母さんが死んだら あたしは死ぬよ
ほんとだから
あたしは死ぬ
あ、ちがう 死ぬじゃない
自殺する、っていうんだ
または 自分で命をたつ
そういうことで
母さん
母さんが死んだら
あたしは命をたつよ 自分の手で
科目 国語
クラス 七年C組
名前 イェンナ・ヴィルソン
あのね、話したいことがあるの。
母さんは、たしかにそういった。あの声で。大人の声だ。イェンナは、母さんの寝室の敷居の上に立っている。ぬいぐるみのラグナーをしっかりとわきにかかえて。母さんはベッドに横たわっている。けばだった毛布にくるまって、深刻そうな顔をしている。
あのね、話したいことがあるの。
母さんは、たしかにそういった。イェンナは答えた。なあに? いってみて! いや、もっとべつの言葉だったかもしれない。はっきりとは覚えていない。もう、ずいぶん前のことだから。
七年と四か月と十六日、前。
イェンナが思いきってミッキーマウスのくつ下をはいた足をふみ出すと、床板がきしむ音がした。ゆっくりと母さんに近づいていって、やわらかいベッドのはしに腰をおろす。
母さんはイェンナの手をとった。窓の外では、雪がふっている。雪は窓ガラスにぶつかっては、くずれていく。
雪も痛いのかなあ、とイェンナは思った。
イェンナ。母さんは、ひろい部屋のなかでさまよっているイェンナの視線をとらえた。
イェンナ、聞いてる?
イェンナはうなずいて、ラグナーを抱きしめた。強く、強く。
あのね、イェンナ。母さんはつづけた。母さん、具合いがわるいのよ。吐きそうとか、そういうんじゃないの。イェンナがイースターの時になったみたいにね。わかる? そうじゃないのよ。そういう具合がわるいんじゃなくて、もっと、そうね、たいへんな病気なの。
今日、お医者さんへ行ってきたのよ。そしたら……
母さんは、ずっとつづきをいわない。
イェンナは待った。
ラグナーも待った。
窓の外の雪は、次々にくずれていく。
イェンナ。母さんね、ガンなの。おっぱいに、ガンができたのよ。
6
まったく。ほんとうに、情けないほどイェンナの胸は小さい。イェンナは、自分の部屋で鏡の前に立っている。今日は木曜日だ。外では雨がふっている。そして、情けないほど胸は小さい。
「どういうこと?」イェンナは、床に寝ころんでティーン雑誌を読んでいるスサンナに話しかけた。「あたし、どっかおかしいと思う?」
「なにが?」スサンナはいった。
「胸」イェンナは、トレーナーを指さしていった。「ぜんぜんないんだもん」
「すこしあるじゃない」つい最近、ブラを使いはじめたスサンナがいった。
イェンナは、たんすのところへ行って、いちばん上のひき出しを開けた。まるめたくつ下を二つとって、トレーナーの下に入れる。スサンナは笑いだした。
「それ、おかしいよ!」
「なによ、いいでしょ!」イェンナはいい気分で、鏡の前で体をくねらせる。「胸に見えない?」
「見えない。まるめたくつ下に見える」
イェンナは、くつ下をとり出した。イェンナは傷ついていた。ほんとうに傷ついていた。サッケは、イェンナのことを好きではないし、たぶん一生好きになってはくれないだろうし、明日はウッリスのところでパーティがあって、イェンナは行きたいのに、すごく行きたいのに、絶対行けないこともわかっている。
「最悪。あたしって、なんでこんなにヘンなんだろう」イェンナは、ため息をついた。
「ヘンなんかじゃないよ。ちょっと発育がおそいだけじゃない」
「スサンナ、それって同じことだよ。発育がおそいなんて、だめじゃん。ヘンだよ」
「そんなことないよ。前になにかで読んだけど、胸を大きくする手術をしようとした女の子が、お医者さんに十九か二十歳になるまで待ちなさいっていわれたんだって。それまで胸の発育が終わらないからって。ほら、まだずいぶんあるでしょ」
イェンナは返事をしない。しぶい顔でもう一度鏡を見る。これが正常? そうだよ、まったく。ああ、むかつく。くそったれ。あたしはただふつうになりたいだけなのに。ほかのみんなと同じように!
|
天井に星の輝く ヨハンナ・ティデル著/佐伯愛子訳 13歳のイェンナは母と二人暮らし。一番の悩みは同じ棟に住む男の子のこと。でももうひとつだれにも言えない悩みがあった。それは、母親が数年前から乳がんをわずらっていること―― |



