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ちょっと立ち読み
裁くな、武器をとるな──『パール判事 東京裁判批判と絶対平和主義』

 パールは[…]あくまでも国際法上の刑事責任において「無罪」であるということを主張しただけで、日本の道義的責任までも「無罪」としたわけではない。

 パールがこの意見書で何度も繰り返したように、日本の為政者はさまざまな「過ち」を犯し、「悪事」を行った。また、アジア各地では残虐行為を繰り返し、多大なる被害を与えた。その行為は「鬼畜のような性格」をもっており、どれほど非難してもし過ぎることはない。当然、その道義的罪は重い。

 しかし、「平和に対する罪」と「人道に対する罪」は事後法であり、そもそも国際法上の犯罪として確立されていないため刑事上の「犯罪」に問うことができない。「通例の戦争犯罪」についても証拠不十分であり、A級戦犯容疑者に刑事的責任を負わせることはできない。

 パールは、このような帝国主義国の「非道」を正当に裁くことのできない国際社会の限界を冷静に指摘した。そして、そのような状況に鑑み、「世界連邦」の実現に向けて人類が一致して努力すべきことを訴えた。また、国際法の整備と確立を進め、法を真理に近づけるべく努力することこそが「文明」の使命であると説いた。

 彼は「政治」が「法」の上位概念になることを厳しく批判し、その観点から東京裁判の問題点を指摘した。このような裁判を続けていれば、「戦争に勝ちさえすれば国際法を無視して都合よく裁判を行うことができる」という認識を広めることになり、戦争の撲滅どころか国際秩序の崩壊すら招きかねない深刻な状況に陥ると訴えた。彼にとって東京裁判は、「文明の裁き」どころか「文明の退化」を意味する極めて問題のある裁判であった。 (第三章より)

*   *   *

 ──東京裁判を忘却し、アメリカ依存を強める日本。戦争の悲惨を誰よりも知っているはずの日本人が、なぜ無批判に再軍備の道に進もうとするのか? なぜ、朝鮮戦争をサポートするのか? なぜ東京裁判の問題を検証しようとしないのか?

 パールは、東京裁判を忘却のかなたに押しやろうとする日本人にたいして失望と憤りを素直にあらわした。敗戦の衝撃で「背骨を抜かれ」、すべてをアメリカにゆだねる思考様式が確立してしまった日本を、彼は心から憂えた。「長いものには巻かれよ、強い者には屈服せよ」という戦後日本の精神に対して、パールは激しく憤慨した。

 […]彼は、碑に菊花を手向け、黙祷を捧げると、通訳のA・M・ナイルに碑文の意味を尋ねた。

 ──「安らかに眠ってください 過ちは 繰返しませぬから」

 […]パールは碑文の意味をナイルから聞くと、何度も繰り返し問いただした。そして、その意味が明確になってくると、パールは憤りの表情を浮かべて言った。

 この碑文に「過ちは再び繰返しませんから」とあるのはむろん日本人をさしていることは明かだ、それがどんな過ちであるのか私は疑う、ここにまつってあるのは原爆犠牲者の霊であり、原爆を落としたのは日本人ではないことは明りょうである、落したものの手はまだ清められていない、[…]過ちを繰返さぬということが将来武器をとらぬことを意味するならそれは非常に立派な決意だ、日本がもし再軍備を願うなら、これは犠牲者の霊をボウトクするものである。

(第五章より)

国際協力師になるために
もっと詳しく
パール判事
 東京裁判批判と絶対平和主義

中島岳志著
税込価格1,890円 (本体価格1,800円)

東京裁判で被告人全員を無罪としたインド人裁判官パールは、「世界連邦」の樹立と日本の再軍備反対・平和憲法の死守を主張しつづけた。アジアの自主こそ真の道と説いた妥協なき生涯を描く。

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