また見つめた。自分が見ているのが生きている人間の顔とはとても思えない。
(本文より)
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ファイヤーガール
トニー・アボット著/代田亜香子訳 税込価格1,575円 (本体価格1,500円) 新学期、ひとりの転校生がやってきた。クラスのみんなが息をのむ。その子は、これまでだれも見たことがないような姿をしていた! いじめや友情、そしてほんとうの勇気とはなにか? |



